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第418回:でかした「フーガハイブリッド」に金メダル!?
 これぞ新感覚“高速アイドルストップ”だっ!

2010.12.13 小沢コージの勢いまかせ! 小沢 コージ
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第418回:でかした「フーガハイブリッド」に金メダル!? これぞ新感覚“高速アイドルストップ”だっ!

できるもんならやってみな!

いや、ビックリしちゃったよ「フーガハイブリッド」。若干上から目線で申し訳ないけど「結構、面白いじゃん、コレ!」と。

というのも正直、あまり期待してなかったんですね。って別にフーガだけでなく、ハイブリッドカー全般に。というのも「フィットハイブリッド」の時も言ったけど、もはや“ハイブリッドカー”に劇的な夢を託せない時代じゃないですか?
燃費じゃすでに2モーター+遊星ギアのトヨタ式の勝ちで、そうそう「プリウス」以上のクルマなんて出そうにない。シンプルな1モーターのホンダ流、フォルクスワーゲン&ポルシェ流ハイブリッドにしても、燃費はもちろん走った時のフィーリングもわりと普通で、“別世界観”においてもトヨタ式を超えられそうにない。
だからこそ、クルマに先進性を求める日本人としては、今や面白さや未来は電気自動車(EV)に託し、ハイブリッドは安さ勝負しかないと思ってたのね。まさに“ハイブリッドのデフレ化”よ。

と思ったら、フーガハイブリッド、予想外の面白さ! 大枠で言うとホンダやフォルクスワーゲングループと同じ1モーターのパラレル式に属していて、従来のパワートレイン、つまりエンジンとギアボックスの間に小さめの駆動用モーターを挟んだシンプルな構造。これによって、時にエンジン+モーターの余裕のパワー、時にモーター単独のエコパワーで走れるという二面性がウリになっている。
ただし、基本的にエンジンを低回転から高回転までまんべんなく使う方式なので、トヨタ式ほどエンジンの使用効率は良くできなかった。

さらにもう一つ大きな問題がある。それはクラッチの問題だ。
1モーターのパラレル式には1クラッチ式と2クラッチ式の2種類があって、それはモーターとエンジンの間にもう一つクラッチを設けるか設けないかの違いによる。これによりモーターをエンジンから完全に切り離した“ピュアEV走行”ができるかできないかが決まるわけだ。

しかし根の深い問題があって、駆動系にクラッチを設けるとどうしても走行中に振動が出てしまうのだ。
MT車を考えるとわかるとおり、走行中のギアチェンジでは、接続時に回転数を合わせないと、大きなショックが生まれる。しかも今回はエンジンとモーターの間だから大変よ。どちらもトルクが強大なわけで、回転が合わないってことは、まるで逆回りの駒と駒がぶつかるようなもの。当然、ものすごいショックが生まれる。
だからフォルクスワーゲンやポルシェは、フーガと同じ2クラッチ式だけど、しかたなく駆動系にトルクコンバーターを設け、衝撃を吸収する方法を採っていた。しかし、フーガハイブリッドは「トルコンを省く!」、つまり「常時完璧に回転を合わせてモーターとエンジンのクラッチをバシッとつないでみせる!!」と宣言して、開発を始めたのだ。

いわば「いつでもどこでも絶対4回転ジャンプをピタリ決めてやる!」と宣言して金メダルをとるみたいなもんで、非常に難度の高い回転あわせ。開発の大澤CPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)によると、周りの人たちは「ふふん、できるもんならやってみな! って感じだったねぇ(笑)」と当時を回想する。
もしやここには昔懐かし“技術の日産”の意地があったのかもしれない……。

高速アイドルストップ(!?)の快感

ってなわけで論より証拠! 試乗会で感じた不肖小沢のインプレッションいってみましょう!

もう、パチパチっ!! いやお見事っ! としか言いようがありません。さしあたり自分が乗った範囲では、気になる衝撃(クラッチのショックのコトね)は全くありませんでした。
それどころかこのトルコンレス日産方式は、今までにない味わいを醸し出していた。

まずは驚くほどエンジンが動かない。イグニッションスイッチを押すと、バッテリー充電状態にもよるけどいきなり「シーン…」とEV走行からスタートできるのはもちろん、走り出した直後からヤケに小まめにエンジンストップする。聞けば、時間にして走行中の約6割止まるケースがあるという。

発進でグッと踏んだ瞬間は低回転トルクの強大なモーターを生かしてのEV状態なんだけど、アクセルペダルを踏み続けるとすぐさまエンジンがスーッとかかってググっと後押し。この押される感じがね、遊星ギアを使ったプリウスとも違い、なんともキレがありつつ、トルク感あっていい。某ビールCMで「コクがあるのにキレがある」って名コピーがあったけど、強いてあげるとそんな感じか(笑)。おそらくトルクコンバーター入れてたら、この味は出なかったでしょう。

