スポーツカーに未来はあるか?

2024.04.16 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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「86」や「GRスープラ」を開発した多田さんとしては、スポーツカーに未来はあると思いますか? ビジネス的には難しい製品かと想像しますが……。こうした趣味性の高いクルマは今後どう生き残るのか、どうすれば存続できるのか、多田さんのお考えが聞きたいです。

時代の要求として、パワートレインの電動化が進んだモデルが今後どんどん出てくるとは思いますが、たとえエンジンがモーターに代わっても、楽しいクルマというのはそれなりにできるでしょう。

そういう意味で、「スポーツカーに未来はある」と思います。

では、もっと進んで、スポーツカーも含めてクルマが自動運転化したらどうなるのか? そういう時代には、「自動運転で安全にサーキットに行って、着いたら制御を切り替えて自分で運転する」というスタイルが一般的になるのかもしれません。

また自動運転技術が高度に発達すると、車両の制御により「サーキットでもぎりぎりのところで事故につながらない、深刻なダメージを受けずに済む」というドライビングが可能になります。ゲームの世界がリアルワールドのサーキットにおいて展開されるようになるわけです。

つまりは、自分で運転することの意味がどれくらいあるか、というのがポイントになってきますよね。

私は、こういう議論は結局、乗馬と同じだと思うのです。むかしは、馬に乗ること自体に目的や楽しみがあったわけではなく、馬に乗ることにより速く移動する、あるいは重い荷物を運ぶことができた。操り方も、そのために発達してきた。しかし今は、純粋に馬をコントロールすることを楽しむものとしての乗馬があるのです。

スポーツカーを運転するということも、乗馬を楽しむのと同じになっていくのではないでしょうか。そして、そのニーズに応えるものとしてスポーツカーは存在し続け、進化していくはずです。

ただ、「数字のうえで商売になるかどうか」はまた別の議論です。残念ではありますが、将来は今以上にハイエンドなスポーツカーしか残らない、という状況になるでしょう。

では、エントリーユーザーはどうなってしまうのか? そういうファンを切り捨てたら、ヘビーなスポーツカーユーザーはいなくなってしまいます。現実的に、一握りのリッチなお年寄りしか残らない(苦笑)。

その点、リアリティーが今よりもはるかにアップした“eスポーツ”みたいなものが支持されるようになるかもしれませんね。(実車よりもローコストな)バーチャルなものを通してスポーツカー体験を満足させる、と。

いずれにせよ、将来、技術がなんらかの答えを出してくれると思います。われわれは心配せずに待っていて大丈夫でしょう。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。