メルセデス・ベンツC220dアバンギャルド(FR/9AT)
クルマはやっぱり走らせてなんぼ 2022.02.09 試乗記 新しくなった「メルセデス・ベンツCクラス」のディーゼルモデル「C220d」に試乗。刷新された内外装や先進装備の採用に比べ、走りに関するアナウンスはやや控えめな感のある新型Cクラスだが、いざ運転してみると、従来モデルからの確かな進化が感じられた。ちょっと刺激が強すぎる?
メルセデス・ベンツCクラスに筆者が抱くのは、クルマ選びにおける「いい買い物」というイメージだ。今では「A/Bクラス」といったコンパクトセグメントが当たり前のように定着しているけれど、依然としてメルセデスが持つ質感や品質の高さ、そして歴史を、一番小さい形に凝縮したセダンであるのがその理由だ。
Cクラスの起源となる「190シリーズ」が登場したとき、筆者はまだ免許も持っていない小僧っ子だったが、それでも「将来はこんなクルマに乗れたらステキだ」と感じたものだった。そこにはDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)への参戦という飛び道具のインパクトも影響していたが、あの「Sクラス」をデフォルメしたかのような、かわいらしくも堂々としたたたずまいに、勝手にシンパシーを感じていたのだと思う。今風に言うと、ちょっと、いやかなりオタクですね。でもこの頃のクルマ好きとは、そういうものだった。
ふとそんなことを思い出したのは、新型Cクラスのアピアランスを見て、運転席に座り、先代にも増してさらにアカ抜けたな、と感じたからだ。
ダッシュボードからセンタートンネルにかけて大きくT字状に張り込まれたピカピカのパネル。中央には今日のSクラスばりに大きな縦型の11.9インチタッチパネルが鎮座している。Aクラスからの横長パネル、好きだったんだけどなぁ。テスラに負けたくないのかしらん?
このタッチパネルの設置により、丸くて大きなエアコンルーバーは上方に押しやられている。その形はAクラスの“タービンベント”より確かにコンサバだけれど、やっぱりダッシュと同じくピカピカしている。そしてパネルのつなぎ目では、うっすらと紫の(カラーは変更可能だが)アンビエントライトが、ムーディーに光っている。
うーん。正直に言いましょう。おじさん、ちょっと落ち着かない(汗)。なんだかパリとか西麻布とかにありそうな、最先端すぎてご飯の味がわからなくなるコンセプトレストランに連れて行かれたみたい。撮影のために早起きして、まだ寝ぼけているカラダとアタマには、ちょっと刺激が強すぎる感じだ。
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洗練されたエンジンとモーターのコラボ
そんな試乗車のグレードは、待望のC220d。一足先に上陸した「C200」の1.5リッター直列4気筒ガソリンターボ(最高出力204PS、最大トルク300N・m)に対して、こちらのエンジンは2リッター直列4気筒のディーゼルターボ(最高出力200PS、最大トルク440N・m)である。最高出力こそ4PSほどガソリンターボに負けているものの、最大トルクは140N・mも大きく、今のところCクラスの上位機種としてラインナップされている。なおかつ「全モデル電動化」というスローガンのもと、低中速トルク型のエンジンにISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)までアドオン。これをエンジンとトランスミッションの間に配置して、最大で20PS、208N・mのモーターブーストを提供することも可能だ。ちなみに、2022年中には2リッター直列4気筒ガソリンターボに大型のモーター&バッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドモデル「C350e」が導入される予定である。
ステアリングコラム右側の、一見さんだとウインカーレバーと間違えそうなシフトレバーを引き下げてDレンジへ。朝6時半だというのにすでに混み始めた旧山手通りを国道246方面へと進み、首都高速道路から千葉方面を目指す。
走り始めで直4ディーゼル特有のゴロゴロとしたノイズが目立つのは相変わらずだ。いや、遮音はかなり効いていて、バイブレーションなどもみじんも感じないのだが、ほかが静かすぎるのか、アイドリングから2000rpmまでの領域のメカニカルノイズだけがキャビンに透過してしまう。もっとも、エンジンがもう少し回ってくると見事にノイズも収まる。
そんなわずかなアクセル開度でも、苦もなく初速を稼ぎ出すのはISGの恩恵か。ベルト式からダイレクトドライブ式になったモーターは確実にそのレスポンスを速めているはずだが、実際に運転している限り「あっ、これはモーター」とか、「うん、これはディーゼルのトルク」なんて判別はできない。ひとこと、スムーズ。そして9段ギアを知らぬ間にステップさせて、街なかでも低回転でのクルージングに入ってくれる。走行中はむやみにコースティングしないから空走感で怖い思いをすることもなく、車速が落ちていくと、アイドリングストップが実にきれいにエンジンを止める。エンジンの休止と再始動が気にならないから、街なかのストップ&ゴーは得意である。
ブレーキは弱めにかけている状況だと回生感が強く、踏力を上げる過程で“カクッ”とバイトするポイントがあるけれど、きっちり踏み込む状態ではタッチもソリッドで、メルセデスの品質を感じ取ることができる。
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乗り心地に感じるエコタイヤの弊害
乗り心地は、「C200 AMGライン」のスポーツサスペンションよりはしなやかに感じられたが、決してゆったり、まったりとした印象ではない。
