メルセデス・ベンツGLC220d 4MATICクーペ(4WD/9AT)
理性的かつ情緒的 2024.01.20 試乗記 「メルセデス・ベンツGLCクーペ」がフルモデルチェンジ! 全体のスタイリングこそ大ヒットした先代モデルと大きく変わらないが、中身はメルセデスの最新コンポーネンツにごっそりと置き換わっている。400km余りのドライブで進化のほどを探ってみた。カッコと機能性をより高次元で
メルセデス・ベンツのベストセラーSUV「GLC」が7年ぶりの全面改良を受けて、ニッポン上陸を果たしたのは2023年春のこと。その新型GLCを追うように、同年秋に登場したのが新型GLCクーペである。
中身は新型GLCと同じで、先代のホイールベースを15mm延ばして後席居住空間と荷室を広げ、実用性と快適性の強化を図っている。目新しいのはエレクトロニクス関連で、「Sクラス」譲りの縦型11.9インチ(約30cm)の大型ディスプレイやら先進運転支援システム、それにリアアクスルステアリング等の最新テクノロジーを投入している。
GLCとの明瞭な違いはもちろんBピラー以降のデザインである。ルーフがなだらかに下がって、クーペらしいスタイルに仕上がっている。リアのドアが違う。テールゲートが違う。テールライトが違う。ごめんね。文章では説明しにくい。テールライトは点灯後にオフにすると、連続する小さな赤いLEDがピカピカ光ってからスーッと消える。あっ、あっ、あっ、イミテーション・ゴールド♪の替え歌……にしては出来が悪い。
ということはともかく、ファストバックのクーペだから、GLCより後席の居住空間も荷室の容量もちょっぴり狭い。とりわけ荷室はVDA方式でGLCの620~1680リッターに対して、545~1490リッターにとどまる。しかして、先代GLCクーペは500~1400リッターにすぎず、これに比べれば大幅増。先代GLCが550~1600リッターだったことを知れば、十分である。とも言える。空力もCd=0.29から0.27に向上しており、カッコよいという情緒的な部分と機能的な部分の両立をより高い次元で実現しようとしていることが分かる。
浮かんでいるのに接地している
でもって、とりあえず日本仕様はGLCと同様のマイルドハイブリッド付き2リッター直4ディーゼルの4MATICのみだけれど、スポーツサスペンションと呼ばれる足まわりを標準とすることで、GLCとの差別化を図っている。
ただし、試乗車は例によってオプションの「AMGラインパッケージ」で、AMGラインパッケージ装着車でしか選べない「ドライバーズパッケージ」を装備している。ドライバーズパッケージはAIRMATICサスペンションとリアアクスルステアリングの2つがセットになっており、GLCクーペ本来のスポーツサスペンションがどういうものなのか、今回の試乗では分からない。
でも、これは言える。AIRMATIC、すなわちエアサスペンションの効果は絶大だ、と。前255/45、後ろ285/40の、いずれも20インチという極太偏平なタイヤサイズにもかかわらず、乗り心地が低速でも快適なのだ。タイヤの踏面は硬そうで、それがスポーティーさを醸し出している。その一方、踏面とボディーとの間に空気の層があって、私的には空中に浮かんでいるみたいに感じる。だけど、タイヤは凸凹路面でも大地から離れていない。ロードホールディングがよさげに思える。
リアアクスルステアは60km/h未満だと後輪を前輪と逆相(最大4.5度)に操舵するから、交差点ではクイッと曲がる。最初はギョッとするけれど、でも、すぐに慣れる。60km/h以上だと、後輪を同相に最大4.5度ステアして安定性を高める。小雨のなか、東名高速を走って富士の裾野に至り、山のなかを走ってみて分かったのは、高いスタビリティーと山道での爽快なハンドリングを両立させているということだ。AIRMATICがロールを適度に許しつつ、自然な感じで抑えていることもある。車検証にみる前後重量配分は53:47と、フロントが重すぎないことも重要なポイントだろう。
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技術が詰まった最新のディーゼルエンジン
2リッターのディーゼルは1200rpmあたりで微妙な振動がある。ちょっと生き物っぽい。3000rpmあたりからまるでガソリンエンジンもかくやの快音を控えめに発し始め、4000rpmまでスムーズに回る。快音はAMGラインパッケージに含まれる「スポーティーエンジンサウンド」なるシステムによるらしい。
このエンジン、ご存じの方はご存じのように、2021年に国内発売された現行「C200d」とともに現れたメルセデスの最新ディーゼルで、最高出力197PS/3600rpm、最大トルク440N・m/1800-2800rpmを発生する。最近、筆者が試乗した「GLA200d」と思わず比べると、あちらはボア×ストローク=82.0×92.3mmの排気量1949cc、出力とトルクは150PS/3400-4400rpmと340N・m/1400-3200rpmにとどまる。
