ランボルギーニ・ウルスS(4WD/8AT)
平和、バンザイ! 2023.06.03 試乗記 スーパーSUV「ウルス」が、マイナーチェンジを機に「S」と「ペルフォルマンテ」の2モデル体制に。今回は前者を連れ出し、ランボルギーニのビジネスを飛躍的に拡大させた立役者のセリングポイントについて、あらためて考えてみた。車体色に込められたメッセージ
ガオオオオッという野獣の咆哮(ほうこう)が遠くで聞こえたかと思ったら、ランボルギーニ・ウルスSが待ち合わせ場所にこつぜんと姿を現した。それも、ゼレンスキー大統領みたいなモスグリーン、それもつや消しのボディーカラーをまとっていて、これがまたよく似合っている。劇画から飛び出してきたか、スーパーヒーロー映画の撮影現場か。これは虚構か現実か。ボディーのサイドに手書きのVの文字が大きく入っていて、なかからロシアのプーチン大統領とワグネルのプリゴジン氏が出てきて、この度はすまなんだ、と謝ってきたら、いいのに……。もちろん、そのようなことが起きるはずもないし、想像することさえ、不謹慎であるやもしれない。
申し上げたいのはランボルギーニがモスグリーンのつや消し、イタリア語で「ヴェルデ・トゥルビーネ(Verde Turbine:直訳すると「緑の旋風」)」というボディー色をわざわざ選んでいるという事実である。こんにち、この時点でこのカラーがなにを意味するのか。ヨーロッパで起きている戦争と無縁であるはずがない。そこにはメッセージが含まれている。と筆者は思うのだ。
それはなにか? 平和の素晴らしさである。平和だからこその、スーパーカー、スーパーSUVではないか。スーパーカー消しゴムとスーパー銭湯ぐらいしか縁がないとしても、戦争になれば、蛇口をひねってもお湯が出なくなる。当たり前だと思っていた日常が消えてなくなる……。ああ。なんて恐ろしい。
ボディー色について長々と触れたのは、それがウルスの後継として2022年に登場したウルスSの特徴のひとつだから、である。
よりシンプル&シャープに
デビューから丸4年を経て、ウルスがウルスSへと進化した見どころの第1のポイントは、4リッターV8ツインターボの最高出力が、これまでの650PSから、1カ月ほど先に登場したウルス ペルフォルマンテと同一の666PSに引き上げられていることである。パワートゥウェイトレシオは3.38kg/PSから3.3kg/PSとなり、0-100km/hも従来の3.6秒から3.5秒に縮まるなど、加速性能も向上。最高速は305km/hのままなれど、排気システムのチューニングを見直したことで、よりリアルランボルギーニらしいサウンドを発するようになってもいるという。
「ストラーダ」「スポルト」「コルサ」、そして「エゴ」をはじめとしたパワートレインの制御もウルス ペルフォルマンテに準じている。
外観では前後バンパーのデザインが新しくなった。フロントのグリルは、以前はハニカム型だったり、一部にボディー色が入ったりしていたけれど、水平基調でブラック塗装になっている。ウルスよりシンプル&シャープな印象を受けるのはこのためであろう。
そして、3つめのポイントが、内外装にわたって、色やトリム、ホイールのオプションが増え、控えめな装いから激スポーティネスまで、カスタムの幅がグッと広がっていることなのである。ちなみにヴェルデ・トゥルビーネはマット塗装ということもあって、ペイント代だけで172万4166円もする。もうひとつ、ちなみに手元のオプション表によるウルスSの車両価格は2852万0801円。テスト車のオプション込みの合計は3757万8788円で、オプションだけでおよそ1000万円、積み上がっている。
お金持ち諸君。平和、バンザイ!
