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充電難民の時代がやってくる!? 給電スポットのこれからを考える

2023.05.22 デイリーコラム 清水 草一

つくればいいってもんじゃない

まだ一度もEVやPHEVをマイカーにしたことのない私が言うのもなんですが、日本政府のEV用充電器普及策ほど、経済効果が最低なプロジェクトはなかったと思います。

絵に描いたような補助金のバラマキで、当初はほとんど自己負担なしで設置できたので、ユーザーの利便性などコレッポッチも考えず、グランドデザインのカケラもなしに設置が進みました。しかもその補助金、「1カ所につき1基まで」だったので、1基だけの急速充電スポットが雨後のタケノコのように出現。おひとりさまで満員になっちゃうんだから、使い勝手は最悪だ。

結果、かなりの台数が、大して使われないまま更新時期を迎え、撤去されつつあります。とある市役所に設置されていた急速充電器の利用状況は、「平均して月に10台くらい」だったというから、あきれるしかありません。愚策のお手本もいいところですね。

そもそも日本では、EVを普及させるべきなのでしょうか? EVは善なのでしょうか? LCA(ライフサイクルアセスメント)で見たCO2排出量は、ハイブリッドよりもEVのほうが多くなりませんか? 欧米や中国と違って、わが国は再生可能エネルギーによる発電量をそれほど増やせるとは思えないこともあり、EVの比率が増えると、かえってCO2排出量が増えませんか?

まずは発電のカーボンニュートラル化の進行を確実なものにして、EVの普及はそれからというのが順番じゃないでしょうか。岸田総理は、「諸般の事情に鑑み、日本はまだEVを普及させません! 当面ハイブリッドやPHEVメインで行きます!」と宣言してもよくないですか? 地球環境のために!

浜松SAの充電スポットで「トヨタbZ4X」にチャージ中の筆者。最大出力150kWの急速充電器は、今では感動モノだが10年もたてば時代遅れになっているに違いない。
浜松SAの充電スポットで「トヨタbZ4X」にチャージ中の筆者。最大出力150kWの急速充電器は、今では感動モノだが10年もたてば時代遅れになっているに違いない。拡大
EVのなかには「ポルシェ・タイカン」のように、高性能にして大食いのモデルも少なくない。このままEVの数とパワーがアップしていけば、インフラへの要求も急速に高まっていく。
EVのなかには「ポルシェ・タイカン」のように、高性能にして大食いのモデルも少なくない。このままEVの数とパワーがアップしていけば、インフラへの要求も急速に高まっていく。拡大

テスラの例はお手本になる

……とは思うものの、手のひら返しでEVを迫害するのも愚策の上塗り。今後、EV用充電器の設置は、必要に応じて、つまり普及台数に対応するかたちで、効率的に進めるのがイイと思います。

そのお手本が、テスラの「スーパーチャージャー」です。スーパーチャージャーは、徹頭徹尾、経済合理性にのっとって設置されているので、欲しいところにちゃんとあるし、あまり使われないところには全然ない。コンビニの配置と同じです。東北や北海道は猛烈に少ないのでビビりますが、雪国の人はあまりEVを買っていないので、確かに必要性が低いのです。

スーパーチャージャーはCHAdeMO急速充電器と違って、1カ所に4基前後が並んでいるので、充電待ちはまずありません。CHAdeMOが全国に8000基あっても、まったくもって全然使えないというイメージですが、たったの約70カ所、計300基くらいのスーパーチャージャーは、特権階級気分で使い倒せる。共産国と資本主義国の違いに似ていますね。

政府は2030年までに、EV用充電器を15万基とする目標を掲げました。しかし、重要なのは数じゃない。配置です。つまり、テスラスーパーチャージャーをお手本にすればいいんです。必要なところに必要な充電器を効率的に配置する。必要なのはそれだけです。

