フェラーリ・ローマ スパイダー(FR/8AT)
跳ね馬は甘美に舞う 2023.09.27 試乗記 “Dolce Vita”(ドルチェヴィータ=華やかで自由気ままな生き方)を体現するフェラーリのGTモデル「ローマ」に、電動ソフトトップを備えた「スパイダー」が登場。2+2シーターの優雅なオープンスポーツは、スタイリングだけでなく走りも甘美だった。優雅なフォルム、秀逸なソフトトップ
クーペの登場から3年と少し。2023年3月にフェラーリ・ローマのオープンモデル、ローマ スパイダーが発表された。フェラーリのFRオープンモデルとしては「デイトナ スパイダー」(365GTS/4)以来、54年ぶりとなるソフトトップを採用したことが最大のニュースだった。それでいてクーペのフォルムをほぼそのままキープした美しいクローズドスタイルに、多くのフェラーリファンが賛辞を送ったものだ。
もっとも、半世紀前のスパイダーとはまるで別次元のソフトトップである。もちろん電動式だ。センターコンソールに新たに設けられたスイッチを長押しすれば、頭上に青空が広がるまでわずかに13.5秒。トップは堅牢(けんろう)な5層構造で、吸音効果の高い素材も挟み込んでいる。そして、けっこう“ハード”だ。ナイフを突き立てようなどとは思わないくらいに硬い。Z構造の骨組みを持ち、リアスクリーンとともにすっぽり格納スペースへと収まる。ソフトとはいえ60km/hまでの車速なら走行中の開閉も可能だ。このあたりは、リトラクタブルハードトップ(RHT)に慣れた現代人には必須というべき性能なのだろう。
生地の素材も凝っている。ブラック以外の4色(レッド、マロン、グレー、ネイビー)ではカーボンファイバーのように繊維が格子状に織り込まれ、独特の光沢と立体感を醸し出している。
さようなら「ポルトフィーノM」
デュアルコックピットスタイルのインテリアは、基本的にクーペから継承したものだ。特にフロントシートまわりは、選べるシートスタイルも含めてまったく同じ。トップの開閉スイッチ以外に、大きく変わった点はない。
リアシートに目を向けると、穴の空いた大きなレザーパネルがシートバックと一体になっているように見える。実は、これが新開発のウインドディフレクターだ。トップ開閉と対の位置にあるスイッチを押せば、ロックが解除され、ダンパーによってゆっくりと跳ね上がる。収納は手動だ。170km/hまでの車速で展開できるが、あらかじめ展開さえしておけば、何km/hまででも使用可能という。不格好なディフレクターよりも随分と収まりがよく、また後方視界の妨げも最小限だ。
トップ生地と同じ素材で覆われたトノカバーはリアヘッドレストと一体化されており、オープン時の収まりも非常に美しい。
オープン化による重量増は84kgに抑えられた。リアセクション構造は「ポルトフィーノM」から発展させたもの。サイドシルやAピラーもまたクーペとは異なる構造だ。もちろん、サスペンションをはじめ動的な制御のキャリブレーションもスパイダー専用のセッティング。ほかに既存のローマから進化した装備としては、レーンキープアシストや自動緊急ブレーキの備わった最新のADASや、交通標識を読み取るカメラ機能を挙げておこう。もちろんクーペにも順次導入されるという。
ローマ スパイダーの生産は2023年末にスタート。クーペとスパイダーの2本立てとなったことでポルトフィーノMの後継モデルという位置づけが定まった。ちなみにポルトフィーノMは受注分で生産終了だ。
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ユニークなだけでなく確かな効果がある
国際試乗会はイタリア・サルデーニャ島で開催された。フェラーリの試乗会は、ピュアなスポーツモデルなら季節の許す限りフィオラノで、スパイダーやGTモデルは風光明媚(めいび)なイタリアの名所で開催される習わしである。
パワートレインはクーペから変更なし。最高出力620PS、最大トルク760N・mの3.9リッターV8ツインターボエンジンに8段DCTを組み合わせてフロントミドに押し込んだ。加速タイムのメーカー公表値は、0-100km/hはクーペと変わらず3.4秒、重量差が効いてくる0-200km/hは0.4秒落ちの9.7秒というから、まずはクーペと変わらない性能をキープしたといっていいだろう。つまり、十分に速いというわけだ。
オープンにした状態で右足を踏み込めば、クーペと同等、もしくは風を感じるぶんそれ以上に速く感じる。下品になりすぎず抑制の利いたエキゾーストサウンドのシャワーも、加速フィールをいっそう盛り立てる。
それよりも驚かされたのは、例のユニークなウインドディフレクターがとてもよく効いたことだ。サイドウィンドウも立てた状態なら、けっこうな速度域まで車内に風を巻き込まない。頭上の髪の毛だけに風が当たっているという程度だ。
乗り心地も、既存のクーペよりわずかによく感じた。前輪のつっぱり感がかなり薄れ、代わりにハンドルを握る両手とのしなやかな一体感が増している。つまり、前アシがとても扱いやすい。
自動車の快楽はエンジンだけにあらず
フットワークのよさは、ワインディングロードを走らせるといっそう顕著になった。ハンドル操作と正確に連動するノーズの動きはクーペでも突出した魅力のひとつだったけれど、精緻さがさらに増し、リアの動きもよりいっそう自然でスムーズに感じる。ただ単に正確なだけでなく、ステアリング操作からノーズの反応、車体の旋回という一連の動きが、どんな速度域においてもシアワセなレベル。ただハンドルを切るだけで気持ちが高ぶるスポーツカーなんてそうそうない。一生懸命走らせなくともそう思えるのだから、たいしたものだ。このあたり、エンジンの官能性に代わる電動化時代のドライビングファンをも見据えているような気がしてならない。
もちろん、ローマ スパイダーにはまだV8エンジンが積まれている。切れ味鋭い変速をみせる8段DCTに素晴らしいエキゾーストサウンドが相まって、その味わいはやはり格別だ。ブレーキのフィールも申し分なく、もちろん確実に止まってくれるから減速すら楽しめた。
加えて、そんな絶対的なパフォーマンスだけがスポーツカーの楽しさでないこともまた、このローマ スパイダーは教えてくれた。風と空を感じつつ、車体を自由自在に操っているという感覚を、クルージング領域から楽しむことができる。誰かとなにかを競うのではなく、愛機との対話そのものを各自の技量レベルに応じてたしなむ。それはまさに命ある乗馬に近い。
もうひとつの甘い生活、ドルチェヴィータ。ローマ スパイダーはSweetest Ever。マラネッロ史上、最も優美にして甘美なプランシングホースであった。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
フェラーリ・ローマ スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4656×1974×1306mm
ホイールベース:2670mm
車重:1556kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:620PS(456kW)/5750-7500rpm
最大トルク:760N・m(77.5kgf・m)/3000-5750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)285/35ZR20(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:3280万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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