世界のBEV化の波は? 日本市場での注目車種は? 2024年の自動車業界を占う
2024.01.04 デイリーコラム“2025年”というターニングポイントを前に
2024年の自動車業界を占う……というお題目でコラムをと連絡を受けまして、さて何を書こうかなというところで、ドカーンと降ってきたのがダイハツの認証不正問題でした。春ごろから兆候は現れていたのですが(その1、その2)、その時点で調査に入った第三者委員会によると、1989年からの30年余にわたって174件の不正行為が見つかった――というものです。
母数なきまま件数ばかりがクローズアップされますが、よくそんな年次までさかのぼれたものだと思いつつ、まあ内容は相当悪質で言い訳のしようもないというところでしょう。現時点では従業員にもステークホルダーにも説明がないということで、臆測の域でどうこう言うのは混乱を招くだけゆえ口を慎みますが、関係者だけでなくユーザーの方々におかれても不安な年越しとなってしまった様子。少しでも早く経過と対処が説明されますよう、そして対処がきちんとアップデートされていきますよう、ダイハツの中の人は大変だとは思いますが頑張っていただきたく思います。
というわけで2024年の自動車業界、果たして何が起こるのか。大局的にみれば、いよいよ自動車産業の大転換期という流れが、具体的に商品を通してみてとれるようになる。新旧のバトンタッチを迎える前夜祭のような状況が訪れるのではないかと思います。
その根拠となるのが各社のポートフォリオです。2025年からは全量を電気自動車(BEV)とするというジャガーが象徴的ではありますが、BEV化への台数目標や投資計画の区切りを同年に据えているメーカーは、かなり多い。加えて製品開発においても、同年を明確なターニングポイントとしているメーカーが多数あります。いわゆるソフトウエア・ディファインド・ビークルの前提となる基本ソフト(OS)の実装や、そのOSを含めたBEV専用アーキテクチャーの発表といったスケジュールは、おおむね25年~26年に設定されています。
![]() |
わが道をゆく日本の商品スケジュール
現在、BEVに関しては先行した各社の販売が伸び悩み、また地域によっては補助金等の施策変更、原材料調達の難航などの課題が浮き彫りとなり、各メーカーが事業計画の変更を迫られるのではという臆測も流れています。まあ欧米の皆さんは、台数まわりの手のひら返しは朝飯前なので多少のことでは驚きませんが、むしろ面倒なのは、既に利害関係が発生している投資計画のほうです。株主構成が多岐に及んでいるメーカーほど、この調整は難しい。言い換えれば、これだけ金が動いてしまうと、既に動き始めたBEV化のロードマップがある日突然180°ターンするような事態は、これまた考えにくいわけです。理念や利害はどうであれ、大なり小なりBEV化は進む。それが世界の思惑であることに変わりはなかろうと思います。
仮にその進捗(しんちょく)のイナーシャが緩むとするならば、日本はBEVに関して生まれたよそとの差を、この間に詰めることに注力しなくてはならない。そう思うわけですが、2024年に日本で販売されそうなクルマの面々をみると、いやもう見事に時代に逆行するような“骨付き物件”が多くて苦笑するばかりです。例えば「トヨタ・ランドクルーザー“250”」とか「レクサスGX」とか「三菱トライトン」とか。これらは導入予定が発表されているものですが、うわさレベルでいえば、ジャパンモビリティショーでも展示されたタイ生産の商用車「IMV 0」シリーズの導入なんて話も聞こえてきます。
ヘビーデューティー系の4WDが注目を浴びる理由はわからなくもありません。SUVが全盛を迎えて早幾とせとなると、より本物感のあるラギッドなモデルが欲しいという欲求も積み重なるでしょうし、本気組の方々におかれては、代替需要の機が熟してるという事情もあるかもしれません。CO2的にネガがあるのは間違いありませんが、人々の生活を支えるために譲れないロバストネスもある。マルチパスウェイとはそういうことです。
![]() |
HEVの優位性は10年は揺らがない
まあ、他のリージョンが「燃費にネガのあるモデルは売る隙間もありません」と涙目な割に、日本がのんきにこういう骨付き銘柄や6気筒ツインターボみたいなスポーツカーを売っていられるのは、販売の主力がハイブリッド(HEV)などの低燃費車に移行して久しいからでしょう。BEVの圧が増すほどに、コストやユーザビリティーの点でHEVが注目されるのは皮肉に思われるかもしれませんが、やはり実用品としてクルマを値踏みしていけば、なんの我慢も必要ないHEVの存在意義は、向こう10年揺らぎなしという実感はあります。
2024年は現在を過去にする未来が押し寄せる一方で、未来に対峙(たいじ)する現在のあらがいが今まで以上に明確に視認できる、そういう、やたらと思惑が交錯した1年になるのではないでしょうか。そんななかでクルマ好きの諸兄にご進言できることがあるとすれば、やっぱり油炊くクルマについては未練がないよう、全力で臨んでいただければということです。「VR38DETT」や「2UR-GSE」なんかは、時流的にはさすがに崖っぷちにいるものだと思っておいたほうがいいでしょう。
ともあれ、そういう希少内燃機が抽選的な方法でしか入手できないというのは、どうにかなんないものでしょうか? 円安ゆえ出荷が海外シフトになるのはわからなくもありませんが、日本で真摯(しんし)に欲しているユーザーには、メーカーも真摯に対応していただければと思います。
(文=渡辺敏史/写真=JLR、webCG/編集=堀田剛資)
![]() |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。