日産セレナ ハイウェイスター(FF/CVT)/20G(FF/CVT)【試乗記】
ナンバーワンに迷いなし 2010.12.21 試乗記 日産セレナ ハイウェイスター(FF/CVT)/20G(FF/CVT)……318万6750円/338万4150円
“ミニバン販売台数No.1”を3年続ける「日産セレナ」がフルモデルチェンジ。売れ筋ミニバンはどのように進化したのか?
ブームに左右されない人気
週末ともなると、高速道路にずらっと並ぶミニバンの列。さすがに最近は寒くなってきたので減ったと思うが、秋口まではサービスエリアや道の駅の駐車場では、夜になっても車中泊組のミニバンでにぎわっていた。セレナがCMで「モノより思い出」なんて言って、善良な家族をアオるからだよホントに……って、あれはもう10年前の話なのだった。当時10歳の子は、もう成人しているわけか。早いもんである。
まだまだミニバンブームは継続中と思いきや、日産いわく、販売台数で見るとミニバンブームはすでにピークを過ぎているそうである。ミニバン全体の販売台数は2003年を頂点に減少傾向に入っており、中でも「ホンダ・ストリーム」や「トヨタ・ウィッシュ」などが属する小型クラスの縮小ぶりが目立つ。まあ一時期に一気に伸びたクラスなので、“反動減”が出ているのかもしれない。
逆に安定してコンスタントに売れているのが、セレナが属する中型クラスだそうだ。ライバルは「ホンダ・ステップワゴン」と「トヨタ・ノア/ヴォクシー」である。全長4.7×全高1.9m程度のこのクラスは、人を乗せるにも、荷物を載せるにも、実際無理なく使える大きさなので“家族の季節”が過ぎても所有し続けている家庭が少なくないそうだ。
たとえば、イケアに行って大型家具を買って帰るとか、最近なら地デジ対応の大型液晶テレビを買いに行ったら在庫があったので、配送を頼まずにその場で持ち帰るとか、日常生活でもこのクラスのクルマがあれば、なにかと便利な場面はあるもの。だとすると、セレナが新型に移行するにあたり、伸ばすべきところもおのずと決まってくるというものである。
さらに広々とした室内
新型セレナの全長は従来型と同等だが、室内長が30cmも長くなっている。そこでまず、筆者(身長183cm)が適正なドライビングポジションをとり、次に2列目シートにまわって多少ひざまわりに余裕がある位置でシートを固定し、しかる後に3列目シートに座ってみる。ニールームには無理のない広さが残されていた。たしかに広い。しかもこの状態で、3列目の後ろにはフロア長40cmあまりの荷室がある。
実際の広さもさることながら、開放感も相当に高い。ガラスエリアが広く、サイドウィンドウの下端も低めなので、広々しているだけでなくこの手のクルマにしては死角が少ない。新型では、この視界の確保に一歩踏み込んだ試みがあり、3列目シートを格納する際(ボディの側面方向に立てるようになっている)、凝ったヒンジのおかげで従来型より低くたたむことができる。具体的には17.5cm低くなっているそうで、斜め後方の視界がぐっと広がっている。ドライバーにとって、特に都市部では相当なストレス軽減につながるだろう。
また、外から見るとわかりにくいかもしれないが、新型ではAピラーが1本ではなく2本からなりたっており、見た目がちょうどアルファベットの「V」を天地逆にしたような感じになっている。こうすると、それぞれが細くなるので斜め前方の死角が減るというわけだが、この工夫、日本には導入されていない「ルノー・エスパス」によく似ている。「もしかして、これもアライアンスの成果ですか?」とエンジニアの方に尋ねたら、「シトロエンC4ピカソは研究しましたけどね」というエスプリに富んだ答えが返ってきた。
流してもよし、飛ばしてもよし
かつて乗用車エンジンの実用域というと2000-3000rpmあたりを指したものだが、いまやアイドリングのちょっと上から、せいぜい回して2000rpmぐらいまでというクルマが増えた。新型セレナも街中をごく普通に流すかぎりは1000rpm台の後半を中心に使うセッティングになっており、そういう走り方に徹しているかぎり、エンジンノイズはほとんど気にならない。一方、燃費を考慮したタイヤを装着するためにトレッド面がやや硬く、そのぶんロードノイズも大きくなるが、それとて一昔前の低転がり抵抗タイヤに比べれば静かなものだ。街中における室内の静粛性は十分だ。
また、新型セレナにはアイドリングストップ機能が付いているが、再始動時のマナーや速さが洗練されていて、わずらわしさがない。再始動にはセルモーターではなく、オルタネーター(ECOモーターと呼ぶ。電力の回生も行う)を使ってベルトでクランクを回転させる方式を採用しているので、セルのキュキュ……という音なしに、するっとエンジンがかかる。かかる時間は約0.3秒とのこと。ちなみにマーチは約0.4秒だ。
とまあ、街中ではスムーズさと静かさに磨きがかかった新型であるが、実は飛ばした時の足取りも一段と確かなものになっている。従来型では操縦安定性、特に横風を受けたときの直進性にやや頼りないものがあり、リラックスしてクルージングするにはあと一歩、洗練が足りない面があった。しかし新型ではその点がだいぶ改善され(シャシーは基本的に先代型のキャリーオーバーで、ホイールベース値も変化ない)、加えてステアリングを通じて得られる路面情報もより確かなものになっている。この傾向は腰のあるダンパーが与えられた「ハイウェイスター」モデルでよりはっきりしている。
「ハイウェイスター」といえば、低中速域での乗り心地が従来型よりしなやかで、運転しているかぎり、標準モデルとあまり変わらないと感じたことも付け加えておきたい(2列目は試せなかったが、コツコツしていたぞという声もあったので、宿題にさせてください)。聞けば、いまや「ハイウェイスター」が販売の大半を占めており、この日の時点では7割という話だった。もはやある意味、こちらが標準型になってしまったのかもしれない。
(文=竹下元太郎/写真=郡 大二郎)
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竹下 元太郎
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