「プリウス」「ヴェルファイア」だけじゃない! 存続の危機から人気モデルに返り咲いたクルマ
2023.08.30 デイリーコラムマツダ史上最大のヒット作に
去る6月にフルモデルチェンジした「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」。先代ではセールスが低迷していたヴェルファイアは世代交代を機にモデル廃止の予定だったが、諸般の事情から継続が決定。そうした経緯で登場した新型ヴェルファイアだが、受注は好調という。
ヴェルファイアのように存続の危機とまではいかなくとも、人気が低迷していたり、存在感が薄れていたりした車種がモデルチェンジによって息を吹き返し、ヒット作になることは昔からあった。その例で真っ先に思い出すのは1980年にデビューした5代目「マツダ・ファミリア」(BD型)である。
1963年に商用バンからスタートした、マツダの主力車種だったファミリア。初代はまずまず成功、ロータリーエンジン搭載車を加えた2代目は大衆車市場で「トヨタ・カローラ」「ダットサン・サニー」に次ぐ位置を確立した。その2代目のビッグマイナーチェンジ版となる3代目を経て1977年に登場した4代目は、欧州で小型実用車の主流となっていたハッチバックスタイルを採用。ただし中身は従来どおりFRのままで特筆すべき点はなかった。割安な価格もあってそこそこのセールスを記録したが、地味な存在だった。
この4代目をいわば“つなぎ役”として、3年5カ月という短いインターバルで、FFに転換して1980年に登場した5代目BD型。1960年代に社運を賭して開発したロータリーエンジン搭載車が、1973年に起きた石油危機により燃料消費過多のレッテルを貼られ、主役の座から追われて以降、これといったヒット商品がなく経営が悪化していたマツダ。そうした状況下で、ターゲットと定めた初代「フォルクスワーゲン・ゴルフ」をはじめとした競合車種を徹底研究し、妥協を許さずにすべてを新規開発したモデルがBD型だったのだ。
そのかいあってスタイリング、居住性、動力性能、ハンドリングなどすべてが高水準にまとめられ、しかも価格は割安だったBD型は発売と同時に大ヒット。長年にわたって銘柄別月間販売台数1位の座を独占していたカローラを破ること通算8回。国内のみならず欧州を中心に輸出も好調で、5年間に191万台が生産されるという、マツダ史上最大のヒット作となったのである。
とりわけ若者の間で人気が高く、“赤いファミリア”は社会現象としても語られた。リアウィンドウに東京ディズニーランドのステッカーを貼り、ダッシュボードにヤシの木の玩具を飾り、前席シートバックにTシャツを着せ、ルーフキャリアにサーフボードを載せ……といったBD型の姿は、1980年代前半の若者風俗を象徴するアイコンのひとつと言っても過言ではないだろう。そんなクルマは、めったにあるものではない。
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先進装備で復活
存在感が薄れていたが、キャラクターをガラッと変えて成功した例が6代目「三菱ギャラン」。1969年に「コルト ギャラン」と名乗って誕生した初代は、ジウジアーロの関与がうわさされたスタイリッシュなボディーに高性能なSOHCクロスフローユニットを搭載。それまでの三菱のよく言えば質実剛健、悪く言えば武骨でやぼなイメージを刷新したスポーティーなセダンで、セールス的にも成功を収めた。
車名を単に「ギャラン」とした2代目はひと回り大型化して初代よりおとなしくなり、市場では目立たなくなった。「Σ(シグマ)」というサブネームを加えて「ギャランΣ」となった3代目はさらに大型化したが、クリーンなスタイリングで好評を得た。そのキープコンセプトだった4代目を経た5代目、ギャランΣとしては3代目は、初代以来のFRレイアウトをFFに転換して1983年にデビューした。
1980年代の三菱車に共通する、リアフェンダーがホイール/タイヤにカブったフランス車風味のスタイリングのボディーは、従来の4ドアセダンに加えて流行していた4ドアハードトップを追加。だが、世はハイソカーブーム。その渦中においてはサイズもキャラクターも中途半端な感が否めなかった。
