エンジン搭載車はいつ消える?
2023.02.09 あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジン搭載車は、一部のメーカー・ブランドで言われているとおり、本当になくなってしまうのでしょうか? なくなるとしたらそれはいつごろになりそうか。多田さんの見解をお聞かせください。
この問題は、技術的なことよりも政治的な思惑によるところが大きいと思います。現実的には、画期的な“エンジンに取って代わるもの”が出てきて、しかもクルマの価格が同程度以下になるというのは、なかなか想像しがたいですね。
もっと懸念されるのは、インフラの問題です。例えば電気自動車(EV)の普及を考えても、世界の奥地まで安定してバッテリーや電力を供給できるようになるにはかなり時間がかかります。
つまり、純内燃機関は、これからも長期間にわたって残っていくと思います。自動車メーカーが「すべての新車をEVにする」と宣言するのは、どちらかというとデモンストレーション的といいますか、会社のスタンスを明確にする意味合いがあって、世の中の完全な総EV化・脱エンジンというのは、かなり難しい……。
私はよく、「次の時代のクルマとしてベストなのは、EVですか?」と尋ねられるのですが、環境問題とか、総合的な自動車の性能で考えるなら、明らかに優れているのは燃料電池車(FCV)だといえるでしょう。プロダクトとしては、EVの一歩、二歩先を行っている。でもこれも、前述のとおりインフラの問題で普及させることは難しくなっています。さらに、車両開発においてトヨタが他社より先に行き過ぎているという現実もあります。FCVを普及させる仲間を増やすべく、特許など技術に関する重要な情報を開示してはいるものの、それだけでは他社がキャッチアップできないほどの差がついてしまったため、業界全体として(もうFCVは諦めて)EVの量産を目指そうというムードになっている面もありますね。
純エンジン車の話に戻りますと、いつまでとは言い切れないけれど「しばらく続く」のは間違いない。でも、いずれすべてがEVに取って代わられるかというと、EVなのかなぁ……という疑問は残ります。いまはまだ、FCVの芽は残っているという気はしますね。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。