第845回:「レトロモビル2024」探訪記 ―明暗を分けたフランス系ブランド それでも話題は尽きず―
2024.02.08 マッキナ あらモーダ!シトロエンとプジョーが参加見送り
欧州を代表するヒストリックカーイベントのひとつ「レトロモビル」が、2024年1月31日から2月4日まで、フランス・パリのポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で一般公開された。
48回目を迎えた今回は、2023年と同じ3つのパビリオンが用いられ、自動車ブランド、パーツ商、クラブなど550に及ぶ企業・団体がブースやスタンドを展開した。連日朝、ゲートには10時の開場を待つ来場者たちの姿が見られた。
今回、1996年以来レトロモビル通いを続けてきた筆者を含む長年の古典車ファンに衝撃を与えたのは、ステランティス系のブランドが一切参加を見送ったことであった。それはシトロエンやプジョーが出展しないことを意味する。そのため、両ブランドのモデル別クラブは、ブランドに割り当てられた1号館ではなく3号館に場所を移し、一般参加のかたちでスタンドを設けた。
いっぽうでルノーは、スピード記録に挑戦した歴代モデルなどに加えて、単発単座航空機「コードロン・ルノー・ラファールC.460」の複製を展示した。ルノーの創業者ルイ・ルノーが、1933年にコードロン社を買収した結果つくられたものである。エンジンは言うまでもなくルノー製だ。それらが示すものは「挑戦精神」で、通路を挟んだ反対側には、2024年2月26日にジュネーブモーターショーで発表予定の電気自動車(EV)「5プロトタイプ」の樹脂製モデルが置かれた。
新車披露の場としても
国外ブランドで存在感を放っていたのはフォルクスワーゲン(VW)とMGだった。VWは「ゴルフ」誕生50周年を過去7モデルと現行の「GTE」でアピールした。
MGは創立100周年を祝った。今日、MGブランドを所有するSAIC(上海汽車集団)のフランス法人担当者によれば、今回の展示は英国ブリティッシュモーターミュージアムと、MGクラブ・ド・フランスの協力を得て実現したものである。参考までに、フランス人の自動車愛好家には英国車のファンが少なくない。筆者が知るトライアンフオーナーによると、革の香りと木目の内装が魅力だという。「マツダMX-5」の人気が高いのも、往年のイギリス製ライトウェイトスポーツの雰囲気をよく反映しているからだ、と実際のオーナーが証言してくれた。
なお、今回のMGブースの一角には、2024年末にフランスで発売予定の2座EV「サイバースター」も展示されていた。ロンドンのアドバンスドデザインセンターの手になる同社製歴代ロードスターの新解釈が、どこまでフランス人エンスージアストの心の琴線に触れるのか、興味深いところだ。
時代の変容を感じさせるもの
時の流れを感じさせてくれた証言は、ジュネーブの高級車スペシャリスト「キッドストン」のスタッフによるものだ。彼は筆者に「第2次世界大戦前のモデルは、よほど輝かしいヒストリーがないと、もはや人気はない」と断言した。
会期中恒例となったパリのオークションハウス、アールキュリアルのセールでは、131台の四輪車と21台の二輪車がカタログを飾り、落札総額は約1779万ユーロ(約28億4千万円)に達した。面白いのは、2台のランボルギーニ製トラクターも含まれていたことで、こちらも、かつての1930年代から終戦直後の重厚長大な高級車が目立っていた時代からの変容を感じさせた。
ほかにも「ダカールラリーの歴代参加車たち」といったフランス人好みの企画も盛り込まれていた。会期初日の午後には、ラリードライバーのセバスチャン・ローブがフランス自動車連盟のブースでトークショーを実施。多数の来場者が取り巻くなか、2025年ダカールで彼が操縦する予定のマシン「ダチア・サンドライダー」も公開された。
ローブは1974年生まれ。2024年でちょうど50歳を迎える。レトロモビルは1976年、現在の会場とは異なるバスティーユ駅跡で小さな部品交換市として始まった。当時2歳児だったローブが、WRCで前人未到の9連覇を遂げてステージに立っている。そう思いをはせるだけでも、すでにレトロモビルがフランス自動車界における伝統的イベントであることを確信するのである。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆画像・写真:名門オークションから啖呵売まで! 大矢アキオ ロレンツォの「レトロモビル2024」
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。