1987年に登場した6代目は、Σのサブネームを廃して車名を「ギャラン」に戻した。ボディーもスタイリッシュな4ドアハードトップ全盛の時流に逆らって、居住性を重視して全高が高めの4ドアセダンのみ。逆スラントのノーズを持つ筋肉質でマッシブなスタイリングは異質だが個性的だった。
パワーユニットも先代の途中から加えられたV6を廃して直4のみに戻し、頂点にはDOHC 16バルブターボエンジンを設定。それとフルタイム4WD、4WSなど最先端のハイテクデバイスを組み合わせたトップグレードの「VR-4」を中心に“先進的で高性能なセダン”というキャラクターを打ち出した。
スポーティーなセダンという意味では初代のコンセプトに回帰したといえるが、市場でも初代以来の存在感を示し成功した6代目ギャラン。だが「2代続けてヒット作を出せない」傾向のある三菱らしく(?)、3ナンバーサイズとなった次の7代目は先代の持っていた個性を自ら手放してしまい、再び埋没した。
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デートカーにも走りのクルマにも
1988年に登場した5代目「日産シルビア」(S13)。初めて実車を見たときの記憶は鮮明に残っている。殺風景な都内近郊の街道筋にある日産サニー店(シルビアの取扱店)の店頭に、初代シルビアをほうふつさせるイメージカラーの「ライムグリーン」をまとった発売直後のS13が小雨にぬれてたたずんでいた。雨粒をまとったボディーが、オーラを放つようにボーッと浮かび上がって見え、なんとも美しく印象的だった。
1965年に誕生した初代シルビア(CSP311)は、オープン2座スポーツの「フェアレディ1600」(SP311)のシャシーに美しいハンドメイドのボディーを架装した少量生産の高級パーソナルカーだった。1975年にその名を復活させた2代目(S10)からは「トヨタ・セリカ」のようなスペシャルティーカーとなる。3代目(S110)と4代目(S12)はボディーもセリカと同様にノッチバックの2ドアクーペとテールゲート付きの3ドアクーペの2本立てとなり、さらには販売店違いの双子車である「ガゼール」も加えられた(4代目の途中で消滅)。だが、2~4代目のいずれにも固定ファンはいたものの人気車種にはなれなかった。
そうした状況を一変させたのが、冒頭に記した5代目S13型である。2ドアノッチバッククーペに絞った(後に3ドアは姉妹車の「180SX」として復活するが)ボディーの、広告で“ART FORCE SILVIA”とうたった美しいシルエットと滑らかな面構成を持つスタイリングによって、発売と同時に高い人気を獲得。先行していた3代目「ホンダ・プレリュード」とともにデートカーブームを巻き起こした。
いっぽうでは、ライバルだったセリカやその弟分にあたる「カローラレビン/スプリンタートレノ」などがすでにFFに転換していたコンパクトなクーペ市場において、FRレイアウトを堅持していたことも大きな武器となった。当時日産が推進していた「901運動」(「1990年代までに世界一の“動的性能”を実現する」ことを目標に掲げた社内活動)から生まれたハンドリング性能は、走りを重視するユーザーから高く評価された。こうして硬軟双方のファンに支持された結果、S13は国内販売台数がおよそ30万台を数える、歴代シルビア中最大の成功作となったのである。
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原点を思い出せ
日産には原点回帰、というか最も評価の高かったコンセプトに戻して人気が復活した例が2つある。1台は1979年に登場した6代目「ブルーバード」(910)。4代目610型の途中から加えられ、5代目810型にもラインナップされた直6エンジン搭載のロングホイールベース版を廃止して直4エンジン搭載車のみとし、スタイリングもブルーバード史上最大のヒット作である3代目510型を思い起こさせる直線的でクリーンなものとなった。
ミドルクラスのセダンとしてあるべき本来の姿に戻した姿勢と内容、そしてイメージキャラクターに当時人気絶頂だったジュリーこと沢田研二を起用し、「ブルーバード、お前の時代だ」とつぶやかせた広告宣伝の話題性も加わって、6代目910型はブルーバードとしては510型以来のヒット作となる。戦前の「ダットサン」からの血筋を受け継いだ、日産の看板車種としてのポジションを取り戻したのだった。
