トヨタGR86 RZ(FR/6MT)
文化を紡ぐということ 2025.01.13 試乗記 「トヨタGR86」のマイナーチェンジモデルに試乗。従来型からの変更点はわずかなものの、われわれにはその仕上がりを試し、世の自動車好きに伝えるという責務がある。それは今や希少なFRスポーツカーを守るためであり、皆で紡いでこそ文化と呼べると考えるからだ。目新しさよりも本質を追求
2024年の夏に改良が施されたGR86と対面。とはいっても、デザインに大きな変更はなく、外観で分かるのはデイタイムランニングランプが追加されたことだけ。じゃあインテリアに大きな変化があるのかというと、そういうわけでもなく、メーターパネルにタイヤ空気圧警報システムが追加されたことが唯一の変更点。内外装ともに、実効のある改良だ。
つまり、牛丼にトッピングを施すことで目新しさをアピールするマイナーチェンジではなく、牛丼の味そのものにこだわったマイチェンだと推察した。
2.4リッター水平対向4気筒エンジンはシュンと目覚め、粛々とアイドリングを開始する。シフトレバーは、東西南北どの方向に動かしてもコキコキという節度と、スッと吸い込まれるスムーズさが絶妙にバランスしていて、細部までしっかりチューニングされていることが伝わってくる。
クラッチペダルも同様で、すこぶるスムーズ。踏み応えがあると感じる反力と、重すぎると感じる反力の中間のほどよいバランスで、やはりスポーツカーやスポーツドライビングを愛する人が丁寧にセッティングしていることが伝わってくる。
クラッチのミートポイントもいいあんばいに分かりやすく、アクセルペダルに触れることなく、アイドル回転の状態でスムーズに発進した。ところが──。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
シフトダウンが楽しい
クラッチを完全につないで、アクセルペダルに軽く力を込めると、予想以上の鋭さで「キュン!」と前に出る。これはレスポンスが鋭いのとはちょっと違う。アプリで加工しすぎた顔写真のように不自然で、あざとい感じがする。鍛えて、磨き上げたシャープなレスポンスではなく、ドーピングによる鋭いダッシュ力だ。
「むむむ」と思いながら運転を続けると、前方に赤信号。ここで、3速から2速にシフトダウンする際に、軽くアクセルペダルをあおって中ブカシ(ブリッピング)を入れると、水平対向エンジンが「フォン!」と気前よく回転を上げて、気持ちよくシフトダウンが完了した。なるほど、心地よい中ブカシ、ひいてはシフトダウンの快感を提供するためのレスポンスなのか。
マイチェンにあたっては、モータースポーツに求められるブリッピング操作のしやすさを実現するために、エンジントルクの制御を変更したとのことで、なるほど、確かにシフトダウン時の中ブカシは楽しくなっている。
ヒール&トーを試してみると、ブレーキングとシフトダウンの複合技がビシビシ決まる。エンジンのレスポンスのよさに加えて、ABCペダルの配置が適切なことも貢献している。右足の親指の付け根あたりでしっかりブレーキペダルを踏んで減速、かかとでアクセルペダルをあおるという動きがスムーズにできるのだ。
あざとさにはすぐに慣れる
なるほど、と思いながら、ついつい意味もなく「バフン、バフン」と中ブカシを入れながら、シフトダウンを繰り返してしまう。減速やエンジン回転数アップを目的としない、純粋なシフトダウン行為だ。
そうこうしているうちに、気になっていた加速時のあざとさをすっかり忘れていることに気づいた。無意識のうちに学習して、加速するときにはじわじわとアクセルペダルを踏むような運転スタイルに変わっていたのだろう。
つまり、「キュン!」と飛び出すクセがあるけれど、それは一見さんには不快なだけで、このクルマと長く付き合うオーナーにとっては大した問題ではないということだろう。慣れれば、気にならなくなる。そしてクルマと一対一で向き合うような、宿命のライバルとタイマンを張るような、マニュアルトランスミッションならではのダイレクト感を享受することができる。
こんな仕事をしていながらもMTのクルマに乗るのは久しぶり。MTならなんでもいいというわけではないけれど、シフトフィールやクラッチのスムーズさなどにこだわったこのクルマに乗っていると、やっぱりMTは楽しいと実感する。
文化を継承したいという熱意
水平対向エンジンの利点のひとつに、重心が低いということがある。重心が低いことは、足を固めなくても安定したコーナリングフォームで曲がることにつながり、そんなわけでGR86はもともと乗り心地のよいクルマだ。
今回のマイチェンではショックアブソーバーの減衰力を見直したとのことで、路面の凸凹からの衝撃をさらりと受け流す快適性と、正確で俊敏なハンドリング性能がさらに高い次元でバランスするようになったと感じる。
パキッ、パキッと曲がるのではなく、滑らかにロールして、路面をなめるように向きを変えるあたりは、速いだけでなく、コントロールする楽しさも味わえる大人のコーナリングだ。気持ちよくコントロールできることには、ミシュランの「パイロットスポーツ4」も貢献していると見た。
それにしても、2021年秋にデビューした現行GR86は、翌年に最初の小変更を受け、2023年にはかなり大がかりなマイナーチェンジを受けている。そして今回の改良だ。率直に言って、採算を最優先していたら、それほどたくさんの数が出るわけでもないこのクルマに、ここまで手間暇をかけることはしないはずだ。スポーツカー文化を継承したいという熱意がなければ、ここまでできない。
最近は、ちょっと古い、MTの、FRのクルマの値段が上がっている。それはそれでひとつのクルマ文化ではあるけれど、最新のGR86を買って、自分だけのビンテージカーに仕立てるというのもアリではないだろうか。
試乗をしながら、大事に育てられているハチロクなんだから、われわれも大切にしていきたいと強く思ったのです。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタGR86 RZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1270kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)(前)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.9km/リッター(WLTCモード)
価格:351万8000円/テスト車=393万5780円
オプション装備:ボディーカラー<スパークレッド>(5万5000円) ※以下、販売店オプション 9インチベーシックナビ(24万4310円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<ベーシックナビ連動タイプ>(4万3450円)/ETC2.0ユニット<ナビ連動タイプ>(3万1020円)/バックモニター(1万7600円)/GRフロアマット(2万6400円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1438km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:322.5km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.0km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
NEW
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
NEW
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。 -
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。













































