日産スカイラインNISMO(FR/7AT)
復活の大名跡 2023.08.08 試乗記 日産が誇るスポーツセダン「スカイライン」に「NISMO」バージョンが登場。“ザ・スカイラインGT”を開発テーマに、目指したのは究極のグランドツーリングカーだという。フェンダーに貼られた「GT」バッジの輝きは果たして本物か!?始まりは1964年
日本で初めての本格的な自動車レースといわれる日本グランプリ。今年はその第1回が開催されてから60年の節目を迎える。
時は高度成長期、そして世界のレースシーンはナショナルカラーからスポンサーカラーへの端境期ということで、当初から国内の自動車メーカーや一般企業のマーケティングにまつわる期待値も高いなか、その第2回、つまり1964年に巻き起こったのが、時のプリンス自動車が送り込んだ「スカイラインGT」が、投入間もない「ポルシェ904 GTS」の前を1周ながらも抑えて走ったという、今も語り継がれるエピソードだ。日本のクルマ好きにとってそれは東京オリンピックや新幹線開通よりも衝撃的な、もはや戦後ではないの最たる出来事だったのかもしれない。
以降、スカイラインは日本を代表するスポーツモデルとしての地位を絶対のものとする。S54系の偉業を「羊の皮をかぶった狼(おおかみ)」と言い表したのは有名な話だ。そのロードゴーイングモデルともいえるS54B型「スカイライン2000GT」はちまたで“スカG”と称され、後にプリンスの吸収合併先となった日産による「スカイラインGT-R」伝説の礎ともなった。
……と、これはかれこれ半世紀以上も前の話だ。オッさんたちにとってのその名の重さと、若きクルマ好きが描くスカイラインのイメージとは、少なからぬ乖離(かいり)があった。そのギャップを埋める役割を果たしたのが、2019年夏のマイナーチェンジで追加されたハイパフォーマンスグレードの「400R」だ。スカイライン史上最高となる400PS超のパワーが与えられたそのモデルは、一見すると標準モデルとの差異がわずかな、まさに羊の皮をかぶった狼のような存在だった。
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レースカーと同じ設備でチューニング
その400Rの走りをさらに磨き上げ、今日的なスカイラインの究極像を目指して開発されたのがスカイラインNISMOだ。
まずエンジンはVR30DDTTをベースに、NISMOでGT500クラスのパワートレインを手がけたエンジニアが同じ開発設備を使ってチューニングを施している。出力は400R比で15PSアップの420PS、そしてトルクは75N・mアップの550N・mを発生。仮に同じ3リッター6気筒ツインターボの「ポルシェ911」になぞらえれば、「カレラ」より「カレラS」に近いほどのハイパワーを得ていることになるわけだ。それをFRでドライブするというところにスカイライン的な矜持(きょうじ)がある。
トランスミッションは従来どおりの7段ATを用いるが、ドライブモードが「スポーツ」と「スポーツ+」に設定されている際には、NISMO専用の変速スケジュールを適用。高回転域が多用されやすくなっており、パドルを使わないAT走行時でもスポーツ走行に適したギアが保持される。また、パフォーマンスアップに合わせてブレーキは耐フェード性の高い専用配合のパッドを使用、ABS制御の最適化も合わせて100-0km/h時の制動距離を4m縮めている。さらにVDC&TCSにも専用のチューニングが施され、スポーツ走行に適した介入度や応答性を意識したものとなった。
タイヤは出力向上に合わせて前後異幅のダンロップ製ラジアルタイヤを採用。専用開発のコンパウンドや内部構造に加えて、トレッドパターンなども専用となり、NISMOの動的水準に応えるものとなっている。エンケイ製ホイールはリムが400Rに対して前が0.5J、後ろが1Jワイド化されており、サイドウォールの倒れ込みを抑えている。このあたりも量産水準とは一線を画するNISMOらしい攻めた味つけといえるだろう。ちなみにバネ下重量は400R比で10%ほど軽くなっているという。
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足まわりから感じる精度感
サスセッティングの面ではフロントのコイルレートを4%、リアのスタビライザーレートを44%引き上げてパワーアップに対処しながら運動性能向上を果たしている。また、車体側には特別な補強はないが、前後ウィンドウの接着に「GT-R NISMO」と同じ高剛性仕様を用いて、重量増などの影響なく補剛効果を高めている。その値はねじり剛性で15%ほどの差になるというから、動的質感向上においては少なからぬものだ。
エアロパーツ等による空力改善の効果は揚力低減が著しく、Cl値は400Rに対して半分以下の0.04となっている。一方でエアインテーク形状などの工夫で導風効率を高め、パワーアップ分に相応する冷却効率の向上を果たしているあたりは、緻密な解析技術などを用いたメーカー系ならではの仕事ぶりといえるだろう。
走ってみて、まず感じるのはNISMOという好戦的な名前から想像するものとはまったく異なる動きの優しさだ。発進からのスロットル操作とクルマの速度の乗り方が至ってリニアで、じんわりと歩みを進めるように走らせることも苦にならない。そこから速度をじわじわと40~50km/hに上げていくと、サスの動きがしなやかさを増していくのが分かる。そして路面の小さなギャップを踏んだ際の反応も角が丸く、小入力でも適切にダンピングが立ち上がっていることが伝わってきた。今回の試乗はテストコースということもあり、生きた路面ではまた違った応答をみせるだろうが、乗り心地については400Rと著しく異なるものではない、そのうえで動きの精度感が高まっていることは間違いなさそうだ。
本物のたたずまい
その精度感は、速度を高めていくとバネ下の動きを通じてくっきりと際立ってくる。普通であればバタバタと跳ねるような状況が想定される連続した凹凸での加減速でも、タイヤはしっかりと路面に追従し、接地感が薄れない。空力効果もさることながら足まわりのセットアップがきっちり仕上がっていることの証左だろう。アクセルオンで大きなギャップをあえて踏みにいっても伸び側がしっかり仕事をしながら車体の跳ね上がりをきっちり抑えていることが伝わってくる。そのような状況でもTCSやVDCの作動は最小限にとどめられており、クルマが手下に収まっている実感が安心へとつながっていく。
今どきとしては珍しいボア・ストロークとも86mmのスクエア構成となるエンジンは、7000rpm手前までパワーの伸びがしっかり感じられる仕上がりだ。限定100台となる「Limited」では製造公差をさらに詰めるべく、エンジンがGT-Rと同じ手組み工程で組まれるというから、そのフィーリングはひと際クリアなものになるのだろう。
対して標準仕様のスカイラインNISMOも1000台の限定販売となるが、それでもクルマのまとまり方にはただならぬオーラが感じられる。言い換えればそれは、解析やシミュレーションといった現代的な手法も駆使しながら、最終的にはエキスパートたちがきっちり煮詰めて丁寧にまとめ上げたがゆえの、本物のたたずまいともいえるだろう。識別点のひとつとなるフェンダーの「GT」エンブレムに涙むせぶファンは多いと思うが、この質感と刺激のバランスぶりは文字どおりスカGの名跡にふさわしいものだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
日産スカイラインNISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4835×1820×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:420PS(309kW)/6400rpm
最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/2800-4400rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98W/(後)265/35R19 98W(ダンロップSP SPORT MAXX GT600)
燃費:--km/リッター
価格:788万0400円/テスト車=847万円
オプション装備:RECARO製スポーツシート+カーボンフィニッシャー(58万9600円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2395km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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