大きな要因はタイヤだろう。試乗車は標準サイズの17インチを履いており、そのエアボリュームも前後で50偏平とたっぷりとられていたのだが、路面からの入力は割とダイレクトに入ってくる。燃費性能を向上し、CO2排出量を抑えるためにエア圧が高めに設定され、変形しにくくなった今日のタイヤを履く以上、この乗り味は仕方ない。ボディーはシッカリしているし、サスペンションもその入力を懸命にダンピングしているが、荒れた路面ではどうしてもタイヤの存在感が大きくなってしまう。メルセデスは乗り心地に配慮してランフラットタイヤを使わなくなったが、今度はエネルギー問題がそこに立ちはだかったというわけだ。
とはいえ、それは高速巡航性能を重視するドイツ車すべてが直面している問題であり、むしろ乗り心地偏差値ではCクラスは高いほうだと思う。そしてこのタイヤの剛性をよい方向に生かすべく、操舵レスポンスをすっきりリニアに振ってきた。往年のまったりと鈍重な、しかし乗り続けるとクセになる味わいは完全になくなったが、ハンドルを切れば切っただけ素直に曲がる、若々しいステア特性に仕上げてきたといえる。
そんなC220dだけに、速度を上げるほどに乗り味は整ってくる。高速道路の目地段差でも突き上げをフラットにこなし、“タタン、タタン”とバネ下でタイヤだけが上下に動くさまは爽快ですらある。
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ディーゼルなのに回しても気持ちいい
さらにこのディーゼルエンジンは、踏むと意外なほど気持ちがいい。OM654“M”型へとモディファイされた新型エンジンは、そのストロークを92.3mmから94.3mmへと引き上げることで排気量を1949ccから1992ccへとわずかに拡大しているのだが、面白いことに最大トルクの発生回転域は、OM654型の1600-2800rpmから1800-2800rpmへとやや高回転寄りになっている。出力については、これまた面白いことにピーク値を6PS高めつつその発生回転数を200rpm引き下げているのだが、いずれにせよ、そこまでの回転の高まりは実に心地よい。
この特性を実現できた理由もまた、ISGによる電動化だろう。モーターが低速トルクを確保しつつブースターの役割を果たすことから、エンジンの出力特性をより自由に調律できるようになり、踏んで気持ちよいエンジンができあがった。トルクフルなディーゼルエンジンの電動化は、一見すると「電動化のための電動化」に思いがちだが、実際はきちんとドライバビリティーのあるものに仕上げられていた。加えて言えば、高出力化で懸念される排ガスの浄化に関しては、尿素SCRシステムやSCR触媒コンバーターといった一連の高価な浄化装置が対策をしてくれている。
そして新型Cクラスでは、その身のこなしにもうならされる。基本的なハンドリングは直進重視。しかしカーブでステアしていくほどに、2865mm(先代比+25mm)のホイールベースを感じさせないほどコンパクトに曲がっていく。これこそ新オプションである後輪操舵の効果かと思ったが、あまりに自然な動きで筆者にはその制御を感じ取ることはできなかった。聞けば、なんと試乗車は非装着車だったというから、2度驚いた。これもまた、新型Cクラスの素の実力なのだろう。
総じて新型C220dは、直4ディーゼルのCクラスに対する期待を裏切らない仕上がりだった。ちなみに燃費は、240km近く走って満タン法で15km/リッター台。次世代モビリティーへの橋渡し役としては、正直もう一声ほしいところだが、それでも走らせるほどに快適さを増すC220dのライドフィールは、長距離ランナーと呼ぶにふさわしい。時代的にカッコいいのは「GLC」かもしれないが、移動の質を求めるならばやはりセダン。最初は「ちょっと落ち着かない」と言っていたおじさんが、最後には「ちょっと若返ってやろうかしら」と思えたのだから、やっぱりクルマに走りの質感は不可欠である。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC220dアバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4755×1820×1435mm
ホイールベース:2865mm
車重:1780kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1800-2800rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)
モーター最大トルク:208N・m(21.2kgf・m)
タイヤ:(前)225/50R17 94Y/(後)225/50R17 94Y(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:18.5km/リッター(WLTCモード)
価格:682万円/テスト車=765万4000円
オプション装備:メタリックペイント<セレナイトグレー>(9万9000円)/ベーシックパッケージ(15万4000円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(34万8000円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(23万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2312km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:238km
使用燃料:15.6リッター(軽油)
参考燃費:15.3km/リッター(満タン法)/18.4km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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