クルマのリコールが増えているのはなぜなのか?

2023.09.12 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉

自動車のリコール(※)の件数・台数が増え続けているというニュースを耳にし、このQ&Aで聞いてみたいと思いました。その原因は「技術力の低下」なのでしょうか? それとも「昔ならそのままだった(あるいは隠されていた)ことが表面化してきた」ということなのでしょうか? 開発者としてはどうご覧になりますか。

※設計・生産段階で不具合のあった製品に対し、保安基準に適合させるべくメーカー等が必要な改善措置を行うこと。

理由はさまざまでしょうが、最も大きな要因は社会的なこと……つまり、「お客さまの考え方の変化」ではないかと考えています。「企業は必要な情報を開示すべきだ」という意識が社会に根づいたからではないかと思うのです。

以前は、リコールを出すというのはクルマの開発者にとって最も恥ずべきことであり、メーカーとしても“最後の手段”でした。リコールに至らない不具合の解決法はないものかと、皆で必死になって考えたわけです。それが今では逆に、早めに状況を告知して回収・修理対応をしたほうが企業の好感度が高くなる、という判断に変わってきています。

かつてはリコールなど出したら世間の評判が悪くなると思っていたのが、真逆になった。それこそが数字が増えている最も大きな理由であって、決して技術力が低下してきたからではないと思います。

しかし、そうはいうものの、品質管理上の理由も一因として挙げられるかもしれません。例えば、私が知るトヨタではありえないことなのですが、サプライヤーのパーツについて、性能面での前評判がよかったらあえて自社製品との相性をチェックしないで使うとか、設計上のキャパシティーを超えて幅広い車両に転用してしまうとか……。そうしたうわさが、業界から聞こえてこないわけではありません。

特に、電動化シフトのために膨大な研究開発費が必要になっている今、既存のクルマにはあまりお金をかけたくないという考えは、どのメーカーでも共通のものです。結果的に、耐久性のマージンをギリギリまで詰めるなど、コスト的なしわ寄せから不具合が生じる可能性はあります。

それで万が一リコールになっても昔ほど大騒ぎにはならず、早めに対処すればユーザーのイメージも極端には落ちないとなれば、ますますギリギリを攻めるようになり、リコール件数は増えてしまう……。このように、リコールに対する世の感覚が変わってきて、それに応じてメーカーの対応も変化した、その結果と考えています。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。