SUVブームはなぜ起こったか?
2023.05.30 あの多田哲哉のクルマQ&Aいま新車といえばSUVばかり。空前のSUVブームと言っていいと思いますが、この現象はどんな背景で起こったのでしょうか。車両開発サイドから言えば、SUVをつくりたい、SUVのほうがつくりやすいという事情などもあるのでしょうか?
SUV、つまりスポーツ・ユーティリティー・ビークルは、呼び名のおかげもあって、世間ではなんとなくスポーティーなイメージを持たれているようです。しかも、気楽に運転できて荷物も積めるクルマと認識されている。ユーザー側としては満足度が高い製品ですよね。
車高が比較的高いため、かつては「ハンドリングがいまひとつ」などと言われることもあったSUVですが、いまでは基本性能がアップしています。空力、タイヤ、サスペンションの進化に加え、重量物をボディーの下方に集中配置するなど設計技術の向上により、ハンドリングについても違和感はなくなっている。それも人気の秘密でしょう。
つくり手としても、SUVはまさに“つくりやすいクルマ”です。大きくて車高が高く、エンジンルームもゆったりとれますから……。それで製造コストは比較的安い。だけど付加価値があって人気も高いから利幅は大きい。ならばメーカーとしては、ぜひつくりたいということになりますね。
もうひとつ、SUVブームにかかわるメーカー側の要因としては、電動化・EV化が挙げられます。SUVが広まったころは、ちょうど「EVをつくらなきゃ」だったのです。しかし当時はEV専用プラットフォームを開発するという発想はなかったものですから、「将来EVをつくる必要性に迫られたときにパッと転用できるモデル」を模索することになりました。その点、SUVはうまくできているんです。バッテリーを床に敷けばいいし、そうすることで重心も下がりますから……。多くのメーカーには「EVの波がきても、SUVをたくさん用意しておけば大丈夫」という考えはあったでしょう。
もっとも、いまとなっては、ガソリンエンジンと共用のプラットフォームではEVの世界で勝ち残っていけないようになりました。各社、特に日本のメーカーは、それで大変な時期を迎えているというわけです。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。