BMW XMレーベル(4WD/8AT)
頂点にして最適解 2024.04.17 試乗記 BMWが「M」専用モデルとしてリリースしたプラグインハイブリッドモデル「BMW XM」に、ハイパフォーマンスバージョン「XMレーベル」が登場。システム最高出力748PS、システム最大トルク1000N・mを誇るスーパーSUVの走りをワインディングロードで確かめた。エンジンでパワーを上乗せ
システム最大トルクは1000N・m。キリのいい数字でわかりやすいが、どんなものなのか実感するのは難しい。ノンターボの軽自動車なら最大トルクが2ケタなので、まさにケタ違いということになる。BMW XMレーベルは、BMW M専用モデルのXMに追加されたハイパワーバージョンだ。素のXMでさえ規格外のモンスターといわれていたのに、まだ足りないと考えたのだろうか。
XMは1978年の「M1」以来となるM専用モデルとして登場した。ジウジアーロデザインのスポーツカーだったM1とは対照的に、車高の高いSUVにMの名が受け継がれたことが驚きを与えた。半世紀もの時を経たのだから、ブランドの象徴に求められるファクターが変化したのは不思議なことではない。プレミアムブランドがスポーティーな大型SUVで覇を競っている状況では、Mの頂点がこの形になるのは必然だった。
パワートレインにプラグインハイブリッドシステムを採用したところも、新時代のMモデルであることの証しだ。4.4リッターのV8ガソリンターボエンジンとモーターを組み合わせて強力なパワーを生み出した。レーベルに搭載されるモーターは197PSのままである。エンジンの最高出力をノーマルの489PSから585PSに高めることで、システムトータルの最高出力を748PSに押し上げたのだ。電動化に取り組む姿勢をアピールしながらも、BMWがエンジンの開発を怠ることはない。
いろいろと事前情報を聞いていたから、実物に対面すると圧倒されるのではないかと心配していた。全長5m超、全幅2m超というサイズなのだ。確かに堂々たる体つきである。でも、思ったよりも威圧感はない。立派な体躯(たいく)だが、筋骨隆々というタイプとは違う。
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インテリジェンスを感じさせるデザイン
昨今のBMWの例にならい、フロントには巨大なキドニーグリルが鎮座する。迫力とすごみを見せるのだが、両側に細いつり目のLEDランプを配することでそこはかとないインテリジェンスを感じさせる。たまたま「X5」の隣に駐車したら、洗練度の差は明らかだった。野性味をむき出しにすることなく、サイバーな感覚のなかに包みこんでいる。
リアから見たスタイルは、さらにスマートで都会的だ。中央左寄りには「XM」というバッジがあり、BMWのエンブレムはリアウィンドウの左右に位置する。クルマに詳しくなければ、BMWのSUVだと気づかないかもしれない。リアコンビネーションランプはシンプルな薄型で、垢(あか)抜けたオシャレ感がある。均整のとれたスタイルはつつましげだが、よく見るとバンパーの下には左右2本ずつのマフラーが隠しきれない殺気を漂わせている。
ドアを開けると、上質なレザーとクールなメタルで構成された空間がドライバーを迎える。シートはホールドのいい形状だが柔らかな座り心地だ。スタートボタンを押してそろそろと走りだすと、室内は意外なほど静かである。いきなりエンジン音を高らかに響かせて驚かせるような演出は今風ではない。街なかでも普通に走れるようだと高をくくっていたら、路面の悪いところに差しかかって目を覚ますことになった。下から衝撃がストレートに伝わってくる。
スポーツ走行向けのセッティングになっているのだろうと思ってモードを切り替えようとしたが、スイッチが見当たらない。仕方なくそのままワインディングロードに入り、アクセルを踏み込んだらすさまじい爆音を伴って強烈な加速が始まった。2.7tの車重もこのパワートレインにとってはさしたる問題ではないらしい。コーナーでは俊敏な動きを見せ、シャシー性能の高さを思い知らされる。
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公道には向かない最強モード
停車してセッティングを確認すると、特にスポーツモードにはなっていなかったことがわかった。コントロールディスプレイで各項目を設定する方式で、「駆動システム」「回生」「シャシー」「ステアリング」「ブレーキ」「M xDrive」を個別に切り替える。ステアリングホイールに「M1」「M2」という2つのボタンがあり、好みのセッティングをワンタッチで呼び出すことができる。
せっかくなので、最強のスポーツモードを選んでみた。駆動システムとシャシーは「スポーツ+」、M xDriveは「4WD SPORT」である。さらに、シフトセレクターのスイッチでトランスミッションも最速モードに設定した。M専用モデルの実力を余すことなく味わうことができるはずだ。