同じ2リッターのディーゼルなのに、どうしてこんなにフィーリングが違うのだろう? と思ったら、新ユニットはストロークを伸ばして82.0×94.3mmの1992ccとし、新型クランクシャフトを採用。燃料噴射の圧力を先代の2500barから2700barに引き上げ、可変ジオメトリーのターボチャージャーを組み合わせてもいる。おまけに23PSと205N・mを発生するマイルドハイブリッドのモーターがブースト機能を担っている。加速時でもエンジンがうならないのはモーターが別班として活動しているからなのだ。
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乗り込んだときの安心感が違う
静粛性の高さにも触れておきたい。夜明け前の高速巡航中、室内は大変静かで、エアコンの風の音しかしなかった。これにはポリウレタンの発泡剤を薄くトレッドの内側に取り付けたコンチネンタルの「エココンタクト6 Q」も貢献していると思われる。
極太小径のステアリングホイールは握り心地が頼もしく、スポーティーな雰囲気に大いに貢献している。
たまげるほど速いわけではない。これまた記憶のなかのGLA200dと比べると、要因のひとつに車重が考えられる。GLAが1760kgだったのに対して、今回のGLCクーペは+30kgのパノラミックルーフを装備していることもあって、2030kgある。270kg重い。この重さが快適な乗り心地を生み出してもいると考えられるから、一方的に重すぎる、と断じることはできない。適度な速さに私的には好感を持った。
試乗車は、車両価格の898万円にオプションを足すと総額1120万8000円に達する。そこが最大の難関ではあるけれど、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてくるなか、自宅近くの駐車場まで小走りして乗り込んだときの安心感は、やっぱりメルセデス・ベンツの後輪駆動ベースの車両ならではである。オプションの赤と黒のシート表皮と、ダッシュボードのウッドトリムはおしゃれで、いいもの感がある。
東名高速を巡航中、四方を大型トラックに囲まれてもさほど威圧感を覚えない大きさがあると同時に、都市内で持て余さない適度なサイズも好ましい。実用性を備えつつ、それだけに終わらないスタイルを持ってもいる。オーナーは自分が美しい、カッコいいと感じるものにお金をつかうわけである。ぜいたくな消費にふさわしい一台です。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=メルセデス・ベンツ日本)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLC220d 4MATICクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1920×1600mm
ホイールベース:2890mm
車重:2030kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:197PS(145kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1800-2800rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 105W XL/(後)285/40R20 108W XL(コンチネンタル・エココンタクト6 Q)
燃費:18.2km/リッター(WLTCモード)
価格:898万円/テスト車=1120万8000円
オプション装備:メタリックカラー<パタゴニアレッド>(18万9000円)/AMGラインパッケージ(78万3000円)/AMGレザーエクスクルーシブパッケージ(51万3000円)/ドライバーズパッケージ(51万3000円)/パノラミックスライディングルーフ(23万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:20km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:390.1km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:16.2km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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