フェラーリ・ローマ スパイダー(FR/8AT)
キミのためなら死ねる 2025.04.21 試乗記 優雅な走りとスタイリングを旨とするグランドツアラー「フェラーリ・ローマ」。そのオープントップモデルは、どれほどの“Dolce Vita(甘い生活)”を体現しているのか? あまたのフェラーリを乗り継いだ清水草一が「ローマ スパイダー」の魅力を報告する。久々にぶっ刺さった
フェラーリは、「一にエンジン、二にカッコ」だと思っている。逆に言うと、エンジンとカッコさえよければあとはどうでもいい。ブレーキなんて弱くていいし、コーナリング性能は「ハンドル切れば一応曲がる」程度でもいい(私見です)。私が今乗っている「328GTS」は、現代の基準からすると、まさにそういうクルマだ。
ただ、「一にエンジン、二にカッコ」というだけに、カッコよりもエンジンが上位にくる。フェラーリの魂はエンジンにあるのだ。フェラーリのロードカーは、フェラーリサウンドを奏でるエンジンあってこそ、である。
ところが、「488」以降のV8ターボフェラーリは、エンジン(のフィーリング)に魅力がなかった。カッコも全部好みじゃなかった。
そんななか、私が唯一心を動かされたのはローマだ。V8ターボは相変わらずだけど、カッコがすばらしく美しい。1960年代のフロントエンジンフェラーリをモチーフにしたエクステリアは、古典的な美に満ちている。でもなにかが足りない。「キミのためなら死ねる!」というなにかが。
自動車デザイナーの渕野健太郎さんは、ローマについて、「フェンダーの上部がちょっとポテッとしているのが残念」という趣旨の評価をされたが(参照)、そのせいか、お金持ちの奥さま用に見えてしまう。もうちょっとフェンダーがビッとマッチョかつタイトに張り出していたら、「キミのためなら死ねる!」と思えたかもしれない。惜しい。
ところが、ローマ スパイダーには心がときめいた。ローマをオープン化しただけなのに、見た瞬間にウットリした。それは、美しい女性を見た時と同じ反応だった。菊池桃子さまとか。
フェラーリは女性名詞で語られるが、実際にはかなり野蛮で男性的なクルマだ。野蛮で男性的な美しい女性、ということですね。ところがローマ スパイダーは、野蛮でも男性的でもなく、純粋に美しい女性だった。思えば、こういうフェラーリに出会ったのは初めてかもしれない。純粋に女性的なフェラーリって、とても甘美なものですね……。
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耽美な生活に喧噪は無用
なぜローマはちょっと足りなくて、ローマ スパイダーだとOKなのか。これは個人的な見解ですが、あの美しいボディーがオープン化されることで、走りを完全に捨て(捨ててませんけど)、純粋なる“甘い生活“を予感させるからだろう。
ローマはクーペなので、そうはいかない。「キミのためなら死ねる」という切羽詰まった激情が沸き上がらないといけない。いっぽうスパイダーは「ウットリ~」でよし。私は生まれて初めて、「このカッコがあれば、エンジンフィールはいいや」と思った。フェラーリなのに!
ちなみに、初対面時のローマ スパイダーは、幌を閉じていた。このクルマは、クローズド状態でも十分ウットリできる。開けたらもっとすごいんです、という予感でいっぱいになる。これは非常に重要なポイントである。
インテリアも甘美だ。近年のフェラーリのコックピットは、プレステ化が進みすぎたように感じていたが、ローマは操作系も色使いもシックで落ち着いている。色はオーダー次第でしょうけど、今回の試乗車は、エクステリアもインテリアも、色を含め、派手さを抑えた絶世の美女だった。これが愛車だったら、さぞや「妻は女優」気分だろう。
エクステリアとインテリアだけで、ローマ スパイダーの評価は決した。あとは付け足しだが、一応走りも確かめた。
ちょっとエンジンがうるさいな……。
まず、スターターボタンを押した瞬間の「ボワ~ン」という音が大きすぎる。抑えた絶世の美女に、いきなり「ゴラァ!」と怒鳴られたようだ。アイドリングストップから復帰するたびに「ゴラァ!」と怒鳴る。アイドリングストップをストップさせるスイッチがどうしても見つけられなかったので(スイマセン)、一日に何度怒鳴られたことか。女優を妻に持つって大変だ。
走行中もちょっと音が大きすぎる。ソプラノのフェラーリサウンドなら、鼓膜が破れてもいいのだが、V8ターボは声変わりした中学生みたいな声で鳴く。「ああ、サイレントモードが欲しい」と思った。
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エンジン“以外”は全部最高
エンジン特性も、まったくもって私の好みではない。ゆっくり流していると、1200rpmくらいで走ってしまうほど低速トルクが太い。最大トルク発生回転数は3000rpmから5750rpmとなっているが、2000rpmからの間違いのような気がしてならない。2000rpmも回っていれば、アクセルを踏み込んだ瞬間にすばらしい加速をする。ただし、5000rpm以上回っていても同じくらいだ。
いや、甘い生活のローマ スパイダーは、切羽詰まった高回転高出力型じゃなくてもいいのだが、こういう特性なら、もうちょっと音を静かにしてもらえないか。私は女優の妻と静かに暮らしたいので。
エンジンに関しては随分と注文をつけましたが、そのほかは全部よかったです。特に乗り心地は、いわゆる「しなやかスポーティー」のお手本。絵に描いたように甘美だった。
ローマ スパイダーにも、フェラーリお約束の「マネッティーノ」(ドライブモードセレクター)が付いているが、ジェントルなほうから順に、「ウエット/コンフォート」は一般道で最高。「スポーツ」は高速道路で最高。そこから「レース」にチェンジしても、サーキット用の香りはなく、依然として高速道路で最高のままだった。
コーナリングもシャープすぎず、風と戯れつつ優雅に流すのにピッタリ。近年のフェラーリのハンドリングは、こぶし1個分切っただけで1車線横っ飛びするくらい超絶シャープなのが定番で、私はそっちも大好きですが、ローマ スパイダーにはこういうエレガントな味つけがよく似合う。
帰路。高速道路でACC(アダプティブクルーズコントロール)を使った。フェラーリで体験するのは生まれて初めてだった。ついにフェラーリにもACCが導入されたのだ。
これぞ甘い生活だった。エンジンフィールがいまひとつなおかげで、ACCにまかせて1200rpmで巡航してもぜんぜん惜しくない。むしろ大満足。こういうフェラーリが自宅に一台あってもいい。お財布に余裕があれば。
(文=清水草一/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=フェラーリ・ジャパン)
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テスト車のデータ
フェラーリ・ローマ スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4656×1974×1306mm
ホイールベース:2670mm
車重:1556kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:620PS(456kW)/5750-7500rpm
最大トルク:760N・m(77.5kgf・m)/3000-5750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)285/35ZR20 104Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:3280万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1032km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:185.4km
使用燃料:27.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.6km/リッター(満タン法)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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