ひとりの技術者としてロータリーエンジンをどうみるか?

2024.02.20 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

マツダがロータリー復活に向けて具体的な取り組みをみせています。多田さんご自身は、この特徴的なエンジンと、それを開発・生産し続けるマツダについてどんな印象を持っていますか?

すばらしいと思っています。

ロータリーエンジンというのは、はやりそうなときに燃費の問題が降ってくるなど、ある意味不運な歴史があって……時代の波に消され(かけ)たところがあるんですね。

しかし、ロータリーにはポテンシャルがある。なにせ、物理の原理原則からいって、ピストンの上下運動をクランクの回転運動に変換する普通のエンジンに対して、発想が素直というか、無理がないのです。

いま世の中では電動化が進んでいますよね。この“モーター化”というのは、ある意味でロータリー的な思想ともいえます。モーターはまさに回転力を発生する動力源であり、(中心軸を直接的に回転させるという意味で)ロータリーエンジンに近い技術だと思うのです。

私は、ロータリーとモーターは、今後発展する過程でお互いに“技術的な気づき”を得て、ともに高みへと上っていくのではないかとみています。今後の進化次第では、モーター並みにクリーンでパワーも得られるという、ものすごく高効率なガソリンエンジンに昇華する可能性も秘めている。燃料を選ばないというアドバンテージもいい。ロータリーエンジンには、そのポテンシャルがあると思います。

マツダはいま、(EVの動力源として活路を見いだすなど)いろんなことに挑戦しているじゃないですか。そうしたチャレンジは、いつか必ず芽が出ます。燃焼速度が遅いという課題やシーリングについての問題だって、技術・素材は日進月歩ですから、いずれは解決されることと思います。マツダのチャレンジは良いことだし、自動車ファンとしては大いに応援したいです。

私が免許を取る前に一番乗ってみたかったクルマは「マツダRX-7」でした。初代RX-7が登場し新聞広告に載った日のことを今でも鮮明に覚えています。

ロータリーはエンジン自体がコンパクトなので、クルマのスタイリングの自由度が大幅に上がります。あれほどかっこいいクルマができるんだということに衝撃を覚えて、「免許を取ったら絶対にこれを買おう!」とずーっと思っていた。しかし、そうこうしているうちに「ロータリーは悪者だ」みたいな空気になり、自分が買うトシになったら選択すらできない状況という……。

今また風向きが変わってきましたから、「おお、これは!」というかたちにブラッシュアップされてクルマが出たら、死ぬまでには買いたいと本気で思っています。マツダにはぜひ、みんながぶったまげるようなエンジンをつくってほしいです。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。