あとはなんといっても高速走行だよね。というのもこのフーガハイブリッド、普通の3.5リッターV6のFR車の駆動系に、クラッチ付きモーターを押し込んだのと同じだから、基本的にはいつでもどこでもモーターのみの完全EV走行が可能となるわけだ。
もちろん走行負荷の大きい時速100km前後の高速走行だと、加速時はエンジン+モーターのハイブリッド加速。これはこれで強大な最大システム出力364psを生かし、車重1.8トン台と重くなったボディをグイグイ押すわけだけど、本当の魅力はそれじゃない。
加速のいらないクルーズ走行、あるいは長くゆったりとした下り坂になるとエンジンが完全停止し、瞬間いまだかつてない静寂の“高速EV状態”が訪れる。100km/hでのエンジン停止は、遊星ギアを使ったプリウスにはあり得ないもの。独特の浮遊感というか、糸の切れたタコ状態はなかなかキモチいい。というか、ほとんど前代未聞の“高速アイドルストップの快感”と私は言いたい! って、厳密にはアイドリング中じゃないけどね。

さらにパワステシステムには、新開発の油圧電動式を使用。これはいわゆるEVやハイブリッドに使われている純粋な電動式とは別物で、基本は古典的な油圧式。ただし、その油圧ポンプを回す動力に電動モーターを使うという、まわりくどいシロモノなのだ。当然効率は落ちるしコストもかかるけど、操舵(そうだ)フィーリングがいいというメリットもある。
全般的にハイブリッドは「走りの味が薄い」と言われるけど、一因はここにもあって、その点もフーガのハイブリッドでは問題がない。

電池コントロールのメリットがでかい!

それからもう一つ。今までのトヨタ方式はそもそもエンジン回転数とスピードが連動せず、“クルマとエンジンがつながっている”という意識を抱きにくかった。CVTのせいもあるかもしれないけどね。

だから、あまりエンジンを意識しなくなっていて、たとえエンジンが止まって切れても「えっ、いつ止まったの?」という感じがあった。でもフーガハイブリッドの場合、エンジン断続に切れの良い乾式クラッチを使っているうえ、ベースがエンジン回転とスピードが連動する普通のFR車ゆえ、「エンジンが止まった、切れた」が分かりやすいのだ。
よって高速でもエンジンストップして、エコ走行〜♪ という感覚がより深く得られるというわけ。これってまさしく新たなハイブリッド車の味わいだと思う。

さらにもう一つ、低速の街中走行でもモーターアシストがあるぶん、ノーマル車よりギア比を全体に高めることができ、エンジン回転数が全域で低い。たとえば街中だと、フォルクスワーゲンのTSIエンジン車さながら、ほとんど2000rpmでシフトアップしていく。これまた結構、エコ運転している気になる。
事実、フーガハイブリッドの10・15モード燃費は、コンパクトカー並みの19km/リッターと素晴らしいし、実質、15km/リッター前後はいくという。とはいえ私が乗ったときは13km/リッターぐらいだったので、コレはさらなる報告を待ちたい。

さらにさらにイイ話もある。
このキレのある“ザ・クラッチ・ハイブリッド”をなぜ実現できたのかとエンジニアに聞くと、「秘密は電池にある」そうな。
フーガハイブリッドは、2010年12月に発売されたばかりの日産初の量産EV「リーフ」と、ほぼ同じリチウムイオン電池を搭載している。コイツは既存のニッケル水素に比べ、約4倍のスピードで充電放電を繰り返せるという。
これはリチウムイオン電池の美点でもあるのだが、リーフ用に比べて容量を必要としないフーガ用ということで、電極等の組成を変えた結果。つまり日産自動車が電池をNECと共同開発し、電池特性を自由自在にコントロールできることから可能になったのだ。

で、この優れた充放電スピードとコントロール性こそがクラッチショックの大幅低減の理由。なぜなら今回のフーガハイブリッドは、電池特性をコントロールすることでモーター回転数をそれこそコンマ数秒単位でコントロールすることができる。つまり、エンジン回転を読み、それに合わせておそらく数100rpm、もしくは数10rpmレベルで回転数を合わせることができるのだ! そのコントロール技術こそが、フーガハイブリッドの技術的アドバンテージであり、ユニークな走行特性を生んだのである。

うーむ、深い、深すぎる……。ますます未来のクルマの味は、最新テクノロジーと無関係には語れないものになってきているではないかっ!

ってなわけでフーガハイブリッド開発陣のみなさま。おめでとうございます! このたび急遽不肖・小沢コージが、今回「2010年ハイブリッド部門金メダル」を勝手に創設して贈与いたしますので、ぜひとも受け取ってくださいませ。
えっ、いらないって!? そ、そんな殺生な…(苦笑)。

(文と写真=小沢コージ) 

小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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