あくまでファンのためのファミリーカー
発売以来4年間で2万台以上が生産されたヒット作、ランボルギーニのスーパーSUVは、かくしてウルスSとウルス ペルフォルマンテの2モデル体制になっている。ウルスの商業的成功がより大きな成功を求めて、ビジネスを拡大しているのだ。
では、ウルスSは従来のウルスと大きく違うのか? と問われなば、直接比較をしていないので大ざっぱにしか申し上げられないのですけれど、それなら、そんな設問しなければいいのに、と内なる声がこだましつつ、筆者の答えを探すと以下のごとくである。
ウルスはそのまがまがしいまでの歌舞伎者的、はたまた空想科学ドラマ的なデザインとは異なり、日常生活にフィットした、ものすごくまっとうな、ランボルギーニのファンのためのファミリーカーであって、そこはなにも変わっていない。
ドライブモードをデフォルトのストラダーレにしていると、始動後しばらくは雷鳴のようなエンジンサウンドを発しているものの、信号待ちでアイドリングストップするから静かで、全然騒々しくない。街なかを普通に走っていると、2000rpmあたりで8段ATがどんどんシフトアップし、おおむね1500rpmぐらいで回っている。2000rpmを超えると、グオオッとほえる。
標準は21インチのところ、テスト車は23インチを装着していて、タイヤは前285/35、後325/30というスーパーワイド&スーパー薄っぺらいスーパーカーサイズである。それなのに硬すぎない。かたちから想像して乗り込むと、キツネにつままれたような、というか、拍子抜けというか、しなやかでストローク感があって、快適でラグジュアリーで、とってもいいものに乗っている感じがする。
グループの力とブランドの個性が融合
大仰なレバーでドライブモードをスポルトに切り替えると、エキゾーストサウンドががぜん大きくなる。ぐるるるるるっと喉を鳴らし、深々とアクセルを開ければ、グオオオオオオオオオオオッと叫ぶ。最大トルク850N・m/2300-4500rpmという数値は「ポルシェ・カイエン ターボGT」と同じで、基本的には同じV8ユニットのはずだけれど、そのサウンドはまぎれもなくランボルギーニである。
コルサにすれば、乗り心地はお尻の穴をキュッとすぼめたみたいに硬くなる。
グオンッ、ぐおおおおんっ!
V8ツインターボにエアサスペンション、電気機械式アンチロールスタビリゼーションに電子制御のセミアクティブダンパーの織りなす足まわり。100km/h巡航は8速トップの1500rpmで、高速巡航時に聞こえてくるのは風の歌だけである。
結局のところ、ウルスの背後には、現在のランボルギーニがフォルクスワーゲングループの一員であること、ポルシェが開発したSUV用のプラットフォームをベースにしていることがある。カイエンのほか、「トゥアレグ」「Q7」「ベンテイガ」の兄弟車であることがウルスの強みであり、そこにランボルギーニという強烈な個性、ブランド力が合体している。アンチヒーローを装うスーパーヒーロー。あるいは、ランボルギーニゴッコができる唯一無二のSUV。だから、ウルスはSになっても、たぶん、売れるす。
世界のみんな。ピース!
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウルスS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5137×2018×1638mm
ホイールベース:3003mm
車重:2420kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:666PS(490kW)/6000rpm
最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/23000-4500rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y/(後)325/30ZR23 109Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.1リッター/100km(約7.1km/リッター、WLTPモード)
価格:2852万0801円/テスト車=4042万0771円
オプション装備:エクステリアカラー<ヴェルデ・トゥルビーネ>(172万4166円)/ロワ―レザーパッケージ(34万2867円)/レッドキャリパー(14万0638円)/ビッグインテリアカーボンパッケージ<マット>(94万1315円)/23インチ“Taigete”アルミホイール<シャイニーブラック>(59万7219円)/ハンズフリーテールゲート(9万2201円)/アンビエントライトパッケージ(34万8890円)/ヒーター付きフルレザースポーツステアリングホイール<ダーククロムベゼル&レッドマーカー>(14万7153円)/アドバンスト3D“Bang & Olufsen”サウンドシステム(79万9693円)/テレビチューナー(15万1702円)/フル電動フロントシート<ベンチレーション&マッサージ機能付き>(36万2045円)/4シート仕様<2リアシート&センターコンソール>(41万1710円)/インテリアカーボンパッケージonリアコンソール<マット>(11万5805円)/オプションステッチ(9万8471円)/オプションステッチ<ステアリングホイール>(4万6101円)/フロアマット<レザーパイピング&ダブルステッチ>(7万6712円)/Q-Citura withレザー(37万0035円)/リア「Lamborghini」ロゴ<マットブラック>(4万1429円)/ANIMA withオフロードモード(7万0934円)/パノラミックルーフ(35万9216円)/アルミニウムインサート<ブラックアノダイズドトリートメント>(7万0442円)/カーボンキックプレート(26万9720円)/インテリアダークパッケージ(30万9427円)/ランボルギーニエンブレムのステッチ入りヘッドレスト(10万6339円)/ブラッククロムエキゾーストパイプ(12万3058円)/プレミアムエアクオリティーシステム<イオナイザー&アロマティゼーション機能付き>(6万4909円)/カーボンファイバーボンネットエアベント<マット>(18万9812円)/ナイトビジョン(29万5659円)/アッパーレザーパッケージ(39万0319円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3167km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:354.3km
使用燃料:51.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/7.0km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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