一番必要性を感じるのは、高速道路のSA/PAです。巨大なSAに急速充電器が1基なんて、これほどの悪平等はありませんでした。しかし、状況は変わりつつあります。

2023年3月、NEXCO 3社とe-Mobility Powerは、2025年度までに、高速道路のSA/PAの急速充電器を約1100口に増設することを発表しました。「待ってました!」って感じです(EVユーザーじゃないけど)。EVだろうとガソリン車だろうと、遠出する時はたいてい高速道路を使うんだから、出先で急速充電が必要なのは、なんてったって高速道路上がナンバーワンだ。SA/PAに重点的に設置すべきであることは、誰が考えたって自明の理だったのです。

最大250kWの最大出力を誇るテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」。(写真はイメージ)
最大250kWの最大出力を誇るテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」。(写真はイメージ)拡大
テスラの「スーパーチャージャー」の国内設置数は、2023年5月18日現在で69カ所、およそ300基となっている。オフィシャルサイトのマップ(写真)に見られるとおり、そのロケーションは都市部に偏ってはいるが、実際の使われ方を考えると合理的な配置といえる。
テスラの「スーパーチャージャー」の国内設置数は、2023年5月18日現在で69カ所、およそ300基となっている。オフィシャルサイトのマップ(写真)に見られるとおり、そのロケーションは都市部に偏ってはいるが、実際の使われ方を考えると合理的な配置といえる。拡大

明日にでもなんとかしてくれ!

つい先日、新東名・浜松SAの充電スポットを利用しましたが、「日本にもこんなところができたのか!」と感動しました。ただ、150kW器が1基(2口)、90kW器が6基というのは、出力的には物足りない。10年後には150kWでも時代遅れになっているんでしょうから、今後は最低150kW、できればそれ以上の高出力器の設置を進めてもらいたい。じゃないと投資のムダになる。

一方、東名・海老名SA(上り)の充電スポットにはあきれました。40kW器が2基、90kW器が1基ですが、充電器のどこを見ても、最大出力を書いていない! どれが40でどれが90かよくわからない! こんなバカな話がありますか? 日本のEV充電システムは、ここまで利用者の利便性を徹底的に無視してきたのか! とあきれるしかない。こういうのは明日にでもなんとかしてもらいたい。字を書くだけでいいんだから!

そもそも、ひとつのスポットに違う出力の充電器があること自体がイカンです。テスラスーパーチャージャーは、150kWスポットなら全部150kW器、250kWスポットなら全部250kW器だから、どの器を選ぶかなんて考える必要はない。CHAdeMOもそうしなきゃいけない。ついでに40kWとか20kWとか、そういう化石みたいな急速充電器は、なるはやでSA/PAから撤去・更新してください。

個人的には、まだ到底EVを買う気にはなれないし、ガソリンスタンド難民の方を除けば、EVをおすすめする気もありません。一般的には軽やハイブリッドやPHEVのほうがはるかに便利で、環境負荷もかえって低いはずです。

それでもEVの進化(というよりバッテリーの進化)は目覚ましく、そう遠くない将来、ICE車(純内燃エンジン搭載車)よりもコストも利便性も何もかも上回ってくるのだろうと思います。

その時に備えて、先回りで15万基にするんじゃなく、常に必要に応じて、最適な数を最適な場所に設置することだけを心がければ、それでいいのではないでしょうか。テスラスーパーチャージャーのように。

(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=関 顕也)

新東名高速道路の浜松SAには、150kW級の急速充電器が1基、90kW級の急速充電器が6基設置されている。ほか、駿河湾沼津SAでも150kW級充電器の運用が始まっている。
新東名高速道路の浜松SAには、150kW級の急速充電器が1基、90kW級の急速充電器が6基設置されている。ほか、駿河湾沼津SAでも150kW級充電器の運用が始まっている。拡大
こちらは海老名SA(上り)に設置された急速充電スポット。40kW級と90kW級が計3基並ぶ急速充電器は、それぞれの最大出力が分かりにくく、不親切としか言いようがない。
こちらは海老名SA(上り)に設置された急速充電スポット。40kW級と90kW級が計3基並ぶ急速充電器は、それぞれの最大出力が分かりにくく、不親切としか言いようがない。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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