巨大な本社を直撃取材! 中国で感じたBYDの底力と“BEV先進国”の現在点
2023.11.17 デイリーコラム日本でも注目度は急上昇
世界的な乗用車の電気自動車(BEV)シフトは、中国を中心としたアジア系自動車メーカーの世界進出の足がかりともなっている。それは日本でも同様で、韓国・ヒョンデの再上陸に加え、中国車メーカーのBYDが新規参入を果たした。オンライン販売に象徴される新たな販売手法を模索するヒョンデに対して、BYDは独自のディーラー網を展開。さらにジャパンモビリティショーでも大々的なブースを構え(参照)、その存在をアピールした。一般公開日でもブースは盛況で、多くの人が中国車とはいかなるものかと興味を抱いていたようだ。
そのBYDは、2022年7月に日本の乗用車市場への参入を発表(参照)。2023年1月のコンパクトSUV「ATTO 3」に続き、同年9月にはコンパクトハッチバック「ドルフィン」を発売した。そして来春には、ミッドサイズセダン「シール」の導入も予告している。今回はそのシールの、アジアパシフィックの販売会社向け試乗会を取材できることになり、中国・珠海(ジュハイ)に向かった。
しかし記念すべき人生初の中国行きは、波乱の幕開けに。まずは大型台風の発生で飛行機がディレイ。しかも着陸地である香港国際空港付近が悪天候のため、最悪の場合、日本に戻るという条件付きのフライトとなった。なんとか遅れて香港空港に到着したものの、今度は近道となるはずの香港と珠海を結ぶ「港珠澳大橋」が通行止め。結果、当初はバスで40分だった予定が、陸路による迂回(うかい)でなんと4時間もの長旅となってしまった。
バスの移動中の景色で感じたのは、見慣れないクルマの多さだ。海外ブランドの中国専用車も含まれるが、そのほとんどは中国メーカーのものである。実際、2023年9月の中国の自動車生産台数上位10車種を見ると、1位の「テスラ・モデルY」と4位の「フォルクスワーゲン・サギタ」(「ジェッタ」の中国名)を除けば、ほかはすべて中国メーカーのものだ。ちなみに、その半分にあたる5台はBYDである。
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本場・中国のBEV事情
そんな中国の乗用車を見ていると、大きく2つのナンバーに分けられているのに気づく。ひとつが青地のもの。もうひとつが、白から緑のグラデーション地のものだ。その色分けの意味は、前者がエンジン車およびハイブリッド車、後者が新エネルギー車を意味する。中国が定義する新エネルギー車は、BEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、そして燃料電池車である。見れば街を行く中国車はグラデーションナンバーのものばかり。特にBEVが中心だ。その背景には、中国の自動車事情がある。
現地での移動をサポートしてくれた中国人ガイドの話によると、青ナンバーのクルマを購入する場合、ナンバー取得などの費用が高額となるうえ時間も非常にかかるが、新エネルギー車ならその費用が安くなり、時間も非常に短縮されるという。また税制面でも優遇があり、後者なら取得税が大幅減免。さらに北京市では、新エネルギー車に乗り換えると最大1万元(約20万円)の補助金も支給される。このような補助金や税制優遇があるので、新たにクルマを買うなら新エネルギー車がまずは候補となるのだ。ガイドの彼もBEVのオーナーで非常に快適だという。
しかし、充電インフラはどうなのだろうか? 彼に「BEVで中国一周なんて可能なの?」と尋ねてみると、「政府の支援で国内主要道路には充電施設が整備されているので、問題ない」という。しかし珠海の街なかでは、充電しているクルマの姿をあまり見かけない。それを不思議に思ったが、その秘密は電気代にあるようだ。要するに、時間によって充電料金が異なるのだ。最も高い日中は約2元/kWだが、最も安い深夜から早朝ならば、約1元/kWまで抑えられる。だから皆、急ぎでなければ夜中に充電するのだ。実際、高速道路の充電器に張りついていたのは商用車のみ。ちなみに急速充電も多くの会社があり、それぞれ独自のアプリで承認や決済を行うそうだが、それをまとめて管理するアプリもあるので、さほど不便ではないとのことだった。
その一方で、今回の取材では青ナンバーを付ける「ポルシェ・カイエン」や「BMW 5シリーズ」「ランドローバー・ディフェンダー」などの最新高級車の姿も多く見かけた。恐らく富裕層の間では、エンジン付きの高級外車に乗ることがステータスとなっているのだろう。
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実際に乗って感じた「BYDシール」の実力
話を取材内容に戻すと、初日のミッションは「新型車シールの試乗」だ。今回の試乗会は販売会社向けのイベントなので、会場はちょっとしたお祭り騒ぎ。その盛り上げ役として登場したのが、なんと“ドリキン”こと土屋圭市氏だった。後輪駆動のシールでドリフトを披露すると、すぐにタイヤからの煙でコースは真っ白に。消しゴムのようにこすりつけられたタイヤは、数分の走行で表面が剝がれていた。
