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SUVタイプのPHEV!? BMWの新たなM専用モデル「XM」に思うこと

2023.02.20 デイリーコラム 西川 淳

昔と今では「M」が違う

「M1」以来となる約半世紀ぶりのM専用モデル。「BMW XM」は、必ずといっていいほどそんな風に紹介される。けれどもこのフレーズはXMの本質に迫る手助けには必ずしもならない。むしろミスリードしてしまうのではないか。

確かにM1は偉大なミドシップスポーツカーだった。BMW Mの名において市販された最初のロードカーであり、もちろんベースモデルが存在しないという意味でM専用モデルであった。

けれども、半世紀前と現在とではMそのものの意味や価値がまるで違っている。なんなら、組織もまるで違う(会社としては分断されている)。それゆえ、この新しいM専用モデルがミドシップスーパーカーとかけ離れた存在であることを必要以上にさめた目で見る必要はないし、BMW Mとしてもそのような目で見られてしまうことは、不本意を通り越して困惑事であろう。

XMとは何者か? それを知るにあたって、取りあえずM1のことを忘れてしまってほしい。そのうえで“M”の本筋とは何であったかを再確認し、そこからXMの意味をつまびらかにしてみる、という趣向はどうだろう。そう考えた私は、この原稿を記す直前まで、最新のMモデルであり、Mのロードカービジネスにおける核心的な存在であるというべきMモデル、「M3コンペティション」を駆って、いま一度Mの本質について思いを巡らせることから始めてみた。

Mモデル(今で言うMハイパフォーマンスモデル)が、BMWのスタンダードラインナップはもとより、MパフォーマンスモデルやMスポーツと異なる点は何か? 見えるところはさておき、特に見えない点での違いはどこにあったのか。エンジン? 確かに。Sで始まる型式名の与えられる専用開発のエンジンはMの魅力のひとつだ。ターボが主流になってから多少変質したとはいえ、いまなおスタンダード仕様のエンジンとは一味も二味も違い、その味わいは深い。圧倒的なパフォーマンスを官能的に現出させるという点でM謹製のSエンジンはクルマ好き、運転好きを大いに刺激する。

とはいえ、いまやMパフォーマンスモデル用エンジンのスペックも一昔前のM相当で、十二分だ。速さではほとんど文句のつけようはなく、“M要らず”とさえ思える。むしろドライバーの気をむやみにせきたてないという点で、Sエンジンでないほうも選択肢として残る。

2023年に国内販売がスタートした新型車「BMW XM」。Mモデル以外にグレード設定がない“M専用モデル”として開発された。
2023年に国内販売がスタートした新型車「BMW XM」。Mモデル以外にグレード設定がない“M専用モデル”として開発された。拡大
1978年にデビューした「BMW M1」。初のM専用モデルとなった同車は、3.5リッター直6エンジンをミドシップする高性能スポーツカーだった。
1978年にデビューした「BMW M1」。初のM専用モデルとなった同車は、3.5リッター直6エンジンをミドシップする高性能スポーツカーだった。拡大
「BMW XM」のボディーサイズは全長×全幅×全高=5110×2005×1755mm(ホイールベースは3105mm)。フルサイズSUVと呼ばれる堂々とした車格である。
「BMW XM」のボディーサイズは全長×全幅×全高=5110×2005×1755mm(ホイールベースは3105mm)。フルサイズSUVと呼ばれる堂々とした車格である。拡大
「BMW XM」のバッテリー容量は29.5kWh。満充電の状態から約90kmのEV走行が可能となっている。
「BMW XM」のバッテリー容量は29.5kWh。満充電の状態から約90kmのEV走行が可能となっている。拡大
後部に広い荷室が備わる点は、多くの伝統的スーパースポーツとは異なる「BMW XM」の長所のひとつだ。
後部に広い荷室が備わる点は、多くの伝統的スーパースポーツとは異なる「BMW XM」の長所のひとつだ。拡大
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“今のM専用モデル”としては必然