アクセルを強く踏むと、エンジンが覚醒して恐ろしいほどの大音響をとどろかせる。急激にパワーが盛り上がるが、ギクシャクしてうまく加速できない。サーキットなら速いのだろうが、公道でこのモードを使うのは無理がある。ポテンシャルはわかったので、M2ボタンに記憶させておいたコンフォート優先の設定に戻した。それでも十分に速く、乗り心地は硬い。
下りのワインディングロードでは、ブレーキ性能の高さも披露してくれた。コーナーの前で危なげなく減速し、不安感を与えない。回生を「MAX」に設定しておけば、29.5kWhのリチウムイオンバッテリーへ着実に電力が送られていく。プラグインハイブリッドとしては大きな容量で、EV走行距離はWLTCモードで105.6kmに達する。
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ドライバーズカー志向のPHEV
センターコンソールのボタンで「M HYBRID」モードを切り替えるようになっており、通常は「HYBRID」が選択されている。ボタンでモードを切り替え「ELECTRIC」を選んでモーター駆動のみで走ってみた。当然ながらエンジンの爆音が消え、静かで滑らかに走る。高級感はあるが、パワーは物足りない。197PSのモーター出力は高い数字だが、重量級SUVには明らかに不足なのだ。「i7」に乗った時には怒涛(どとう)のモーターパワーに肝をつぶしたが、XMでは電気は補助的役割である。
エンジンの野性味を保ちつつ、モーターを加えることで素早いレスポンスと細やかなコントロール性を手に入れた。電動化に向かうなかで現在の最適解ともいわれるプラグインハイブリッドというシステムを使い、際立った運転性能を実現している。最新の電子制御技術をふんだんに取り入れ、日常使いからスポーツ走行までをカバーするモデルに仕立てた。
とは言いつつ、コンフォート優先にしても快適とは言いがたい乗り心地である。ゴージャスな設(しつら)えの後席では間接照明が仕込まれた立体構造のルーフライニングを眺めながらくつろぐことができるが、目地段差を越える際には現実に引き戻されるだろう。M専用モデルがおもてなしのクルマであるはずもなく、究極のドライバーズカーを志向しているのだ。
どんな人がXMを選ぶのか、想像するのは難しい。能力を全開にできるのはサーキットなのだろうが、レースをするためのクルマではないはずだ。パワートレインとスタイルは、Mの名にふさわしい完成度である。BMWが提示する世界観を存分に味わうための最適な一台であることは確かだと思う。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW XMレーベル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5110×2005×1755mm
ホイールベース:3105mm
車重:2730kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:585PS(430kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5400pm
モーター最高出力:197PS(145kW)/6000rpm
モーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/1000-5000rpm
システム最高出力:748PS(550kW)
システム最大トルク:1000N・m(102kgf・m)
タイヤ:(前)HL275/35R23 108Y/(後)HL315/30R23 111Y(ピレリPゼロ)
ハイブリッド燃料消費率:8.5km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:105.6km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:108km(WLTCモード)
交流電力量消費率:327Wh/km(WLTCモード)
価格:2420万円/テスト車=2504万円
オプション装備:ボディーカラー<BMWインディビジュアルスペシャルペイント セピアII>(84万円)/BMWインディビジュアルレザーメリノ<フィオナレッド/ブラック>(0円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3067km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:365.0km
使用燃料:45.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.0km/リッター(満タン法)/9.2km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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