三菱のコンパクトSUV「RVR」の生産が終了 「エクスフォース」はその後継モデルなのか?
2024.03.28 デイリーコラム近未来的で力強いスタイリング
世界中の情報を、だれもが簡単に取得できるインターネットの時代では、自動車メーカーも、海外専用車の存在をかつてのように「日本のお客さまが混乱するので」みたいな理由で隠すことは、とうてい不可能だ。それを逆手にとって、最近はメーカーみずからが海外市場の情報も普通に公表するようになった。それはとても良いことだと思う。とくに三菱などは、国内のニュースが比較的少ない(失礼!)こともあってか、グローバルでの商品情報を国内でも積極的に発信している。
ルノーや日産とのアライアンスのなかで、三菱が唯一主導的な役割を果たしているのがアセアン地域だ。たとえば、2023年の実績でいうと、最大拠点のタイを筆頭にインドネシア、フィリピン、ベトナムといったアセアン地域の工場で、三菱は合計51万台以上を生産した。これはもはや国内生産(同じく約50万台)を超える規模なのだ。となると、三菱関連のニュースもアセアン地域のそれがもっともアツいわけで、日本でも必然的にアセアン関連情報が増える。
そんななかで、日本のクルマ好きの間でも話題の新型三菱車が「エクスフォース」だ。2023年8月のインドネシア国際オートショーで初公開されたが、それ以前の同年5月と7月にも日本で事前告知される……という厚遇ぶりだった。しかも、先日上陸したピックアップトラック「トライトン」とはまたちがった近未来的で力強いスタイリング、大型液晶とファブリックをあしらったインテリアなど、素直に魅力的に見える。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
エクスフォースは日本に導入される?
エクスフォースはインドネシアで生産される三菱のグローバル向けコンパクトSUVで、同じアセアンのフィリピンやベトナムに加えて、南アジア、中南米、中東、アフリカなどに広く輸出されることになっている。スリーサイズは全長×全幅×全高=4390×1810×1660mm(インドネシア仕様の数値)で、三菱でいうと「RVR」より25mm長く、40mm幅広い。つまり、RVRの正常進化版といわれれば、いかにもそれっぽくもある。エクスフォースが初公開された2023年8月時点で、現行型RVRはすでに発売から13年半が経過していたこともあり、「すわ、これが次期RVRか!?」と日本のファンも色めき立った。実際「エクスフォースの国内販売が検討されている」とあおるメディアもあった。
そうこうしているうちに、この2024年2月には、ついに「RVRが、2024年4月をめどに国内生産終了」とのニュースが各新聞やテレビで報じられた。となると、ファンの間で「やっぱりエクスフォースがRVR後継だったのか!?」と議論が再燃するのは当然だ。
というわけで、今回はエクスフォースについて、三菱自動車の広報部にずばり聞いてみた。で、その回答は「エクスフォースの日本導入の予定はありません。ご期待いただいている声があるのは承知していますが、日本の法規に対応しようとすると、コストがかかりすぎて、価格に見合わないであろうことが理由のひとつです」というものだった。おお、意外なほどすっきり明快な回答である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
三菱らしいデザインの魅力
でも、せっかくなので、もうちょっと食い下がって、RVRの国内生産終了についても聞いてみた。すると「時期については公表しておりませんが、RVRの国内向け生産が終了するのは事実です。国内では後継モデルの計画もありません」との答えをいただいた。
そこでたまらず、筆者も「だったら、日本でもエクスフォースを売ったらいいじゃないですかっ!?」とせまってみたら、電話口の広報担当氏は「私もそう思うんですけどねえ……」とポツリ。そのしんみりとした口ぶりはとうてい演技とは思えなかったから、エクスフォースの国内販売は少なくとも現時点では予定されておらず、RVRの国内生産が終了すると、日本ではそのまま空席になることは間違いないのだろう。もしこれが広報担当氏の「発表前なのでトボけてみました」の演技だったとしたら、まさにアカデミー賞ものだ(笑)。
と、それはともかく、2023年のRVRの国内販売台数は1373台(月間平均100台強)。いくらモデル末期とはいえあまりに少なく、これだとエクスフォースが企画された際にも「日本で売るのはリスクが大きい」と判断されてもしかたない。日本や欧米などの市場を想定外に開発されてしまったクルマを、後から日本の規制に対応させるのは簡単ではない。また、軽自動車という強力無比のコンテンツがある日本では、リスキーなコンパクトSUVより軽自動車に注力すべし……と、三菱は考えているかもしれない。
ただ、エクスフォースは「デリカミニ」やトライトンとならんで、三菱デザインらしい魅力がある……と思ったら、デリカミニ、トライトン、エクスフォースは3台まとめて、日本の「2023年度グッドデザイン賞」を受賞したそうだ。それでも、エクスフォースは日本で売らないんですね。そうですか。
(文=佐野弘宗/写真=三菱自動車/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか?NEW 2025.9.19 中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか?
-
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる? 2025.9.18 本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
NEW
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか?
2025.9.19デイリーコラム中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか? -
NEW
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.19試乗記プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。 -
ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.9.18画像・写真欧州在住のコラムニスト、大矢アキオが、ドイツの自動車ショー「IAAモビリティー」を写真でリポート。注目の展示車両や盛況な会場内はもちろんのこと、会場の外にも、欧州の今を感じさせる興味深い景色が広がっていた。 -
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ
2025.9.18エディターから一言BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。 -
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?
2025.9.18デイリーコラム本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。 -
第4回:個性派「ゴアン クラシック350」で“バイク本来の楽しさ”を満喫する
2025.9.18ロイヤルエンフィールド日常劇場ROYAL ENFIELD(ロイヤルエンフィールド)の注目車種をピックアップし、“ふだん乗り”のなかで、その走りや使い勝手を検証する4回シリーズ。ラストに登場するのは、発売されたばかりの中排気量モデル「ゴアン クラシック350」だ。