TOM’SレクサスIS300(FR/8AT)
ほかとは違うプレミアム 2023.06.10 試乗記 TOM’Sが手がけた「レクサスIS」をベースとするチューンドコンプリートカーに試乗。半世紀にわたりトヨタのセミワークスチームとしてレース活動を続けているTOM’Sは、いかなるレシピでラグジュアリースポーツセダンを調理したのか。アグレッシブなフォルムが目を引く
日本のトップレーシングチームとして名をはせ、トヨタのオフィシャルチューナーとしても知られるTOM’S。それゆえ、ルマン参戦用のレーシングカーなどを筆頭に、本格的な「戦うクルマ」というイメージが強いのがこのブランドのマシン群である。しかし、同時に見逃せないのがストリートユースを念頭に開発されたチューンドコンプリートカーの数々だ。
1988年に発表された20系「ソアラ」と70系「スープラ」をベースとした「C5ソアラ」と「C5スープラ」にまで歴史をさかのぼることができるトムス謹製のマシンは、現在も頂点に「センチュリー」を置くなどそのラインナップは多様で多彩である。
今回取り上げる「TOM’SレクサスIS300」は、2020年11月にマイナーチェンジながらフルモデルチェンジに匹敵する規模のリファインが行われて話題となったレクサスISをベースとしたチューンドコンプリートカーだ。2023年1月に開催された東京オートサロンに「TOM’S GRヤリス」と共に初出展されたモデルでもある。
「世界各地で走り込み、乗り味を鍛え上げたFRスポーツセダン」と、そんなフレーズで自らを紹介する、SUV全盛の昨今では稀有(けう)なキャラクターの持ち主がレクサスIS。TOM’Sはそれを「さらに優れたハイスピードクルージング性能とよりスポーティーなハンドリングを併せ持ったスポーツセダン」に昇華させたとうたう。
注目はレーシングマシンの開発や実戦の場で培ったさまざまなメカニカルチューニングであることは間違いないものの、それ以上にまず目を引くのがアグレッシブなたたずまいである。
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ガチガチの硬派モデルではない
今回テストドライブを行った車両には、東京オートサロンへの出展を踏まえたラッピングが施されていて、“地味派手”なそのブロンズ色が、通常のISとは異なる存在であることを示唆していた。
そうした点は別としても、フロント/サイド/リアのアンダーディフューザーとトランクリッドスポイラーからなるボディーキットや、テールエンドがチタン製の4本出しとなる異様なまでの迫力を放つエキゾーストシステムが誰の目にもただ者ではないことを印象づける。このルックスだけでも手に入れたいと考える人は少なくないはずだ。
ちなみにテスト車の場合、TOM’Sのセンターキャップが組み合わされた「TWS118Fスポーツモノブロック」ホイールにはブリヂストンの「ポテンザS007A」タイヤが組み合わされていたが、これはユーザーの好みや希望によって他のアイテムを選択することも可能で、応相談になるという。実際にTOM'Sでも開発の過程でさまざまなタイヤとのマッチングをテストしていたそうで、例えば同じブリヂストン製でも「RE-71RS」ではロードノイズが大きく、スポーツテイストが高すぎる傾向にあったというから、TOM’S ISはそこまでの硬派を狙ったモデルではないということも予想できる。
いくつかのパワーユニットが用意されるレクサスISにおいて、TOM’S ISが対応するのは3.5リッターV6と2リッターのターボ付き直4エンジンを搭載する「IS350」「IS300」系、そして2.5リッターの直4エンジンにハイブリッドシステムを組み合わせた「IS300h」系の3タイプである。
今回のテスト車のベースはIS300で、電子制御式の可変減衰力ダンパーを標準とする“Fスポーツ”グレードだった。
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リニアで強力な減速フィール
「TOM‘S」のロゴが入ったスターターボタンを押してエンジンに火を入れると、ずぶとい排気音によっていきなりベース車両との違いを実感させられることになる。
端的に言って、それは先に紹介した大迫力のテールパイプから想像できるとおりのものといえば、音質的にもボリューム的にもイメージに合致する。ただその一方で、レクサスというプレミアムブランドにふさわしい静粛性を打ち破ってしまうとも受け取れてしまう。特に、後席に乗るゲストの感想は明確に二分されることになりそうだ。もちろん自らアクセルを踏むドライバーにとっては、ポジティブな反応のほうが多くなるだろう。
専用ECUによってブースト圧の変更等が行われ、それに伴う最高出力の向上はノーマル比で30PS。数値としてはさほど大きなものではないが、実際には2リッターエンジンとは思えない活発な加速力を味わわせてくれるし、一方で街乗りシーンなどにおけるトルクの不足感など、チューニングエンジンにありがちな神経質さを感じさせられる場面は皆無だ。
また、高速クルージング時にたっぷりとした余力が実感できることも間違いなく、この点ではまず「優れたハイスピードクルージング性能」という当初の狙いどころが、額面どおりにクリアされていることを教えられる。
同時にこのモデルでもうひとつ特筆に値する仕上がりと感じられたのが、ブレーキング時のテイストだ。踏力に即応したリニアで強力な減速感には、フロントに標準装備される「TOM’S×ブレンボ」のブレーキシステムが大きく貢献していそうである。
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オリジナルモデルにはない個性
レクサス純正の「AVS」(電子制御式可変減衰力ダンパー)を生かしながらTOM'Sの「Advox(アドヴォックス)」のスプリングを組み込んだフットワークのテイストは、特に高速クルージング時の高いフラット感をキープしながら路面を舐(な)めるように捉えていく感覚が好印象だ。
そうしたフィーリングにはエンジンルームやトランク内に追加されたパフォーマンスロッドやサスペンションメンバー、ボディー下部に加えられたブレースなどによるボディーの補強が効いているのだろう。この仕上がりもまた、先に紹介した「優れたハイスピードクルージング性能」という評価項目を確実に引き上げることにつながっている。
ただ、比較的遅いスピードで荒れた路面へと進入した際のちょっとチョッピーな乗り味には、またしても「レクサス車なのに……」というちょっとネガティブな反応を生み出してしまう可能性もある。もっとも、こうした点を強く気にかけるユーザーは、そもそもTOM’Sによるチューニングメニューに手を出すことはないだろう。
かくして、今や“絶滅危惧種”となりつつあるスポーツセダンをベースに、日本を代表するレーシングチームでもあるTOM’SがプロデュースしたTOM’S ISは、万人に支持されることを第一義としたレクサスのオリジナルモデルにはない個性にあふれている。とがったチューニングはその生い立ちゆえに許され、魅力ある無二の価値となるのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
TOM’SレクサスIS300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1840×1435mm
ホイールベース:2800mm
車重:1570kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:275PS(202kW)/5600rpm
最大トルク:422N・m(43.0kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)265/35R19 98Y(ブリヂストン・ポテンザS007A)
燃費:--km/リッター
価格:848万円/テスト車=869万8460円
オプション装備:エアクリーナー<スーパーラムII>(8580円)/アッパーパフォーマンスロッド・フロント(3万9600円)/アッパーパフォーマンスロッド・リア(2万9700円)/サスペンションメンバーブレース・フロント(2万8600円)/サスペンションメンバーブレース・リア(3万3000円)/ロアボディーブレース・リア(7万5900円)/プッシュスタートボタン(3080円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1万5394km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:294.5km
使用燃料:20.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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