ホンダN-BOXファッションスタイル(FF/CVT)
王者の貫禄 2024.01.24 試乗記 軽自動車のベストセラー「ホンダN-BOX」がフルモデルチェンジ。“キープコンセプトの正常進化”といわれる3代目の仕上がりを確かめるべく、街なかから高速道路、そして山岳路を含むトータル380km以上のロングドライブに連れ出した。3代にわたってキープコンセプトを貫く
「ホンダの軽自動車はライバルに対して存在感が薄い……」と、そんな自身の切迫感から開発がスタートし、2011年末に初代モデルがローンチされたのがN-BOX。以来すでに12年にも及ぶ2代のモデルが生み出したサクセスストーリーは、ご存じのとおり。そして、その勢いを受け継ぐべく2023年10月に再度の世代交代を図ったのが、今回紹介する3代目となった最新モデルである。
かくしてN-BOXは、もはや薄いどころかむしろホンダの全四輪車ラインナップのなかにあっても存在感が強すぎ、「現行『フィット』の売れ行きが今ひとつなのはこのモデルがよく出来すぎているからだ」などという陰口をたたかれる立場にまで上り詰めた。
ホンダがN-BOXにおいて絶対の自信を持つのが、まずはそのエクステリアのデザインということになるだろう。「従来型に対して代わり映えがしない」と端的に表現できそうなフォルムは、新型用のエアロパーツを開発した用品メーカーのエンジニア氏をして「もしかすると従来型用のアイテムがそのまま装着できるのではないかと思っちゃいました」と言わせるほどだ。
とはいえ、そこはやはりフルモデルチェンジ。一部にキャリーオーバーした外板部分もありはするようだが、「やはり微妙に形状が異なっていて、そのままで取り付けができるパーツはありませんでした」と、前出のエンジニア氏。もっと言えば、従来型に対して代わり映えしないという声は初代から2代目へのモデルチェンジに際しても聞かれるものであったのだから、すなわち3代にわたってキープコンセプトを貫いたことになるデザインに対するホンダの自信のほどはいかばかりのものなのか……と、ハナシはこう続くことになる。
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乾いた雑巾をさらに絞る
もちろん、並べて見れば変わった部分もあることは即座に認識できる。けれども、このくらいだったらマイナーチェンジでだって可能だったのでは? と、そんなこともイメージさせられてしまうエクステリアに対し、「やっぱりこのレベルはフルチェンジじゃないと無理だったでしょう」と納得させられてしまうのがインテリア、特にダッシュボードまわりのデザインだ。
ドライバー正面にレイアウトされた“大屋根型”クラスター内のアナログメーターをステアリングホイールの上側から読み取るというスタイルだった従来型に対し、グンとコンパクト化された四角いクラスター内に収められたメーターを2スポークのシンプルなデザインのステアリングホイール内を通して読み取るというのが新型である。
デジタルのスピード計を中心とする表示がスイッチ操作によってそのグラフィックをシンプルなものからより詳細な内容のものまで変更可能になったのは、従来型では当然成し得なかったという進化点。ただし、ADAS機能の充実などに伴い、作動時の表示が義務づけられたピクトグラムの数も加速度的に増えているので、それを目にした人がその内容すべてを理解できるのかは疑問が残るところでもあるわけだが。
「後席乗員は前方が見えにくいと姿勢や視線を乱し酔いやすくなる」という研究結果に基づいたポジションからの視界向上への配慮もあって、ダッシュボード上面がフラットになり全体のボリューム感も抑えられた。さらに形状にも工夫が凝らされ、Aピラーが生み出す死角も思いのほか気にならないので、従来型に比べるとすっきり感が強いというのが新型のインテリアにおける第一印象だ。
ちなみに、基本的なパッケージレイアウトは従来型を継承しながらも、ルーフ形状のスムーズ化や後席サイド部分の内部構造の見直しなどによって、前席頭まわりの空間を5mm、後席肩まわりの空間を片側で27.5mm拡大するなど、まさに乾いた雑巾をさらに絞るかのごとき数々のリファインが報告されている。
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軽自動車らしからぬ静粛性
今回テストドライブを行ったのは、「ファッションスタイル」と名づけられたモデルのFWD仕様。要は最もベーシックなグレード名のつかない「N-BOX」をベースに、ボディー同色のカラードホイールキャップやオフホワイトのドアミラー、アウタードアハンドルなどのカラーパッケージを装備し、「自分らしさを表現したい、より個性を求めるユーザーに応える世界観の幅を広げるモデル」というのがこのモデルのセリングポイントだ。
ちなみに、今やこのカテゴリーの定番でもあるカスタム系を除いてターボ付きエンジンの設定がなくなったのも新型でのトピック。これは「ターボ車を設定してもあえて選ぶ人はほとんどいない」という従来型での実績に基づく判断という。そういえばと、やはりまったく同様の理由でターボ車をカスタム系に1グレードを残すのみとなった「スズキ・スペーシア」の試乗会場で耳にした開発担当者のコメントを思い出すこととなった。
