あとからのボディー補強に“害”はある?
2024.05.07 あの多田哲哉のクルマQ&Aマイカーにボディー補強パーツの導入を考えています。特にスポーツモデルはこうしたブレース系アイテムが多いですし、なかには溶接の追加までしてボディー剛性を高めようとするマニアもいますよね。実際、「クルマのボディー剛性は高いほどいい」のでしょうか? 補強の仕方によっては改悪もあり得るのでしょうか?
正直に言って、今の衝突安全の基準をクリアしているクルマであれば「ボディー剛性が足りなくて走りがヘンだ」などということはありません。どこのメーカーのクルマでも、最近のボディーはしっかりしていて、本当によくできています。
ただ、競技で走るなら、車体の剛性はいくら高くても困るということはありません。特にサスペンションの取り付け部分など、路面からの入力を受けるところはそうですね。
入力といえば、ボディーには振動のようなものも伝わります。走りを乱す原因になるし乗り心地も悪くなりますから、その対策として、例えばヤマハの「パフォーマンスダンパー」みたいな「ボディーの補強をしつつ振動も吸収するパーツ」が用意されていて、長年にわたって売れていますね。
「そもそも、そんなものをつける必要がないようにボディーを設計すればいいじゃないか?」という意見もあるでしょうが、いくらボディー剛性を高めたところで、振動を完全に抑えるのは難しい。だから、パフォーマンスダンパーにはある程度の意味合いはあるのですが、ベストな成果を得るためにどこにつければいいのかという点に加え、ユーザーが何に困っていて何を改善したいのかという因果関係をクリアにするのが困難、という問題があります。
そのため、パフォーマンスダンパーに限らず、ちまたのユーザーによるさまざまなボディー補強のなかには、失礼ながらトンチンカンと思える方策もしばしば見られます。
ただ、純粋に走りに関していうなら、効果の大小はあるにせよ、ボディーを固めて性能的に改悪されるということは、あまりないと思います。どこかの剛性を上げれば、足まわりのチューニングをはじめ、全体のバランスを検討し直さないといけないという手間はありますが……。
マイナスがあるとすれば、安全面です。設計者が意図しない独自のボディー補強をしてしまったために、衝突したときの安全性能が損なわれるということはあり得る。その点は注意が必要ですね。
「競技をしないかぎりは、衝突安全の観点から余計なことはしないほうがいい」。それが結論になるかと思います。
→連載記事リスト「あの多田哲哉のクルマQ&A」

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。