新型「ホンダ・プレリュード」は、令和のデートカーになれるのか?
2023.11.13 デイリーコラムモヤモヤするスポーツクーペ
ジャパンモビリティショー2023に出展されたホンダの2ドアクーペ「プレリュード コンセプト」。近い将来の市販化に向けて開発が進んでいるという。ホンダがスポーツクーペを復活させるのは大変めでたいことだが、個人的にはそのデザインにあまりピンとこず、「これが新しい『プレリュード』かぁ。ふーん」という、やや冷めたものになった。
大方の反応はポジティブらしいが、常に自分が購入することを考えつつ重箱の隅をつつく習性のあるカーマニア層からはプレリュード コンセプトに対して、すでにいくつかの疑義が提示されている。代表的なものは、以下の3点だ。
① なぜ人気だった2代目、3代目のイメージを復活させず、4代目の現代的解釈っぽいカタチなのか?
② プレリュード コンセプトは、現代のデートカーの提案だというが、今の時代に40年近く前に大流行した2ドアクーペが、デートカーとしてイケるのか?
③ そもそも、今の時代にデートカーなんてアリなのか?
①については、ホンダの開発陣が明確に回答している。このクルマは、かつてのプレリュードをリバイバルさせようとして開発が始まったわけではなく、「ネーミングは最後についてきた」(本田技研工業 四輪事業本部 四輪開発センターLPL室 LPLチーフエンジニア 山上智行氏)。つくってみたらプレリュードという名前がピッタリだった、らしい。
続いて②について。現代のデートは、若者による異性とのデートだけでなく、親子2世代の交流が想定されている。かつてプレリュードに代表されるデートカーに熱狂した父(あるいは母)と、それを知らない世代の息子(あるいは娘)とのドライブもデートに含まれるというのが、ホンダ開発陣の回答だ。
それは、③に対する回答にもなる。
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再び輝くための“切り札”は……
私はデートカー世代ど真ん中。1980年代前半に、プレリュードがどれくらい輝いていたかを知っている。
当時は日本人が、物質だけではない、スタイルを伴った「スマートな豊かさ」を初めて知った時期だった。われわれデートカー世代は、戦後の飢餓からのし上がった親世代のガツガツした欲望をどこか忌避する気分があり、家具調テレビを思わせるおっさん臭いセダンではなく、速そうなカタチのスタイリッシュな2ドアクーペに強く憧れた。2代目プレリュードはそれにドンピシャ。われわれはスーパーカー世代でもあるから、憧れのリトラクタブルヘッドライトは鬼に金棒だった。
われわれ男子だけでなく、女子たちもプレリュードでのデートに憧れた。当時は中身がダメ男でも、プレリュードのようなカッコいいクルマに乗っていればデートできる確率は高かった。1980年代のデートカーは、それくらいジョーカー的な存在だった。
3代目プレリュードの価格は、130万円から208万円。ほとんどのグレードが100万円台だった。「トヨタ・ソアラ」が300万円台中心だったのに比べれば、2代目/3代目プレリュードは、値段の割に非常にカッコよく、コスパが猛烈に高かった。デートカーは若者が乗るものだったから、安くてカッコいいことが重要だったのである。
現代の若者は、当時の若者よりもっと貧乏だ。日本が貧乏国になったのだから当然だろう。しかもクルマに割ける予算は、昔と比べてグンと少ない。カッコいいクルマが全然ジョーカーにならないのだから、あたり前田のクラッカー!
ホンダも新型プレリュードを、「親世代が買って子世代も乗る新しいデートカー」と考えているようだ。つまり、プレリュードが成功するか否かは、われわれデートカー世代にかかっている。われわれは新型プレリュードを欲しているだろうか?
「『タイプR』が出れば欲しいかもしれないなぁ」
大勢はそんなところでしょうか? 「プレリュード タイプR」。なんだかすごく新鮮じゃないか! 青春がでっかくなって帰ってきたみたいで。
(文=清水草一/写真=本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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