それでも今、Mモデルをあえて狙う理由は何か? Mハイパフォーマンスの「M3」とMパフォーマンス「M340i」(ともにストレート6搭載)をその場で比較試乗するチャンスがあれば、たちまち分かるはずだ。Mモデルには、官能的なエンジンフィールのほかに、ドライバーの両腕と前輪とが、腰とシートと後輪とが、それぞれ直接的につながることで自在なドライビングフィールを生み出しているという魅力が、他のBMWにはないレベルで備わっているのだった。

M3が誕生した時、BMWといえば「3シリーズ」で、だからこそそのエボリューションモデルをレース車両ベースとして登場させた。E30のM3である。翻って今日、もちろんセダンの3シリーズや「5シリーズ」はいまだにブランドの中核ではあるけれど、人気のカテゴリーがもう一つ増えている。「X3」や「X5」に代表されるSUV、BMW風に言えばSAVだ。当然、メインのマーケットは北米と中国である。

それだけじゃない。電動化という大きな変革期も迎えつつある。さらにはブランドそのものの一層のポテンシャルアップ、台あたり利益を引き上げるための高級化も独立系であるBMWにとっては重要な戦略だろう。ここまで記してきたMブランドの魅力とBMWを取り巻くさまざまな環境とを考えあわせた時、導き出される回答のひとつとして、SUVスタイルで物議を醸す高級モデルの、新規かつ専用での開発は必然であったように思う。

スーパーカーマニアとしてはM1の再来を大いに期待していた。「M4 CSL」が登場したのだから、その流れを望まないほうがおかしい(Mロードカーの事実上の始まりは「3.0 CSL」だった)。おそらくほかにも魅力的なプロジェクトが進行中であろう。と、その前に、現状のビジネスにおける核心(=カテゴリーやマーケット)を考えた時、官能的で高性能なパワートレインを積んで、Mモデルらしいニンブルな、既存の背の高いMモデル以上にSUV 離れしたハンドリングを実現するためには、専用に開発するほうが近道だったのだろう。

XMは、いわば、ブランド戦略の“急がば回れ”である。用意周到でなければならなかったのだ。

(文=西川 淳/写真=BMW/編集=関 顕也)

「BMW XM」のベースエンジンは、4.4リッターV8ガソリンターボ。プラグインハイブリッドシステムとの組み合わせにより、システムトータルで最高出力653PS、最大トルク800N・mを発生する。
「BMW XM」のベースエンジンは、4.4リッターV8ガソリンターボ。プラグインハイブリッドシステムとの組み合わせにより、システムトータルで最高出力653PS、最大トルク800N・mを発生する。拡大
個性的なデザインの23インチホイール。センターには、伝統のBMWエンブレムは使われていない。
個性的なデザインの23インチホイール。センターには、伝統のBMWエンブレムは使われていない。拡大
レザーとアルカンターラがふんだんに使われたインテリア。写真は海外仕様車のもので、日本仕様車は右ハンドルのみとなる。
レザーとアルカンターラがふんだんに使われたインテリア。写真は海外仕様車のもので、日本仕様車は右ハンドルのみとなる。拡大
車内には、「Mモデル」であることを強調する装飾のほか、立体的なルーフライナー(写真)のような、デザイン上の新たな試みも見られる。
車内には、「Mモデル」であることを強調する装飾のほか、立体的なルーフライナー(写真)のような、デザイン上の新たな試みも見られる。拡大
「BMW XM」は、BMW Mにとって初のプラグインハイブリッド車であり、BMWのSUVとしての、初のM専用モデルでもある。日本でのデリバリー開始は2023年4月。価格は2130万円となっている。
「BMW XM」は、BMW Mにとって初のプラグインハイブリッド車であり、BMWのSUVとしての、初のM専用モデルでもある。日本でのデリバリー開始は2023年4月。価格は2130万円となっている。拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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