ホンダ・フィットハイブリッド スマートセレクション(FF/CVT)【試乗記】
ハイブリッド殺し 2010.12.07 試乗記 ホンダ・フィットハイブリッド スマートセレクション(FF/CVT)……198万5000円
159万円からという魅力的な価格で登場したホンダの新型「フィットハイブリッド」とは、乗ってみるとどんなクルマなのか?
おしゃれな「フィット」
数年前は、「液晶テレビを買うことにしたよ」的な発言を聞く機会が多かった。あと、「ついにわが家も薄型テレビになった」とか、「これからテレビ買うなら地デジ対応かな?」とか。でも、間もなく2011年になろうかという今、そんな発言をする人はいない。「今度、テレビを買い替えようかと思って」と言ったら、薄型で地デジ対応なのがあたりまえだ。逆に、「ブラウン管のテレビが欲しいんだけど」なんて言う人がいたら、ちょっとしたニュースだ。
「フィットハイブリッド」に試乗しながら、クルマも同じようになるかもしれん、としみじみする。今はまだ「ハイブリッド車を買おうかと思って」なんて言ったりする。けれどもこと日本に限れば、あと10年もしたら「クルマを買い替えたよ」と発言したら、すなわちハイブリッド車を意味するようになるかもしれない……。てな想像をするぐらい、フィットのハイブリッドは普通によく出来たコンパクトカーだった。
ヘッドランプとリアのコンビネーションランプにきれいなブルーが使われていたり、フロントグリルがきらきらしていたりで、フィットハイブリッドは未来っぽく見せようとしている。とはいえ、基本的な形はフツーのフィットと変わらないから、「うわー、未来のクルマだ」という強烈なインパクトはない。ちょっとおしゃれなフィット、といったところか。
1.3リッターエンジン+モーターはボンネットにすっぽり収まり、バッテリーとコントロールシステムは荷室の床下に“かくれんぼ”。外観でハイブリッド車だとわかるのは、「HYBRID」のエンブレムだけなのだ。
いざ走りはじめても、品のいいコンパクトカーという印象だ。
スゴいと感じさせないスゴさ
モーターがエンジンをサポートしてくれるおかげで、発進加速は1.3リッターという排気量から想像するよりはるかにゆとりがある。インサイトに比べると街中での乗りやすさを重視したセッティングになっているとのことで、確かに信号待ちから発進する時や、20〜30km/hから加速するような場面ではモーターの後押しが心強い。「これくらいの加速が欲しい」という期待に応えてくれる。
ただしエンジンが主演でモーターは助演というホンダ方式は、「インサイト」や「CR-Z」と共通。スタート時はエンジンが回っているから、モーターだけで音もなくスーッと発進する「トヨタ・プリウス」のようなわかりやすいハイブリッド感はない。
低い速度域で一定のスピードで走るような場面では、インサイトよりもモーターだけで走るEVモードに入りやすくなっている。たとえば50km/hを保って走りながら軽くアクセルを緩めると、かなり頻繁にEVモードになる。
ただしこういった場面では、路面からの振動もあるしタイヤからのノイズや風切り音といったにぎやかな音もある。「あ、この瞬間がハイブリッドだね」とは気付きにくい。
スピードメーターの内側にあるディスプレイを「エネルギーフロー」というモードにしておくと「EV」と表示してくれて、「おおっ、EVモードだ」と思う。でも逆に言うと、この表示がないとEVモードに入ったというありがたみが感じられない。
だからしばらく走っていると、ハイブリッド車だということを意識しなくなる。省燃費運転をするとメーターパネルが青からグリーンに変わるという演出のおかげでエコドライブには意識的になるけれど、「自分は今、ハイブリッド車という新しい仕組みのクルマを運転しているのだ」という高ぶりは感じない。
正直、これがいいことなのか悪いことなのかはわからない。せっかくのハイブリッド車なんだから新しい運転感覚を積極的に感じさせる演出があるほうがいい、という意見もあるでしょう。けれど、今までのクルマと同じように運転できて、しかも燃費がいいフィットハイブリッド的な方向もアリだと思う。実際、フィットハイブリッドの燃費は思ったよりかなり良かった。
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ハイブリッドはエラくない!?
都心から箱根山中を駆け回って、計260km余りを走って得た燃費が18km/リッター。急こう配の箱根ターンパイクを全速力で何度も駆け上がったことを思えば、この燃費は褒めてあげたい。
しかも市街地から高速、ワインディングロードまで運転感覚はごく自然。特別なクルマだとは感じさせない。減速エネルギーを電気に変えて蓄える回生ブレーキのフィーリングはごくナチュラルで、違和感を感じさせない。停車時にアイドリングストップして、発進時に再びエンジンを始動する一連の動きもスムーズ。
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山道では、「シビック タイプR」のようにキュッキュキュッキュ曲がるわけではない。それでも、重たいハイブリッド用バッテリーを荷室床下という低い位置に置いた恩恵か、しっとり落ち着いたコーナリングを見せる。
落ち着いているといえば室内の静けさも大したものだ。試乗会ではじめてフィットハイブリッドに乗った時に、担当エンジニア氏に静かなので驚いたと伝えたところ、窓ガラスを厚くしたりフロアカーペットに遮音シートを追加したり、ありとあらゆる場所に防音対策を施したと語っていた。フィットハイブリッドはモーターのアシストがインサイトより強力になった分、エンジンの活躍の場が減っている。おかげで静かなクルマになったけれど、逆に少しでもノイズが侵入すると目立つので、遮音に気を配ったのだという。
フィットハイブリッドの印象をまとめると、余裕のある動力性能と小型車離れした静粛性、そしてクセのない運転感覚と良好な燃費を備えている、といったところ。つまりはコンパクトカーの理想型のひとつだ。正直、ハイブリッドかどうかというのは、あまり関係ない。
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今まで、頭の中ではハイブリッド車が進歩的でエラいクルマだと刷り込まれていた。けれど、ホントはそうじゃない。大事なことは、燃費がよくて値段が手頃で、しかも走って楽しいということだ。そんなクルマであれば、ハイブリッドだろうが内燃機関だろうがEVだろうが燃料電池車だろうが、なんでもいいのだ。そのことに気付かせてくれたフィットハイブリッドは、ある意味で“ハイブリッド殺し”だ。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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