その後は、珠海国際サーキットでわれわれもシールに試乗。ペースカー先導で車速も60~120km/hほどと、“公道+α”程度の内容ではあったが、モーターによる俊敏な加速は実感できた。ただ、試乗した4WD車はフロントモーターが160kW(217PS)、リアモーターが230kW(313PS)、システム全体では390kW(530PS)の最高出力を持つというが、そこまで刺激的ではなかった。あるいは何かの制御が介入してパワーセーブしていたのかもしれない。足まわりも巧みにタイヤのグリップを引き出すというものではなく、スポーティーさもほどほど。走らせての印象は、総じてモーター頼りの感覚が強かった。ただステアリングやペダル類などの操作性はよく、乗り心地も良好。コンフォートセダンとして考えれば、不足はなさそうだ。
また内装チェック時には面白い発見もあった。なんと車内にマイクが2本装備されていたのだ。こちらは、まさかの車内カラオケ機能用。インフォテインメントシステムには「KARAOKE」と記されたアプリが搭載されていた。これが音質も良好で、デンマーク製の高級スピーカー「Dynaudio」がかなりの臨場感をもたらしている。中国ではカラオケ人気がすごく、若い人が集まれば必ずと言っていいほどカラオケなのだとか。そんな国民性に配慮しているのは、さすが、ご当地ブランドだ。
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来歴に見るBYDの“強み”
次なるミッションは、翌日の深センにあるBYD本社の訪問だ。深センは経済特区としてさまざまな企業が拠点を設ける工業都市である。世界的な有名企業を挙げると、ゲームで有名なテンセント、半導体メーカーのTSMC、スマホなど通信機器のファーウェイ、ネット通販のアリババなどがある。BYDも1995年に同地で創業した。当初はバッテリーメーカーだったが、2003年に国営自動車メーカーを買収し、自動車事業に進出する。その後、バスやモノレールなども手がける巨大メーカーとなったことはご存じのとおり。本社もとてつもなく広大で、会社内に社員寮があり、会社や工場への出勤のために専用のモノレールが走っていると聞けば、その規模を想像できるだろう。
今回の取材では開発拠点や工場の見学を期待していたが、残念ながら、本社に隣接する同社の歴史・製品を学ぶ博物館の見学どまり。正直、物足りなさを感じたが、BYDの強さの秘密を垣間見ることはできた。例えば、彼らが乗用車事業に参入した際、当初は他社と同じく大手サプライヤーからの部品調達を前提としていたが、端的に言えば相手にされなかった。そこで諦めないのがBYDで、それらの部品の内製化を決断。今でも自動車の主要部品であるエンジン、足まわり、駆動系などは自社製でまかなっているという。そこで培われた高い技術力が、製品への強い自信につながっているのだ。またバス事業に参入したことで、当時政府が環境汚染対策のひとつとしていた電動バスの大量受注に成功。それも自動車開発の資金源のひとつとなった。
また海外戦略では、バッテリーだけでなく、スマートフォンやノートPCのカバーなどの部品も手がけることで、現地の企業と信頼関係を築いてきたという。展示されているスマホを見ると、日本で見慣れた製品を発見。それは、私自身も知らないうちにBYD製品に触れていたという事実を物語っていた。
日本メーカーにとって脅威となるか
BYDが日本の自動車市場を席巻する可能性は、現時点では低い。同価格帯の日本製BEVがないわけではないし、他のパワートレインも含めれば選択肢はさらに広がるからだ。また国内外のBEVすべてが「売却価格が低い」という課題を抱えている。そのリスクヘッジのためにも「安定のブランドを選びたい」というのが、一般的な消費者の本音だろう。
ただ日常を振り返ると、われわれが使う日用品の多くが中国で生産されている。そして、今や家電や電子機器を中心に、中国ブランドが生活に浸透しつつある。価格と品質、サービスにお得感があれば、いずれは中国ブランド車を積極的に検討する人が出てきても不思議ではない。すでにBYDジャパンは、今日までにATTO 3で800台以上、「ドルフィン」で600台ほどの受注を得たという。販売店が限られている導入初年度の実績と考えれば、悪くないだろう。なんといっても日本では未知の存在なのだから。
現在では世界的なBEVシフトの雲行きも怪しくなりつつあり、PHEVが再び存在感を示しつつある。その点でもBYDに抜かりはなく、例えば本国ではPHEVもしっかりと展開している。他方で海外進出を急ぐ背景には、中国市場の先行き不安がある。今や世界最大の自動車市場である中国だが、不動産企業の経営破綻や海外メーカーの撤退などにも表れているとおり、その景気には陰りが見え始めている。多くの社員を抱える大企業としては、国外の市場確保こそが生命線なのだ。ありがたいことに、本格展開を図る東南アジアでのBEVへの関心は高い。こちらでも政府が積極的にBEVを推進し、大きなビジネスチャンスとなっているからだ。
そういう意味で、手ごろな価格帯のモデルもラインナップするBYDは、東南アジア市場では“日本にとって脅威”といえる。日本メーカーの多くは国外販売で利益を上げており、東南アジアを得意とするメーカーが多いからだ。BYDが利益を上げれば、それは製品の質の向上となって返ってくる。世界で戦う日本の自動車メーカーにとって、BYDが厄介な存在であることは間違いなさそうだ。
(文と写真=大音安弘/編集=堀田剛資)
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大音 安弘
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