トヨタ・プリウスU(FF/CVT)
マイナス200ccの癒やし 2023.05.09 試乗記 鈍い光を放つ特徴的なホイールにピンときたあなたは鋭い。この「プリウス」はトヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO(キント)」専用モデルなのだ。先代譲りの1.8リッターユニットと専用セッティングの足まわりによる走りは、なかなか玄人好みの仕上がりだ。納車が圧倒的に早い
最近は実車をぼちぼち見かけるようになった新型プリウスだが、現在は納車が2年待ちとか、受注休止といったウワサが飛び交う。そんな新型プリウスも、トヨタ肝いりのKINTOなら納車が早い……と話題だったりもする。
KINTOの公式ウェブサイトによると、通常購入だと今は注文すら困難(?)といわれる2リッターの「Z」や「G」でも納車めどは7~9カ月、KINTO専用グレードとなる1.8リッターの「U」にいたっては1.5~2カ月と記されている(2023年5月1日現在)。すなわち、国内向け新型プリウスにはKINTO用の生産枠があり、そっちには普通販売よりは需給に余裕があるということか。
今回試乗したのが、そのKINTO専用プリウスである。一応の本体参考価格は299万円。この値段で購入はできないが、ひとつ上級の2リッターのGより21万円安く、法人向けの1.8リッターの「X」より24万円高い金額だ。
プリウスをKINTOで乗る場合は「KINTO Unlimited」というプラン一択となる。宣伝によく使われる“初期費用ゼロ、月額1万6610円”という最安プランはボーナス払いを16万5000円とした7年契約で、途中解約には最大89万円の違約金が発生する。同じ条件でも、5年プランなら月々の支払いは1万9030円、3年プランなら2万2440円になる。
あるいは解約金もボーナス払いもないプランなら、初回申込金24万7940円で、最初の3年間が月々4万4400円。さらに長く乗りたいなら、4年目と6年目にそれぞれ延長のための再契約料(13万3320円)が必要になるが、月々の支払額も4~5年目が3万7730円、6年目以降が3万1130円と下がっていく。
ちなみに、これらの料金には各種税金、メンテ費用、任意保険、クルマのアップデート(先進運転支援機能=ADASのソフトウエアなど)もすべて含まれる。
好みの仕様に仕立てられる
以前に2リッターに19インチタイヤを履かせたZグレードをwebCGの取材で試乗させていただいたが、なんだかんだいっても、デザインも操縦性もトヨタの最新のクルマづくりのお手本ともいえる仕上がりだ。燃費についても、以前ほどの執念めいた数値ではないものの、少なくとも日本の交通環境で普通に走るかぎりはとても優秀だった。
いっぽう、今回のKINTO専用プリウスの実車は、2リッターと比較すると、専用の17インチアルミホイールがまずは印象的である。17インチは法人向けのXにも標準で、2リッターにもオプションで用意されるが、このマットブラックのキャップを備えた独特のアルミホイールはU専用だそうである。また、2リッターではトランク内に追い出されていた補機バッテリーが、このクルマではエンジンルームに戻されている。1.8リッターのエンジン本体が2リッターより小さいからだそうで、そもそも「GA-C」プラットフォームの開発当初に2リッターハイブリッドは想定されていなかったということか。
さらに今回の試乗車にはシート表皮などがG相当になる「上級内装仕様」や、ADASがフル装備となる「セーフティーパッケージIII」、そしてドライビングレコーダーやフロアマットなどのオプションも追加されていた。当然ながら、これらを選ぶとそれぞれで月々の支払いが数百~数千円レベルで上下する。
たとえば今回の上級内装仕様は、冒頭の初期費用ゼロ+ボーナス払いプランだと月々880円~2090円の追加が必要だが、ざっくりとした肌ざわりのシート表皮は標準のそれより明らかに高級感がある。また、ダッシュボードに横一線に入るイルミネーション照明も同仕様の特徴のひとつ。これも単純に見た目がにぎやかになるだけでなく、前走車が発進したときに警告音を発する前に、まずは軽く促すように点滅するなど、ADAS機能も持たされている。
2リッターよりもロールが深い
1.8リッターということであまり期待していなかった動力性能は、予想外にパンチがあった。まあ、初めて乗ると積極的に“速っ!”と声が出てしまう2リッターと比較すると控えめだが、市街地での加減速ははっきりと先代プリウスより活発である。
それもそのはずで、1.8リッターエンジンこそ先代と同スペックだが、ハイブリッド部分は「ノア/ヴォクシー」に続く第5世代に刷新されている。駆動モーターは先代比で最高出力で23PS、最大トルクで22N・m上回っており、リチウムイオン電池の容量も拡大している。それでいて車重は先代と同等か、少し軽いくらいなのだ。
今回からオルガン式となったアクセルペダルを深く踏み込んだときに耳に届くエンジン音が、意外なほど勇ましいのは新型プリウスに共通するクセといっていい。耳に届く音量は上級の2リッターより少し大きいかもしれない。しかし、音質は2リッターのほうが荒々しく、体感的には今回の1.8リッターのほうが静かに思えた。
この17インチも19インチ同様にちょっとめずらしい大径ナローサイズで、個人的に初見の新世代エコタイヤ「ダンロップ・エナセーブEC350+」の17インチを履いていた。そんなプリウスUは乗り心地やハンドリングも、2リッターとは少しばかり趣が異なる。
