トヨタ・クラウン スポーツZ(4WD/CVT)
もっとパワーを 2024.02.14 試乗記 「トヨタ・クラウン スポーツ」は、その名が示すとおりスポーツカーのような俊敏さが持ち味だ。たしかにワインディングロードでの走りにはキラリと光る部分があるが、もう少し刺激があってもいい。このあたりがやはりトヨタということなのかもしれない。クロスオーバーありきだった16代目
思い返せば、「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の4車種が顔をそろえて、16代目クラウンがお披露目されたのは2022年7月のこと。ただ、その直後(同9月)に発売されたのはクロスオーバーのみだった。
その次が今回の主役であるスポーツのハイブリッド(HEV)だが、その発売はクロスオーバーから1年以上遅れた2023年10月。続いてセダンが同11月、スポーツのプラグインハイブリッド(PHEV)が同12月に発売となった。また、最後のエステートも2024年中ごろ以降の発売予定というから、クロスオーバーだけが大幅に先行したカタチになっている。
そのあたりの背景については先日公開された「【徹底解説】新型トヨタ・クラウン セダン」にも書かせていただいたとおり、今回の新クラウンは、実用性や居住性などでセダンと同等以上の機能を満たしつつ、新たな魅力を追加したクロスオーバーのみで企画されたそうだ。さらなるインパクトと老若男女へのアピールのために、クラウンの一大ファミリー化=トヨタ内高級車ブランド化路線が考え出されたのは、クロスオーバーの開発がある程度進んでからだという。つまり、残る3車種は開発のスタートそのものが遅かったわけだ。
数あるクラウンのなかでクラウン スポーツの意図するところは、今をときめく欧州スーパースポーツブランド製SUVのイメージを、より手ごろに安心して楽しめるクルマだろうか。外観が「フェラーリ・プロサングエ」っぽいとの声も一部にあるが、発売年次からいって、似ていたとしても偶然というほかない。あるいは、同じようなコンセプトで有能なプロがデザインすると、似てしまうのが宿命か。ちなみに、プロサングエの実車を見たことがない筆者が、目前のクラウン スポーツから想起したのは「アストンマーティンDBX」だった。
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クロスオーバーよりも高めの価格設定
いずれにしても、クラウン スポーツのエクステリアは、フェラーリやアストンが頭をよぎるほど肉感的だ。とくにドアからリアフェンダーにかけての強烈な深絞りのプレスラインは、技術的にもすさまじく大変だったと察する。今回の試乗車では、左リアフェンダーとその上にある給油リッドパネルとのすき間が、トヨタらしからぬ大きさとズレだったところにも、生産管理のむずかしさがうかがえた。このあたりはユーザーにわたる量産版ではしっかりと修正が入っていると思われるが……。
とにかく低くて幅広く、そして肉感的なクラウン スポーツは、単独では大きく感じる。たしかに1880mmという全幅は日本の交通環境では少し気を使うシーンもあろうが、4720mmという全長は、国際的にいうとミドルクラスのDセグメントに相当する。実際のスリーサイズは、欧州車でいうと「ポルシェ・マカン(従来型)」や「BMW X3」に近く、これらと比較すると全高は低いが、幅はけっして広くない。トヨタでいうなら「ハリアー」より全幅は広いが、全長は短い。
今回試乗した2.5リッターハイブリッドは、ほかのクラウンでも売れ筋のエントリーパワートレインとして用意されるものだ。クラウン スポーツにもパワートレインは2種類あるが、どちらも装備グレードは1種類ずつ(HEVは「Z」、PHEVは「RS」)となる。2.5リッターHEVであることに加えて、4眼LEDヘッドランプや大径21インチタイヤ、本革シート、ドライブレコーダーなどが標準となる装備内容を考えると、先に販売されているクロスオーバーでは「G“アドバンスト・レザーパッケージ”」に相当する。この装備内容が同等の2つのクラウンの車両本体価格を比較すると、今回のスポーツの590万円は、クロスオーバー(570万円)より20万円高い。
クラウンの“ハンドリング王”
インテリアデザインもクロスオーバーと基本的に共通だが、内装色で今回のサンドブラウン(もしくはPHEV専用のレッド)を選ぶと、運転席まわりだけがブラック化する。この独特の色づかいはスポーツ専用で、スポーツカーブランド的なドライバーズカーというキャラクターを強調する意図がうかがえる。
ちなみに、後席は外から見るより余裕がある。広いとはいわないが、せまくもない。ルーフライニングが後席頭上をへこませた形状になっており、身長178cmの筆者でも最低限のヘッドルームは確保される。後席(や運転席)から助手席のスライドや背もたれを操作できるスイッチが備わるのも、クラウン スポーツには不似合いな気もするが、これはクロスオーバーと共通のフロントシートならではの副産物……というか置き土産。あると意外に便利ではある。
