マツダがロータリー開発チームを再結集! 生き残るにはどんな方策があるか
2024.01.24 デイリーコラムBEVだけが正解にはあらず
それにしてもびっくりしましたよ。年明けの東京オートサロンでの“普通のクルマ好きのオジサン”ことトヨタ自動車の豊田章男会長の発言。「新たにエンジン開発を進めていくプロジェクトが、トヨタのなかで動き出しました」というのですから。
世の中には「これからは電気自動車(BEV)の時代だ」としてエンジン開発をやめるブランドやメーカーがあるなか、年間生産台数で世界トップをいく企業があえて「エンジン戦略を加速していく」と宣言したのだから驚くなってほうが無理でしょう。ただ、トヨタはガソリン、ディーゼル、ハイブリッド、BEV、そして水素と全方位戦略を進めていることを知っている事情通なら、商品のラインナップと販売ボリュームで他社を圧倒する“総合デパートだからこそやれる戦略”もトヨタらしいなとあらためて感じたのかもしれません。
もちろん筆者だってそのひとり。筆者はBEV否定論者ではありませんが、とはいえ力と勢いだけでBEVを強制するのは無理があって消費者がエンジン車やハイブリッド車としっかり比較してBEVを選ぶのが健全だと思っているし、その選択を残すことも自動車メーカーとしては大切だと思うのです。
例えば地球上には今夜の明かりをともす電気が供給されるかどうか分からないという場所もある。それにBEVはエンジン車よりも価格が上がるのを避けられないから、収入状況によっては「エンジン車は買えたけどBEVだと買えない」という人だって出てくる。全車BEV化するのが、そんな人たちなど眼中にないプレミアムブランドなら分かるけれど、大衆車までラインナップするメーカーがエンジン車をやめるのはそういう人たちからクルマを取り上げる行為以外の何物でもない気がしてなりません。全方位戦略は「クルマで人を幸せにしたい」というトヨタらしく、誰のもとにもクルマを届ける社会的使命をしっかり果たしていくプランな気がしています。
燃費の改善こそが焦点
さて、そんな東京オートサロンではトヨタ以外にも「エンジンを加速する」としてメディアをざわつかせたメーカーがありました。そう、マツダです。
同社の毛籠勝弘社長が記者に向けたプレゼンテーションで「2月1日にロータリーエンジンの開発グループを立ち上げます」と発言。なんでも昨年(2023年)の「ジャパンモビリティショー」でロータリーエンジンのコンセプトカーとして発表した「アイコニックSP」の反響がよく、それを市販するという夢に向けて最初の一歩を踏み出したのだとか。
同車が積むのは2ローターとはいえ純粋なエンジンではなくモーター駆動のプラグインハイブリッド(という設定)です。でも、それなら同様の仕掛けで1ローターとしている「MX-30ロータリーEV」がすでに市販されているので、技術的なハードルはそれほど高くないはず。となれば……「本当はエンジンを直接の駆動力とするロータリーエンジンを開発するんじゃないの?」と希望的観測で深読みしたくもなるのがクルマ好きってもの……ですよね?
というわけでここから先はあくまで「もしもそうならば……」という話なのですが、動力源としてのロータリーエンジン実現で最大のハードルとなるのはやっぱり燃費。ユーザーやネットのコメントが「燃費悪いなー」なんていうのはまだかわいいもの。企業内の平均燃費値が基準を超えると国によってはメーカーとして罰金を払わなければいけなかったり、当局から渋い顔をされて型式認定をスムーズにもらえなかったりするからいろいろ大変なのです。
カギを握るのはやっぱりトヨタ?
