フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン TSI ハイライン(FF/7AT)【試乗記】
威張らず飾らずデキるやつ 2010.12.09 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン TSI ハイライン(FF/7AT)……369万4500円
ドイツ生まれの売れっ子ミニバン「ゴルフトゥーラン」が、世代交代。お化粧直しにとどまらないという進化のほどを、上級グレード「ハイライン」でチェックした。
“ほどほど”でモテモテ
「2004年4月に国内導入されて以来、『トゥーラン』は6年半あまりで約2万6000台の販売を記録した。文句なしに輸入ミニバンのベストセラーである」というフォルクスワーゲン・グループ・ジャパンの説明を聞いて、「あれっ、トゥーランってミニバンなんだ!?」とあらためて思った。
しかし、まさにそのへんがトゥーランの価値であり、人気の秘密でもある。本国では登場時からトゥーランという独立したモデルだが、日本では今でも“ゴルフトゥーラン”として売られる。ミニバンというよりも「3列シート7人乗りのゴルフ」として認知されてきた。バス的なワンモーションフォルムではなく、ちゃんとノーズがある。「ゴルフ」より約20cm長いが、フルサイズのミニバンよりはずっとコンパクトだ。ミニバン王国の日本にあって、そんなほどほどさがこのクルマのよさだろう。
ドアパネル以外、すべての外板を一新したという新型トゥーランは、新しいフォルクスワーゲンの顔ともいえる水平基調のフロントマスクがなによりの識別点だ。試乗車の「ハイライン」にはヘッドライト内に特徴的なLEDのポジションランプが埋まる。全体にフェイスリフト前より少し若返った印象だ。
パワーユニットは、1.4リッターのツインチャージャーと乾式7段DSGの組み合わせ。140psのパワーもこれまでどおりだが、日本仕様には今回あらたにチップ・チューンが施され、エコカー減税をゲットしている。最大トルクの発生回転数が1500rpmから1250rpmに下がったことも細かな違いだ。
「高級だなあ」
六本木のフォルクスワーゲン・グループ・ジャパンでクルマをピックアップして六本木通りを走り始める。
信号待ちから先頭でスタートするとき、ちょっと多めにアクセルを踏み込んだら、思いがけずキュッと前輪から音が出たので驚いた。車重1580kgに140psというと、活発な走りはそれほど期待できないカタログデータなのに、加速性能、とくに出足の力強さは相変わらずだ。
ゼロヨンといっても、0-400mではなく、0-40mの立ち上がり加速が素早い。フォルクスワーゲン系直噴過給ユニットの例にもれず、最初のひと踏みで流れをリードできるダッシュ力をこのクルマも備えている。
ただし、高速域になると、タウンスピードで感じたほどのパンチはない。100km/hからDレンジのままアクセルを床まで踏めば、7段DSGは3速まで落ちるが、そこからの加速は1.6tの車重を思い知らされる。たかだか1.4リッターのエンジンで賄うミニバンなのだからしかたない。
“走り”の質感の高さはこれまでどおりだ。ボディの遮音性が向上したのか、エンジン音やロードノイズは旧型よりさらに静かになった。
速度域を問わず、しっとり落ち着いた乗り心地もいい。「神は細部に宿る」というけれど、ちょっと湿気を帯びたような肌触りのレザーステアリングを握っているだけで、「高級だなあ」と感じる。きらびやかなところはまったくないのに、お金はちゃんとかかっていると思わせる。それを“プレミアム”と呼ぶなら、最近のフォルクスワーゲンはその点でBMWに肩を並べたか、ひょっとしたら追い抜いてしまったようにも思える。
しつけにもいい空間
ピープル・ムーバーとしての使い勝手は変わりない。全長4.4mだから、3列シートによる「7人乗り」は“限界性能”である。2列目席には独立した3つのシートが“律儀”という感じで隙間なくぎっしり並んでいる。3席すべてに前後スライド機構が備わる。横3人がけをしても、イスの前後位置をちょっと動かせば、肩が互い違いになって邪魔にならない。
2人分のサードシートは、見たところ快適そうだが、座ってみると大人には補助イスの域を出ない。セカンドシートをグンと前に出してもらわないと、レッグルームは狭すぎるし、床に対してクッション位置が低いので、着座姿勢も体育座りをしいられる。子供用と割り切るべきだろう。
貨物車として使うとき、そのサードシートは荷室床下に跡形もなくしまっておける。ドイツ車は往々にしてこうした機構の操作力が重くて、指をくじいたり、ツメを剥がしたりする恐怖にかられることがままあるが、トゥーランは日本車並みに親切にできている。
家族構成は30〜40代の夫婦と小学生までの子どもがふたり。たまに実家に遊びに行ったとき、おじいちゃんおばあちゃんを2列目で厚遇し、子どもたちは荷室床から掘り起こしたサードシートに収まる。そんなところが、最も理想的な使われ方だろうか。
試乗車のハイラインはシリーズの上級モデルだが、ウエストラインから下の内装は黒一色。ポップに飾ったところはまったくない。「乗ったとたん日曜日感覚」には浸らせてくれないが、そこがトゥーランの真価だ。車内カラオケは似合わない。この中なら、しつけのいい子どもが育つかもしれない。
(文=下野康史/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
NEW
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
NEW
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。 -
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。




