もう1台は、よく語られる例ではあるが、1989年に登場した8代目「スカイライン」(R32)である。その前世代、“7th”(セブンス)こと7代目R31型は、ライバルの1台だった「トヨタ・マークII」が牽引(けんいん)していたハイソカーブームに照準を合わせ、大型化したボディーは4ドアセダンと4ドアハードトップのみという陣容でデビューした。ところがこのコンセプト変更が裏目に出て、市場での評価は散々だった。あわてて2ドアクーペを追加するなどのテコ入れを図ったが、当初の評価を覆すことはできなかった。
これに懲りて、次世代となるR32はぜい肉を大幅に削ってコンパクト化し、世がスカイラインというブランドに期待する姿であるスポーツセダンに回帰。これまた「901運動」から生まれた走行性能に加えて、イメージリーダーとして2.6リッターのツインターボユニットとフルタイム4WDをはじめとしたハイテクで武装した「GT-R」を16年ぶりに復活させたのだった。この軌道修正、というか復帰が功を奏し、スカイラインは名声を取り戻した。しかし、次世代となる9代目R33型では再び……という話は、長くなるので別の機会に譲ろう。
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姿を思い出せるクルマに
1970~1980年代生まれのモデルが続いたが、最後に比較的新しい例を紹介しよう。2014年に登場した8代目「スズキ・アルト」である。
1979年に誕生した初代アルトは、軽自動車のみならず日本の自動車史上に名を刻まれるべき傑作だった。1、2人で乗ることが多い足グルマとしての需要が主体と見込んで、後席が簡素な商用車登録とすることで当時の乗用車に課せられていた物品税を回避し、同時に助手席側ドアの鍵穴まで省略する徹底したコストダウンによって47万円という驚異的な低価格を実現。その狙いが当たって、発売と同時に大ヒット。後を追って他社も商用車登録のモデルをリリースして「軽ボンバン(ボンネットバン)」のブームが起き、沈滞していた軽市場に活気が戻ったのだった。
2代目からはDOHCターボユニットを積み、フルタイム4WDも用意された高性能版の「ワークス」を設定するなど選択肢を広げ、アルトは軽のリーディングブランドとして市場を牽引していった。だが1993年にやはりスズキから初代「ワゴンR」がリリースされると、再び他社も追随。軽市場の主役はボンバンからよりスペース効率に優れた「軽トールワゴン」に移ったのである。
市場構造の変化を受けて、5代目の途中の2000年にはワークスも廃止。経済的な足グルマという意味では原点に戻りつつあったともいえるが、存在感は薄れていった。2009年に世代交代した7代目アルトの姿を思い浮かべることができるかと問われて、答えられる人はそうはいないと思う。
そうした状況に風穴を開けたのが8代目アルトだ。「原点回帰」をコンセプトに掲げ、ボディーは女性ユーザーを主なターゲットとした柔らかなものから初代を思わせる直線基調のデザインに変更。同時に徹底して軽量化を図り、クラストップの燃費を実現した。そうした初代への先祖返りといえるベーシックカーとしての本質を追求するいっぽうで、久々にターボユニットを搭載したスポーツ指向の「ターボRS」や「ワークス」を復活させるなどして話題を呼んだ。おかげでトールワゴン全盛にあって、「そういやあったね」的な存在となっていたと言っても過言ではないアルトがプレゼンスを取り戻したのだった。
というわけで、モデルチェンジによって人気や存在感がよみがえったモデルの例をいくつか紹介してきた。それらに共通しているのは、代を重ねるうちにあいまいになってしまったコンセプトをビシッと定め、明快に打ち出した、ということではないだろうか。迷いがないぶん有効に力が発揮されて内容が充実、それがストレートにユーザーに伝わったというか。そんな単純なものではないのかもしれないが。
(文=沼田 亨/写真=マツダ、三菱自動車、日産自動車、スズキ/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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