トヨタ・クラウン スポーツRS(4WD/CVT)
七人の敵あり 2024.05.01 試乗記 「トヨタ・クラウン スポーツ」のプラグインハイブリッド車、すなわち「RS」は、パワートレインのみならずシャシーも専用仕立て。まさに今のトヨタらしい手の込んだモデルといえるだろう。あいにくの空模様ながら、ワインディングロードで思い切り曲げてみた。「クラウン」を守ったことこそが大英断
その名前以外はそっくり変えてしまった現行のトヨタ・クラウンは、市場にそれなりのインパクトを与えた。乗り味や雰囲気などにおいて、長年クラウンに慣れ親しんできたお客さまを裏切らないこと(=変わらないこと)を何より大事にしてきたクラウンに変調の兆しが見え始めたのは、通称“ゼロ・クラウン”のあたりからだったと個人的には思っている。それまでは、クラウンの試乗会でエンジニアに意見を求められ、正直に話しても「確かにそうかもしれませんが、お客さまはこっちを望んでいますので」と、会話がそこで終わってしまうことが少なくなかった。ところがゼロ・クラウンの試乗会では、それまであまり聞いたことがなかった「ボディー剛性」や「ハンドリング」などのワードがエンジニアからちょいちょい出てくるようになったからだ。
それにしてもクラウン=セダンという、太陽は東から昇り西へ沈むくらい至極当然とされていた常識をぶっ壊し、「クロスオーバー」をはじめとした計4種類を用意したというのは、最近のトヨタのなかではトップレベルの大英断だっただろう。でも、自分としては「クラウン」という名前を変えなかったことこそが大英断だったと考えている。「従来型から引き継ぐものがほとんどないなら、それはもはやクラウンではない」と思うほうが普通だし、車名を変える絶好のチャンスでもあった。ところが商品は様変わりしたのにクラウンを名乗り続けることで、「え、これが今度のクラウン??」と結果的には大きなインパクトを生んだわけで、新しい車名になっていたらここまでの注目は浴びなかったに違いない。もしこれがすべてトヨタのもくろみどおりだったのであれば、誠にあっぱれと拍手を送りたい気分である。
ホイールベースを詰めて全幅を拡大
クラウンは基本的にエンジンを横置きとするFFベースのGA-Kプラットフォームを共有するが、セダンのみエンジンを縦置きとするFRベースのGA-Lプラットフォームを使う。同じ銘柄で異なるプラットフォームを採用するというのは、世界的に見ても極めてまれな判断である。「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の4タイプのうち、現時点ではセダンまでがデビューしている。今回登場するのはこのうちのスポーツで、スポーツにはRSと「Z」の2グレードしかなく、RSはプラグインハイブリッド、Zはハイブリッド。試乗車は前者のRSだった。
スポーツの主な特徴は、クロスオーバーよりもわざわざホイールベースを80mm詰めて全長も210mm短いボディーを有することと、DRSと呼ばれる後輪操舵機構を専用セッティングとしている点にある。クロスオーバーは「乗り心地と静粛性に重点を置いた」と試乗会で説明されたが(実際にはどちらもイマイチだった)、スポーツは説明を聞かずとも「曲がることに重点を置いた」ことがボディースペックと装備から容易に想像できる。スポーツは全幅もクロスオーバーより広いので(+40mm)、てっきり「トレッドまでわざわざ広げてスタビリティーの向上まで狙ったのか」と勘ぐったものの、よく調べたらトレッドは両車とも同値だった。単純にエクステリアデザインの違いから生じた差にすぎなかった。どうせやるなら、トレッドも広げて全高も下げる(=重心も下げる)くらいまでやってほしかったなと思ったが、実際に運転してみるとこれならそこまでやる必要はないなと納得させられた。
“よく曲がる”のはなぜか
クラウン スポーツの魅力は回頭性のよさにある。ステアリングを切ってからタイヤのコーナリングフォースが立ち上がって車体が向きを変え始めるまでの時間は、明らかにクロスオーバーよりも早い。その過渡領域においても唐突な姿勢変化はなく、制動でわずかにピッチ方向の動きが見られた後に続くロール方向の動きへのつながりがとてもスムーズだった。ステアリングゲインが高くていささかナーバスすぎるところまで(おそらく意図的に)もっていっていない点にも好感が持てる。安心して楽しめる範囲に収まっているセッティングだと思う。
コーナリング中の所作をさらに注意深く観察してみると、個人的にはショートホイールベース+後輪操舵の効果だけではないような気がした。例えばボディーの剛性感は特に腰よりも下の位置が高く、あとで調べてみたらセンタートンネルに補強を入れていることが分かった。前後アクスルへの影響が大きい部分のボディー剛性が上がればサスペンションはより正確に動くようになる。正確に動くようになればハンドリングも乗り心地も向上する。実際、スポーツの乗り心地は(ホイールベースが短いのに)クロスオーバーよりもずっとよかった(これには電子制御式ダンパー「AVS」の恩恵もある)。また、たまたま前後の駆動力配分を示すグラフィックを表示していたのだけれど、旋回中に駆動力を適度に後輪へ伝えることにより、後輪の操舵応答遅れを解消させているようにも感じられた。