じゃあどうすればいいかといえば、2つの対策が考えられます。ひとつはモーターの活用。エンジンをメインの動力としつつモーターを加えてハイブリッド化するものいいし、またエネルギー回生装置を組み合わせた電動ターボなんてどうでしょう。夢膨らむなあ……。
もうひとつは燃料そのものを変えること。ガソリンじゃなくて、走行時に二酸化炭素を発生しない水素エンジン……とかね。ロータリーは水素との相性がいい、なんていわれているのですから。
そういえば偶然にも、トヨタも水素エンジンの研究をしていて、すでにレースでも走らせているし、その先には水素エンジンの市販化も視野に入れているって話じゃないですか。マツダとトヨタは提携関係にあるから、その辺の技術の共有なんかもしたっておかしくはない……なんて思ってみたりして。
いっそのことトヨタからもロータリーエンジンを積んだスポーツカーを発売して……なんていうのは妄想が飛躍しすぎかもしれないけれど、間違いないのは、そんなマツダの動きは非常に楽しみってこと。
ところで、メーカーとしては全力でBEVへシフトしているように見えるフォルクスワーゲンも実は「エンジンをやめるなんてひとことも言っていません。エンジンもどんどんやりますよ」と全体の開発責任者が宣言しているし、2024年は世界一のBEVメーカーになるかもしれない中国のBYDもプラグインハイブリッド戦略に力を入れていて、それに組み合わせる超高効率エンジンの開発に力を注いでいます。
そんな動きを知っていると、今後のエンジン戦略ってけっこうおもしろいんですよ。
それにしても楽しみですね。動力源としてのロータリーエンジンを積む新型車がマツダから登場する日が。
(文=工藤貴宏/写真=トヨタ自動車、マツダ、webCG/編集=藤沢 勝)

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
-
18年の「日産GT-R」はまだひよっこ!? ご長寿のスポーツカーを考えるNEW 2025.10.1 2025年夏に最後の一台が工場出荷された「日産GT-R」。モデルライフが18年と聞くと驚くが、実はスポーツカーの世界にはにわかには信じられないほどご長寿のモデルが多数存在している。それらを紹介するとともに、長寿になった理由を検証する。
-
なぜ伝統の名を使うのか? フェラーリの新たな「テスタロッサ」に思うこと 2025.9.29 フェラーリはなぜ、新型のプラグインハイブリッドモデルに、伝説的かつ伝統的な「テスタロッサ」の名前を与えたのか。その背景を、今昔の跳ね馬に詳しいモータージャーナリスト西川 淳が語る。
-
「MSRロードスター12R」が『グランツーリスモ7』に登場! その走りを“リアルドライビングシミュレーター”で体験せよ 2025.9.26 あの「マツダ・ロードスター」のコンプリートカー「MSRロードスター12R」が、リアルドライビングシミュレーター『グランツーリスモ7』に登場! 他業種(?)との積極的な協業により、運転する楽しさとモータースポーツの普及を進める、マツダの最新の取り組みに迫る。
-
狙うは「N-BOX」超え 新型「ルークス」は日産の復活に向けた号砲か? 2025.9.25 フルモデルチェンジで4代目に進化した「日産ルークス」の評判がよさそうだ。2025年8月に車両概要が先行公開され、同年9月には価格も発表。あとは正式発売を待つばかり。ライバルとして立ちはだかる「ホンダN-BOX」を超えられるか。
-
メルセデスとBMWのライバルSUVの新型が同時にデビュー 2025年のIAAを総括する 2025.9.24 2025年のドイツ国際モーターショー(IAA)が無事に閉幕。BMWが新型「iX3」を、メルセデス・ベンツが新型「GLC」(BEV版)を披露するなど、地元勢の展示内容はモーターショー衰退論を吹き飛ばす勢いだった。その内容を総括する。
-
NEW
数字が車名になっているクルマ特集
2025.10.1日刊!名車列伝過去のクルマを振り返ると、しゃれたペットネームではなく、数字を車名に採用しているモデルがたくさんあります。今月は、さまざまなメーカー/ブランドの“数字車名車”を日替わりで紹介します。 -
NEW
カタログ燃費と実燃費に差が出てしまうのはなぜか?
2025.9.30あの多田哲哉のクルマQ&Aカタログに記載されているクルマの燃費と、実際に公道を運転した際の燃費とでは、前者のほうが“いい値”になることが多い。このような差は、どうして生じてしまうのか? 元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.30試乗記大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。 -
なぜ伝統の名を使うのか? フェラーリの新たな「テスタロッサ」に思うこと
2025.9.29デイリーコラムフェラーリはなぜ、新型のプラグインハイブリッドモデルに、伝説的かつ伝統的な「テスタロッサ」の名前を与えたのか。その背景を、今昔の跳ね馬に詳しいモータージャーナリスト西川 淳が語る。 -
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.29試乗記「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。 -
ランボルギーニ・ウルスSE(後編)
2025.9.28思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・ウルスSE」に試乗。前編ではエンジンとモーターの絶妙な連携を絶賛した山野。後編では車重2.6tにも達する超ヘビー級SUVのハンドリング性能について話を聞いた。