プジョーの“猫足”はどのようにできている?
2023.10.10 あの多田哲哉のクルマQ&Aプジョー車の乗り心地について、自動車メディアなどでしばしば“猫足”という表現を目にします。「猫の足腰のようなしなやかな足まわり」と解釈しているのですが、それは技術的にはどのように実現されるのでしょうか?
猫足という言葉は昔からよく耳にしますが、何がどうなっているのか、メカニズム的なことはあまり知られていないかもしれませんね。
基本となるサスペンションのセッティングでいいますと、まずスプリングはかなり軟らかめに設定されています。すると、フワフワして揺れがおさまらない状態になるわけですが、ショックアブソーバーの縮み側の減衰力は普通の硬さにし、伸び側の減衰力をうんと高めます。
すると「伸び側でふわっときたのを、ガッと抑え込む」仕様になり、それに合わせてパワーステアリングをはじめとする周りのセッティングを決めていく……というのが猫足づくりの基本ですね。
いまはシミュレーションの技術が発達していますから、クルマの諸元(車重/ホイールベースの長さ/タイヤサイズなど)を入力することで、例えば「減衰が一番速くおさまる仕様」といった、開発者が想定する足まわりのセッティングをはじき出すことはできるのです。机上でも、実際に装着してそのまま販売して問題ないくらいの仕上がりにはなります。それをさらに、テストドライバーの感性で微調整して市場に出すというのが一般的な手法です。
そういう値の決め方からすると、前述のとおり、プジョーのクルマはかなりスプリングを軟らかめにして、ショックアブソーバーの伸び側の圧で減衰を稼ぐ仕様になっていると思います。
こうした猫足がなぜフランスで生まれるのかといえば、道によるところが大きいです。はっきり言って、フランスはひどい道が多い(笑)。しかしデコボコした道でも、猫足ならばアタリがソフトで、トラクションが抜けにくい感じが得られるのです。
とはいえ、ドイツ車のようにカチッとした乗り味を好む方は多いですし、むしろそちらが世の王道になっています。フランス車的な猫足は初期ロールが大きいので、不安に感じる人もいる。だからどのメーカーもこぞって猫足を目指すということにはなりません。
どちらがいいと優劣はつけられませんが、プジョーの猫足は、ひとつの特徴として、しっかり主張できていますね。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。