これまでで最もすごいと思った輸入車は?
2024.04.02 あの多田哲哉のクルマQ&A多田さんは以前、最もすごいと思った国産車としてR32型「日産スカイラインGT-R」を挙げていました(関連記事)。では、輸入車に関してはいかがでしょうか。これまで最も感心したモデルと、その理由を聞かせてください。
「アウディ・クワトロ」ですね。
登場したのは1980年。ちょうど私が会社に入って働き始めたころで、プライベートではFFの「ミラージュ」を駆ってラリーに取り組んでいた時期でした。
クワトロは、翌1981年からWRC(世界ラリー選手権)に参戦し、秒単位で争うこの世界において、初戦のモンテカルロラリーで2位以下に“分単位”の大差をつけて勝ち、衝撃を与えました。ミシェル・ムートンという女性ドライバーの活躍(第8戦サンレモラリーで優勝)も、女性が!? という時代だっただけにセンセーショナルなことでした。
そもそもそのころは、4WD車で競技をするなんて考えもしなかった時代。「四駆というのは複雑な構造で車重の増加をまねくものであり、クロスカントリー車に代表されるような『悪路もへっちゃら』『いざというときに緊急脱出ができる』という用途しかない」と思われていた。それを速く、安定して走るために使うという発想は、驚くべきものだったのです。
アウディ・クワトロにセンターデフなるメカニズムが搭載されていたことに対しても、「そんなものがあるのか!」と大いに感心したのを覚えています。私自身、後年には実車のステアリングを握る機会にも恵まれました。
かつての四駆は「トラクションはすごいけれど曲がらない」というものであり、その曲がらない4WD車をいかにコーナーで曲げるかに取り組んできたのが、アウディをはじめとするスポーツ4WDの歴史といえます。
クワトロ以降は電子制御を生かした日本の四駆システムも出てきて、前後トルク配分については(ほぼ)なんでもできるようになりました。“すごい国産車”として挙げたR32型スカイラインGT-Rも、そのひとつの到達点だったと思います。
しかし、「クルマがなんでもできちゃう」みたいになると、今度はユーザーから「運転がつまらない」「安定しすぎている」「誰が乗ってもテクニックに差が出ない」などと言われるようになってくる(笑)。それで近年は、4WDなのにFRっぽい走りが味わえることをウリにしているクルマもちらほら出てきて……。なんとも皮肉なことだなぁと思います。
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多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。