つまりスポーツの操縦性はショートホイールベース/後輪操舵だけでなく、ボディー剛性の高さや4WDの駆動力配分、AVSのセッティングなどを加えた相乗効果によって成立しているのだろう。これらを構成する機械的部分のチューニングと制御の調整は、おそらくエンジニアがかなり走り込んで、このクルマにふさわしい最適解を探り当てたに違いない。
ライバルも強くなる
クラウン スポーツは4WDだが、前後輪がプロペラシャフトとデフでつながる機械式ではなく、後輪はモーターのみで駆動するいわゆる「E-Four」のパートタイム式である。2.5リッターの直列4気筒とモーターを組み合わせたTHS IIと組み合わされてシステム最高出力は306PSと公表されている。プラグインハイブリッドなので駆動用バッテリーの容量も大きく、満充電からのEV走行換算距離は90km、ハイブリッドとしての燃費は20.3km/リッターとのこと(いずれもWLTCモード)。車両重量はハイブリッドより220kgも重い2030kgで、この車重を考慮すれば力強い加速感はなかなか頼もしいし、20.3km/リッターの燃費も優秀といえる。プラグインハイブリッドだけど急速充電にも対応している点もうれしい。バッテリーを使い切ってしまうと、2t超えの車重を途端に意識するようになり、加速感も明らかに鈍ってくるからだ。
プラグインハイブリッドだけでなくハイブリッドでも、クラウン スポーツには給電システムが装備されている。どちらもガソリン満タン・消費電力400W/hで、AC100Vの消費電力1500W以下の電気製品が約6日は使えるという。最近は特に自然災害のニュースが多いだけに、ことさらこういう機能があるというのはいざという時の安心につながる。
従来のクラウンと異なるもうひとつの大きな点は、国内専用車種ではなくなるということ。世界の舞台でライバルと目されるつわものと戦わなければいけないわけで、ハンドリングやドライバリティーのつくり込みは必須だし、その点において少なくともスポーツはいい線までいっていると思う。いっぽうで、765万円といったら大層な高級車の車両本体価格である。例えば「BMW 3シリーズ」のプラグインハイブリッドである「330e Mスポーツ」(758万円)よりも高額だし、もし頑張ってあと100万円用意できれば「ポルシェ・マカン」に手が届く。内外装も含めて値段相応の静的・動的質感までもがクラウン スポーツに備わっているかと聞かれると、一切の迷いなく首を縦に振るのはちょっとまだ難しいかもしれない。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
トヨタ・クラウン スポーツRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1880×1570mm
ホイールベース:2770mm
車重:2040kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:177PS(130kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:219N・m(22.3kgf・m)/3600rpm
フロントモーター最高出力:182PS(134kW)
フロントモーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
リアモーター最高出力:54PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:306PS(225kW)
タイヤ:(前)235/45R21 97W/(後)235/45R21 97W(ミシュランeプライマシー)
ハイブリッド燃料消費率:20.3km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:90km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:90km(WLTCモード)
交流電力量消費率:165Wh/km(WLTCモード)
価格:765万円/テスト車=773万3600円
オプション装備:デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ロイヤルタイプ>(5万0600円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1730km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:280.4km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 慎太郎
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