第263回:フニャフニャと言っても過言ではない
2023.07.24 カーマニア人間国宝への道心の故郷は逆スラント
「清水さん、来週『アバルト695トリビュート131ラリー』の試乗ができますが、いかがなさいますか」
担当サクライ君より、そのようなメールが届いた。サクライ君からのメールに断りを入れたことはないが、今回も一応「乗る乗る~!」と返信した。
これまでアバルト695は、「トリブート フェラーリ」とか「エディツィオーネ マセラティ」とか、いろいろなトリビュートがあったように記憶しているが、トリビュート131ラリーとは渋すぎる。そこにツボがあるのは、還暦より上ではなかろうか。
かくいう私は、免許取りたての頃、つまり1980年あたりに、なぜか「フィアット131スーパーミラフィオーリ」に憧れていた。実物に触れる機会なんてあるわけなかったのに、あの逆スラントノーズのセダンボディーがものすごくカッコよく思えたのである。
なぜ逆スラントノーズに萌(も)えるのかは謎だが、日産の「ブルーバード」(910型)にも萌えたし、コンセプトカーの「IDx」にも萌えた。最初に自分のカネで買った愛車「日産サンタナ」も微妙に逆スラントだった。その後フェラーリ崇拝に入った私だが、心の故郷は逆スラントである。
「アバルト131ラリー」は、フィアット131をベースにしたWRCのホモロゲモデルだったが、逆スラントの2ドアセダンをラリー仕様に武装した姿には、今でも猛烈に萌える。「フィアット500」ベースのコロンとしたフォルムで、どうやってあれをトリビュートするのだろう。心配だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
どんな変態がいてもおかしくない
夜8時、わが家にやってきたソレは、どこからどう見てもフィアット500ベースのアバルト695そのもの。ボディーカラーが青いだけで、逆スラントの気配すらないが、ルーフスポイラーがほとんど垂直におっ立っていて、そこに逆スラント精神を感じることができた。
私には、もうひとつ心配があった。それは、「乗り心地が猛烈に硬いのではないか」ということだ。
実は私、乗り心地が猛烈に硬いクルマが猛烈に苦手だ。具体的にはセダンボディーの3代目「ホンダ・シビック タイプR」と、「ダイハツ・ブーンX4(クロスフォー)」、そして「アバルト595エッセエッセ」の3台である。トリビュート131ラリーは、ラリーマシンへのオマージュなので、ひょっとしてそのテのガッチガチな足まわりなのではないか。あのテは、乗っていると内臓が痛くてどうにもならない。
私は開口一番、サクライ君に尋ねた。
オレ:足、ガッチガチ?
サクライ:かなりガチガチです。
オレ:やっぱりか。
サクライ:でも、耐えられる範囲ですよ。
世の中には、足まわりが硬ければ硬いほどコーフンするという変態が存在する。私のような逆スラント変態もいるので、どんな変態がいてもおかしくないが、私はガチガチにめっぽう弱いので、耐えられるかどうか心配だ。
アバルト695トリビュート131ラリーの運転席(右ハンドル)に乗り込み、発進して数十m。
オレ:あれっ、そんなに硬くないじゃん!
サクライ:そうなんです。角が丸いというか、そんなに硬くありません。
オレ:これはエッセエッセに比べたら天国だよ!
サクライ:はい。ガチムチのエッセエッセに比べればフニャフニャと言っても過言ではないです。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
フェラーリ購入30周年記念日
足まわりがフニャフニャと言っても過言ではないトリビュート131ラリーで、首都高に乗り入れる。首都高のジョイントを越えても、フニャフニャと言っても過言ではない足まわりは十分カイテキ。それでいてほとんどロールしないので、コーナーを自在に攻められる。エンジンも痛快だ。
オレ:サクライ君、このクルマ、楽しいね!
サクライ:はい。楽しいです。
オレ:実は今日は、オレのフェラーリ購入30周年記念日なんだ。
サクライ:そうでしたか。もう30年ですか。
オレ:でも、30年前のことを振り返ったって、どーってことないんだよね。このクルマに乗ってると、昔より今が大切だって実感するよ!
夜8時台の首都高は、そこかしこにカーマニアを見かけることができた。「アバルト124スパイダー」を見てニヤニヤしたかと思えば、「シュパアァァァァァーン」というウエイストゲート音をさく裂させながら、青い「スズキ・アルト ワークス」がわれわれをブチ抜いていったりする。首都高は常にクルマで満ちているので、そこには“社会”がある。自分が社会の、そしてカーマニアの一員であることを実感しながら走ることができるのだ。こういう濃密な社会感は、箱根のワインディングロードにはない。
ああ、フェラーリ購入30周年記念日に、こんな楽しいイタリア車で、わが心の故郷・首都高を走ることができて、本当にシアワセだ。
トリビュート131ラリーは、私が萌える逆スラントじゃないし、崇拝するフェラーリ様とも似ても似つかないコロンとしたフォルムだけど、「今宵(こよい)、このクルマに乗れてよかった」と、心の底から思うことができた。ああ万物に感謝。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第346回:EVかいわいで辰巳かいわいへ 2026.10.12 清水草一の話題の連載。日産の「サクラ」と「アリア」、そしてホンダの「スーパーONE」と、国内メーカーがリリースする3台のEVに立て続けに試乗した。三者三様の走りを味わい、リアルに感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第345回:10秒ごとの快感 2026.9.28 清水草一の話題の連載。実に16年ぶりのフルモデルチェンジとなった日産の新型「エルグランド」が狙うのは、圧倒的な強さを誇るトヨタのミニバン「アルファード」と「ヴェルファイア」の牙城だ。早速、首都高でエルグランドの走りを確かめた。
-
第344回:アンパンマンよりばいきんまん 2026.9.14 清水草一の話題の連載。メルセデス・ベンツの新型「CLAシューティングブレーク」が気になってしかたがない。理由はその特徴的なフロントフェイス。左右の目玉(ヘッドランプ)がつながったデザインがたまらない。果たして実車の印象は?
-
第343回:おやじ、涅槃で待つ 2026.8.31 清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない?
-
第342回:どうしてこんなに高いんですか 2026.8.17 清水草一の話題の連載。BYDが日本の軽自動車市場に向けて独自開発した電気自動車「ラッコ」が上陸した。早速、愛車「ダイハツ・タント」の後継として検討すべく、近所のディーラーで試乗することに。果たしてその印象は?
-
NEW
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
NEW
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。 -
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。 -
第132回:軽EVのデザインを考える(前編) ―「スズキeスカイ」にみる“大衆車メーカー”スズキのスゴみ―
2026.10.14カーデザイン曼荼羅希代の凡作か? 実はすべてが計算のうちか? スズキ初の軽乗用電気自動車「eスカイ」の造形を、カーデザインの識者と考察。つかみどころのないイメージの背景にある、“大衆車メーカー”スズキの慧眼(けいがん)に思いをはせた。 -
先進のSUV「エクストレイル」という選択
2026.10.13SUVのフロントランナー 日産エクストレイルの魅力に迫る<AD>4代・四半世紀にわたって進化を重ね、SUVブームのなかでも開拓者であり続けてきた「日産エクストレイル」。その先進技術がもたらす“乗ればわかる喜び”とは? 最新世代の到達点について、詳しくリポートする。










