19インチを履く2リッターはスポーツカーもかくや……というほど、コーナーでも水平姿勢のまま強力なステアリングゲインでグイグイと引っ張る。対して、このKINTO専用プリウスはステアリング反応が少しおっとりしている。もともとべたっと低いクルマなのでロール量自体は大きくないが、2リッターと比較するとロールも明確に大きい。
フランス車的なフットワーク
聞けば1.8リッターと2リッターではバネやショックの設定が異なる(もっというとFFと4WDでもそれぞれで少しずつ異なる)そうで、体感的には2リッターより明らかに柔らかい。開発担当氏は「各モデルで味わいを分ける意図はなく、それぞれのパワートレインと車重に最適化するのが目的」というが、いい意味で昔のトヨタを思わせる快適な肌ざわりは2リッターとは明確に味わいがちがう。ただ、ステアリングやライントレース性は昔のトヨタよりはるかに正確。この鋭くはないが、なまくらでもなく、ある意味でフランス車的でもある“クターッと感”はなんとも絶妙で、個人的には2リッターより好ましいと思った。
今回は箱根の山道でちょっとオイタすることもできたが、完全にシャシーファスターといえるバランスだったのも好印象だ。2リッター(のFF)を荒っぽくあつかうと、ときに乾いた舗装路でもアンダーステアの兆候が出るが、このクルマはそんなこともなかった。2リッターより80kg軽い車重の恩恵もあるかもしれない。また、サスペンションの柔らかめの調律に加えて、新世代エナセーブのおかげもあるのか、ステアリングから伝わってくる接地感が19インチより濃い。
もっとも、一般的には、よりパワフルで乗り味も現代的な2リッターを好む向きが多いと思われる。ただ、ここまで読んでいただいてお察しのとおり、フランス車ばかり乗り継いできた偏狭なクルマオタクの筆者は、個人的に今回の1.8リッターのUがタイプだったのは否定しない。すでに何度もご登場いただいている開発担当氏も「2リッターと19インチの組み合わせこそが、もっとも新型プリウスらしいクルマと思っていますが、1.8リッターも手を抜いたわけではありません」と胸を張る。
若者向けのエントリーモデル
それにしても、新型プリウスのように供給が追いつかない状態のクルマだと、ひと昔前なら街なかでもみるみる増殖していく実感があったものだが、新型プリウスはそうでもない。その理由について、開発担当氏は「(たとえば大ヒットした先々代は)最盛期には国内3ラインで生産していましたが、新型プリウスは国内1ラインでの生産になっています」と説明する。近年は仕向け地ごとに緻密な計画にそって生産されるだけでなく、半導体をはじめとする部品不足もあり、一時的な大増産や特定市場への優先供給などの融通はむずかしくなっているようだ。
ちなみに1.8リッターのUがKINTO専用グレードになったのは、昨今の供給不足に合わせた苦肉の策というわけでもないそうだ。例の開発担当氏も「新型プリウスらしい姿を追求した2リッターに対して、1.8リッターは若者向けのエントリー商品として企画した」と語っており、それを明確化するためのKINTO専用という戦略でもあるという。
もっとも、運転経験だけは長いので任意保険の等級がほぼ上限に達しており、しかも世代的にも“クルマは資産”という感覚から抜け出せない50代の筆者は、リースやサブスクには生理的に食指が動きにくい。よって、失礼ながらも、この新型プリウスの癒やし系グレード(?)が、近いうちに通常購入できるようになる(≒KINTOがあまりうまくいかない?)ことを期待しないではない。
ただ、高騰する任意保険まで考えると、若い世代が頭金をためてローンで新車を買うのはハードルが高い。今の新車販売現場では残価設定ローンが主流だというし、電池の劣化なども考えると、電動化が進むこれからは、自家用車はサブスク的な支払いで乗るのが普通になっていくんだろうなあ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・プリウスU
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1780×1420mm
ホイールベース:2750mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
モーター最高出力:95PS(70kW)
モーター最大トルク:185N・m(18.9kgf・m)
システム最高出力:140PS(103kW)
タイヤ:(前)195/60R17 90H/(後)195/60R17 90H(ダンロップ・エナセーブEC350+)
燃費:32.6km/リッター(WLTCモード)
価格:5万2030円/月/テスト車:5万9510円/月
オプション装備:セーフティーパッケージIII(5500円/月)/フロアマット<ラグジュアリー>(330円/月)/前後方ドライブレコーダー(1650円/月)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2542km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:195.6km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:25.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。