走りについては、とにかく体格に似合わぬタイト感が印象的だ。数あるクラウンでは間違いなく“ハンドリング王”だろう。ステアリングに遊びや遅れがまったくないのでは……と錯覚するほどで、操舵したぶんだけフロントが正確かつ即座に動く。いかにもスポーツカー的な雰囲気にひかれて試乗しても、それなりに琴線に触れるだけのものはある。
クロスオーバーと比較すると、このスポーツのホイールベースは80mm短く、全幅は逆に40mm広い。さらにタイヤも21インチというホイール径や「ミシュランeプライマシー」という銘柄はクロスオーバーと同じだが、10mm幅広い。こうしたディメンション設定にも、俊敏かつ高旋回性をもつハンドリングを強調したい意図が明確だ。さらに標準装備の後輪操舵「DRS」でも、「ノーマル」や「スポーツ」というドライブモードを問わず、低速域での逆位相はクロスオーバーより強め、高速域での同位相は逆に弱め……と、これまた速度域を問わずにクロスオーバーより回頭性を高めた専用制御になっている。
乗り味はヨーロピアンテイスト
コイルスプリング+固定減衰ダンパーというアナログなサスペンションで、これだけ俊敏なステアリング反応を実現しているのは、それなりに引き締まった調律だからだろう。実際、低速ではコツコツという突き上げが皆無ではない。また、ロールもあからさまに小さいので、スタビライザーのバネレートがそれなりに強力であることがうかがえる。
ただ、高速道に乗り入れて車速が80km/hほどに達すると、アシの動きが滑らかになり、目地段差のいなしの質もワンランク上がる。速度が上がるほどに適度な上下動で衝撃を吸収しつつ、フラットに変化していくストローク感は、ちょっと昔風にいえばヨーロピアンテイストといったところか。さらに、同じ高速道でも適度にゆるいコーナーが続く山間部に差しかかったときの、まるで見えないレールがあるかのようなライントレース性と、ドライバーの手やお尻に伝わる接地感はちょっとしたものだ。運転好きがクラウン スポーツの走りに惚れ込むとしたら、この瞬間がいちばん多いのではないか。
そんなクラウン スポーツはもちろん山坂道でもよく走るが、市街地でのタイト感や高速でのロードホールド性からすると、ちょっと薄味だ。ひとつには2.5リッターハイブリッドが非力とはいわないが、シャシーの余裕のほうがまだ上だからだろう。ディスプレイ上の駆動配分表示だと、舵角に応じてそれなりに積極的にリアモーターがトルクを提供しているようだ。しかし、基本的にはフロント優勢のパワートレインなので、自慢の旋回性能をさらに強化するような走りにはならない。上級のPHEVならさらにパワフルなのだろうが、リアモーターは今回のHEVと共通だ。
かなうことなら(クラウンでは現在クロスオーバーのみに用意される)高出力リアモーターをもつ2.4リッターターボハイブリッドを搭載したクラウン スポーツを、一度でいいから体験してみたいものだ。スペック的に後輪駆動ベースの高出力4WDと同等の旋回性能とはいかないだろうが、タイトなシャシーに“アクセルを踏んで曲がる”楽しみが加わったクラウン スポーツなら、欧州の名だたるスポーツカーブランドの筋金入りのファンにも、さらに一目置かれる存在になる気がする。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・クラウン スポーツZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1880×1565mm
ホイールベース:2770mm
車重:1820kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:186PS(137kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:221N・m(22.5kgf・m)/3600-5200rpm
フロントモーター最高出力:119.6PS(88kW)
フロントモーター最大トルク:202N・m(20.6kgf・m)
リアモーター最高出力:54.4PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:234PS(172kW)
タイヤ:(前)235/45R21 97W/(後)235/45R21 97W(ミシュランeプライマシー)
燃費:21.3km/リッター(WLTCモード)
価格:590万円/テスト車=609万9100円
オプション装備:ボディーカラー<ブラック×プレシャスホワイトパール>(9万9000円)/デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(6万7100円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1391km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:316.3km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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