そんなわけで、少しばかりの動力性能に対する不安を抱きながら走り始めると、まず印象に残ったのは静粛性が高いということだ。それは「軽自動車らしからぬ」という形容を加えてもいいと思えるほどで、すでにこの時点で“王者の貫禄”を抱かされることになった……というのは本当のハナシ。こうして、エンジン透過音が予想以上に抑えられていることに加え、CVTによる空走感もさらに減少した印象。結果、アクセルの踏み込みもちゅうちょなく行うことができるので、少なくとも街乗りではターボチャージャーの助けを借りたくなるシーンには遭遇しなかったというのもまた本当だ。
もう一点、大いに好印象を抱くことができたのが、アイドリングストップ状態からの再始動が素早くスムーズに行われること。個人的に軽自動車に乗っていて思わずアイドリングストップの作動を止めたくなってしまう理由のひとつがあの金属的で大きなスターター音だった。しかし、このモデルでの仕上がりであれば十分に許容範囲内といえる。
さすがに、高速道路へと乗り込むと「軽自動車規格の排気量がせめて800cc程度までを許してくれれば」と思う場面も皆無ではなかったが、なるほどこれならばターボ付きを望む声は大きくはないだろうと、このモデルでの動力性能に対する印象はそう納得させられる仕上がりであった。
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究極の国民車へと昇華
総じて好印象だったそんな動力性能にも増して、あらためて感心したのがフットワークの仕上がりだった。
ただ、今回のテストルート全般がほぼ無風状態で、100km/hを超える速度を出せる場面がなかったことを踏まえなければならない。トレッドよりも全高のほうがはるかに大きいというディメンションやボディーの基本形状を見るにつけ、いかに最新の技術を用いたリファインが施されていようとも、特に前者は強風が吹き荒れるような条件に遭遇していれば、今回とはかけ離れた印象を抱くことになった可能性も否定はできない。
実際、高速道路上で隣の車線を走る大型トラックを抜き去ろう、あるいは逆に抜かれようとした瞬間に進路が乱れ、トラックの前面が左右に跳ねのけた風による影響が明確に感じ取れたのは事実。もっともそれはほんの一瞬の出来事であり、すぐに高い直進性を回復して基本性能の優秀さを教えられることになるという“副産物”もあったわけだが。
いずれにしても前述したような条件下にあれば、その直進性や4輪の接地感はこれもまた「軽自動車離れをした好印象だった」と表現するのが適切なものだった。コーナリングの際のステアリング操作とともにグラリとくるようなロール感も気にならず、その安定性の高さ、不安感のなさはもはやこの手の極端な“背高軽自動車”が世に走りだした当初とは雲泥の差と言っても過言ではない。
そうした技術の進歩を覚えるリファインは、今やライバル各車においても実感させられる一方で、「そのなかでもやはり一歩抜きん出ている」と評価したくなるのがN-BOXの実力であった。
そもそも、軽自動車が“国民車構想”に端を発した存在と考えれば、もはや究極の国民車へと昇華したと思えるレベルにまで達しているのが現在の軽自動車たち。複数のメーカーから生み出されるモデルが基本的に同じ方向を向いて熾烈(しれつ)な競争を繰り広げるなかにあって、今回のテストドライブで王者とたたえられるN-BOXの実力の高さを、あらためて強く教えられた。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ホンダN-BOXファッションスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58PS(43kW)/7300rpm
最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:21.6km/リッター(WLTCモード)
価格:174万7900円/テスト車=211万0900円
オプション装備:コンフォートパッケージ<リア右側パワースライドドア、運転席&助手席シートヒーター、運転席&助手席シートバックテーブル、オートリトラミラー、左右独立式リアセンターアームレスト>(10万0100円) ※以下、販売店オプション 9インチHonda CONNECTディスプレイ(23万5400円)/フロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2463km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:382.0km
使用燃料:21.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.6km/リッター(満タン法)/20.3km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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