国産高級ミニバンは、なぜ「トヨタ・アルファード」の独り勝ちになったのか?
2023.07.17 デイリーコラム姉妹車をも圧倒
最近発売された新型車のなかで、特に注目度の高い車種が、2023年6月にフルモデルチェンジした「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」だ。
アルファードとヴェルファイアが注目される理由は、先代型の売れ行きによるところが大きい。2022年の1カ月平均登録台数は、アルファードが約5000台。ただしヴェルファイアは190台ほどであった。
アルファードとヴェルファイアで激しい販売格差が生じた一番大きな理由は、トヨタが2020年に、系列の分け隔てなく国内のすべての販売店で全車を売る体制に移行したからだ。その結果、以前はヴェルファイアを専門に扱ったネッツ店でも、フロントマスクで人気を高めたアルファードが好調に販売され、ヴェルファイアはグレードを大幅に減らしたこともあり売れ行きが落ち込んだ。
ただしライバル車を見ると、「日産エルグランド」も2022年の1カ月平均登録台数は約190台と少ない。「ホンダ・オデッセイ」は2021年に国内向けの生産を終えていて、同年の1カ月平均をチェックすると約1800台だ。
以上のように近年のLサイズミニバンでは、アルファードの登録台数が突出して多い。2021年はモデル末期に近かったが、1カ月の平均登録台数は7900台ほどに達しており、ミニバンに限らず3ナンバー車では圧倒的な売れ行きを誇った。
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顧客の望みをかなえた成果
アルファードが好調に売れた理由は、「良いクルマづくり」ではなく「売れるクルマづくり」を行ったからだ。走行安定性、乗り心地、燃費、居住性、乗降性といった機能をバランスよく向上させるなら、必要な室内高と最低地上高を確保したうえで、全高は低くするのが好ましい。ところがアルファードは、先代型になった時点でプラットフォームを刷新させたのに、床を低く抑えて重心を下げることはしなかった。背が高ければ、高重心になってボディーは重くなり、走行性能から燃費、乗降性まで機能を幅広く悪化させるのに、全高が1900mmを超えるボディーを踏襲した。
その理由を開発者に尋ねると「アルファードとヴェルファイアでは、高い着座位置による見晴らしの良さが、大切なセリングポイントになっているからだ」と返答された。立派な外観も人気の秘訣(ひけつ)で、そのためにも高い天井と厚みのあるフロントマスクはやめられない。
この考え方は、新たにGA-Kプラットフォームを採用する新型にも受け継がれた。フロントオーバーハング(前輪の中心点よりもボディーが前側へ張り出した部分)が45mm伸びたことを除くと、ボディーサイズは、床の高さなども含めて先代型とほぼ同じだ。
ちなみに販売を終えたオデッセイは、床がアルファードやヴェルファイアに比べて70mmほど低い。乗降性に優れ、低重心だから走行安定性も良かった。全高はアルファードやヴェルファイアに比べて約250mm低いが、低床設計だから室内高は70mm下回る程度で、車内の広さにも不満はない。
つまりオデッセイでは「必要な室内高と最低地上高を確保したうえで、全高は低いほど好ましい」というセオリーに沿った合理的な商品開発を行い、走行性能はアルファードやヴェルファイアよりも優れていたが、売れ行きは低迷して国内販売を終了させた。今後は中国製を輸入して復活させるが、販売店では「先代オデッセイのお客さまは、既に一部が他社に離れ始めている」という。車種を廃止すると、ユーザーは見放された気分になって離れてしまうのだ。
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ライバルの無策も追い風
このように今のホンダは、優れた商品を開発しても、売り方の失敗でユーザーを逃している。特にアルファードとヴェルファイアは、納期の遅延とフルモデルチェンジが近づいたことにより、2022年6月から約1年間にわたり受注を止めていた。この空白期間は、ライバル車のオデッセイやエルグランドにとって、絶好の攻め時だった。それをほとんど何もせず、ムダに過ごしてしまったのだ。
つまりアルファードとヴェルファイアの強さの秘密は、国内市場を軽く見ているライバル車、およびライバルメーカーの無策にもあるのだ。2023年1月~6月に国内で新車として販売されたクルマのうち、トヨタ車の占める割合は36%だったが、軽自動車を除いた小型/普通車に限ると55%に増える(レクサスを含む)。この背景にあるのも「国内市場は軽自動車と一部の小型車に任せればイイ」というホンダや日産の割り切りだ。
その点でトヨタは、少数のOEMを除くと軽自動車を扱わず、小型/普通車で稼ぐ必要がある。それでも最近は「ヤリス」シリーズや「アクア」が好調で、低価格化が進んだ。セダンも販売が不振で、「クラウン」の登録台数は、2021年には1990年の10分の1まで落ち込んだ。「プリウス」も2010年や2012年の10分の1にまで減少していた。
そうなると稼ぎ頭は、アルファードと、認知度の高さや保有台数の多さによって新たな姉妹車関係を復活させたヴェルファイアだ。内外装の質感から乗り心地まで、トヨタが得意な「売れるクルマづくり」に特化して、ライバル不在によるむなしい独り勝ちとなっている。
(文=渡辺陽一郎/写真=日産自動車、本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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