アバルト695トリビュート131ラリー(FF/5MT)
オジサンは狙われている 2023.08.30 試乗記 全世界695台のうち、日本では計200台の台数限定で販売される「アバルト695トリビュート131ラリー」。往年の「フィアット131アバルト ラリー」をモチーフに仕立てられたイタリアンホットハッチの走りを、ワインディングロードで確かめた。「131ラリー」って知ってるかな?
そんなにリアスポイラーを突き上げたらかえって抵抗になるのではないか、と思わず苦笑いしてしまうけれど、ロゴをアピールするためにキャップのつばを上げて自己主張しているようにも見えて、いつものように何だか憎めない。もちろんこのリアスポイラーは0度から60度まで12段階の手動調整式なので、フラットにすることもできる。
「フィアット500」をベースに、パワフルな4気筒ターボエンジンを詰め込んだ高性能版の「アバルト595/695」にはこれまでにもさまざまな特別仕様車や限定車がラインナップされてきたが、今度は「トリビュート131ラリー」ときた。「695コンペティツィオーネ」をベースとしてコスメ系に手を加えた限定モデルで、グローバルで695台、そのうち日本仕様は右左ハンドルそれぞれ100台、計200台の台数限定モデルだという。
「131ラリー」とは、フィアットのファミリーセダンである「131ミラフィオーリ」をベースにアバルトが開発したWRC参戦用のいわゆるホモロゲーションモデルである。1976年当時のグループ4カテゴリーに認定されるため、最低生産台数400台の“ストラダーレ”がつくられた。初期のワークスカーは濃紺と黄色のオリオ・フィアット・カラー、後期はアリタリア・カラーをまとった四角い弁当箱のようなあれだ。
1977年と1978年、さらに1980年の3度マニュファクチュアラータイトルを勝ち取ったが、若い方にはあまりなじみがないはず。年代的に重なるのは私のような“アラカン”かそれ以上の年齢になるものと思われるが、レトロものに人気が集まる昨今なので、若者にもアピールするのかもしれない。
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「ストラトス」と「ラリー037」の間
その131ラリーが活躍した時代から40周年を迎えたことを記念した特別限定モデルがトリビュート131ラリーということらしいが、ちょっと苦しい建前だ。
ちょうど40年前の1983年は既にグループBの新型兵器「ラリー037」を擁したランチアがマニュファクチュアラーズチャンピオンに輝いている。そう、131ラリーは、あの「ランチア・ストラトス」(1974~1976年チャンピオン)とランチア・ラリーの間の時代に活躍したクルマである。
ストラトスから131ラリーへのスイッチには、市販車ビジネスへの貢献を求めたフィアット上層部の意向があったといわれているが(ライバルのフォードは「エスコート」を拡販していた)、チャンピオンカーとはいえ、歴史に残るこんな偉大なスターに挟まれては多少影が薄くなってもしかたないといえよう。
WRCのトップカテゴリーがグループ4からグループBへと完全に移行したのは1982年だから、40年というならその辺を使いたいところだが、まあ堅いことは言わないでおこう。それにしてもやはり今のクルマ好き、特に若い世代はピンとくるのだろうか? と首をかしげざるを得ないのだが、あるいは最初から年配層に照準を定めているのかもしれない。マニュアルギアボックスのみでもあることだし。
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物足りないけどまあいいか
当時の131ラリーは大胆に張り出したオーバーフェンダーをはじめとしてボディーパネルの大半を樹脂製に置き換え、スタンダードモデルとは似ても似つかない攻撃的なフォルムが与えられていた。それを思い出しながらあらためて眺めると、かつてWRC担当、今もクラシックカーラリーに出ているラリー畑出身の私にとっては、専用装備がちょっとちゃちいというか物足りない。
フロントのリップスポイラー、リアスポイラー、フェンダーアーチやサイドスカートなどはブラックアウトされ、かつてのイメージカラーだったというブルーとの2トーンカラーは鮮やかだが、フェンダーのリップはごく小さいもので全幅はコンペティツィオーネに比べて10mmだけ広がっている。タイヤサイズは同一である。まああまり武闘派に仕立ててはなおさらマニアックなオジサンたちしか寄り付かないだろうし、517万円(695コンペティツィオーネのMTは480万円)という価格を考えても妥当なところだと思う。
ダッシュボードパネルは「TRIBUTO 131 RALLY」のロゴと131ラリーのシルエットをモチーフとしたデザインがあしらわれるアルカンターラで覆われ、サベルト製のスポーツシートにも131ラリーのシルエットが型押しされている。
アバルト最強の1.4リッター直4ターボエンジンは変わらず、180PS/5500rpmと「スポーツ」モード時に250N・m/3000rpmを生み出す(「ノーマル」モード時は230N・m)。5段MTのみだが、前述したようにハンドル位置は右左どちらも用意されている。コンパクトなFWD車の場合は右ハンドルだとペダルまわりが窮屈になったり、オフセットしていたりと何らかの不都合がありがちだが、このクルマの場合は特に問題を感じなかった。それでもペダル位置などが気になる人はやはり左ハンドルのほうが無難だろう。
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「まあいいか」が「これはいい」に変わる
695コンペティツィオーネに搭載される1.4リッター直4ターボはいわゆるダウンサイジングターボとはちょっと異なり、ターボチャージャーが働き始めるとグワッと明確にパワーが盛り上がるタイプで、ちょっと懐かしささえ感じるが、そもそもがコンパクトなクルマなので(車重1120kg)、低速域あるいは動き出しの際にも扱いにくさは感じないはず(発進時のアイドルアップやヒルホールド機能も備わる)。しかも踏めば痛快にリミットまで回ってくれるので、今どき珍しくタコメーターの全部を使ってみたいと思わせるエンジンだ。
乗り心地も心配するほどスパルタンではない。短いホイールベースと限られたサスペンションストロークのせいで、凸凹道ではそれなりにきつく上下に揺すられることになるが、思った以上に当たりはソフトだから身構える必要はないし、大入力時でも十分にタフで粘り強い足まわりだ。
タイトなコーナーの立ち上がりであえて踏み込むとジリジリとわずかにはらむのがしっかり伝わってくるが、これも積極的に運転にかかわりたい向きにはむしろ歓迎されるキャラクターだろう。もちろんTTC(トルク・トランスファー・コントロール=いわゆるブレーキベクタリング)をオンにしておけば適切に抑えてくれる。
ちょっと安直じゃないか、なんて重箱の隅をつつくようなことを口にしながら乗っているうちに、いやこれいいんじゃないか、にどんどん気持ちが変わってくる。アバルトはオジサンたちの本当の気持ちを熟知しているのである。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アバルト695トリビュート131ラリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3660×1635×1520mm
ホイールベース:2300mm
車重:1120kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:180PS(132kW)/5500rpm
最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/2000rpm/250N・m(25.5kgf・m)/3000rpm(SPORTスイッチ使用時)
タイヤ:(前)205/40ZR17 84W XL/(後)205/40ZR17 84W XL(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:14.2km/リッター(WLTCモード)
価格:517万円/テスト車=520万3000円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETC2.0車載器(3万3000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2735km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:345.4km
使用燃料:33.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)/11.1km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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