MVアグスタ・スーパーヴェローチェ98エディツィオーネ リミタータ(6MT)/インディアンFTR×RSDスーパーフーリガン(6MT)/トライアンフ・デイトナ660(6MT)
より美しく より速く! 2024.05.05 JAIA輸入二輪車試乗会2024 世界限定300台の「MVアグスタ・スーパーヴェローチェ98エディツィオーネ リミタータ」に、アメリカのレース魂を象徴する特別な「インディアンFTR」、そしてトライアンフ最新の「デイトナ660」。JAIA合同試乗会より、“三車三様”のスポーツモデルの走りを報告する。究極のイタリアンビューティー
MVアグスタ・スーパーヴェローチェ98エディツィオーネ リミタータ(その1)
イタリア語の車名が発する香りみたいなものにドキドキした最初の経験はたしか、「ランチア・デルタHFインテグラーレ エヴォルツィオーネ」だったかな。イタ車のスタイリッシュさとネーミングのカッコよさは比例しているような気がする。そして目の前にはMVアグスタ・スーパーヴェローチェ98エディツィオーネ リミタータ。長いネーミングは豊満すぎてFカップな感じではあるけれど、なるほど、なまめかしい実車は目が覚めるほどにリッチな色気を発していてムンムン(死語)だ。
このスーパーヴェローチェ98は、81年前の1943年にデビューしたMVアグスタのファーストモデル「MV98」(排気量98cc)へのオマージュを精神的なコンセプトにした、世界300台の限定モデル……という触れ込みだ。初見での印象がことさら強い外装ペイントは「ロッソ・ベルゲラ」と呼ばれており、MV98に施されていた紅色のカラーにルーツがあるという。
うーん、エロカッコいいぞ! こんな自分が股間に収めてもいいものかどうか迷うくらい、隙なくディテールまで美しい。小ぶりな丸目一灯のロケットカウル、そのフォルムは絶妙なさじ加減で直線基調、ホワイトストライプをカウルの縦に入れるセンスにも感心する。ちょっと知ったライダーなら誰しも目がくぎ付けとなる、前後17インチの星型スポークホイールの強いアピアランスにもグッとくる。そういえばフルカウルのネオクラマシンって、意外にない気がするな。
究極のイタリアンビューティー
MVアグスタ・スーパーヴェローチェ98エディツィオーネ リミタータ(その2)
排気量は798ccでシリンダーは3つ。最高速度の240km/hはさておき乾燥重量はわずか173kg。水冷並列DOHCエンジンはボア×ストロークが79×54.3mmでショートストロークの部類となる。エンジンを始動させるとヴォーンッ! とノイズ混じりの咆哮(ほうこう)。2気筒でも4気筒でもない、3気筒ならではの荒っぽさとスムーズネスが同居していてスカッとする。
ますます、乗ってどうこう言うのがやぼなバイクな気がしてきたが、それは百も承知でいくつか感想を。かなり低い位置にレイアウトされているように見えるハンドルだったが、意外にも実際にはそれほど苦しくなくホッとひと安心。ニーグリップは特にしやすくはないが、それはささいなことだろう。798ccトリプルが出力する147PSは低速でもそこそこ扱いやすいものの、Uターンは2速ではなく1速で行ったほうが適切だった。そしてスーパーヴェローチェ98の本領は、ロースピードよりも中~高速域にあることをすぐに知る。すべてを欲張るオールラウンダーではないのは言わずもがな、カッコよければそれでよしの潔さが爪の先まで行き渡っている。
アイデアとデザインが車体の随所にちりばめられているスーパーヴェローチェ98。言い方がナンだけど、そのデザインオタクっぷりが誠にすがすがしい。この紅のマシンが自宅の広々としたガレージに収まっている様を、目をつむって静かに妄想してみる。……ああ、だんだんと見えてきた。イイじゃない、ステキじゃない! なんだかパワーが全身にみなぎってきたよ。一年に数回でいい。スーパーヴェローチェ98で深夜の首都高環状線を一周すれば、「オレはまだまだイケてる」の自信が維持できそうだ。エンジンもバッテリーも、(いまのところは)ビンビンだぜ!
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
気分はエディか、フレディか
インディアンFTR×RSDスーパーフーリガン
撮影ポイントに車両を移した段階でもう、私も、Kカメラマンも、すっかりメロメロだった。安直な表現で申し訳ないが、この「インディアンFTR×RSDスーパーフーリガン」、むちゃくちゃカッコイイのだ(詳しい写真はこちらをどうぞ)。
しかしてその正体は? というと、アメリカで開催されるロードレース「AMAスーパーフーリガンナショナルチャンピオンシップ」のレーサーレプリカである。厳密にはちがうっぽいが、細かい話はどうでもいい。だってこのグラフィックよ? そのままレースに出ていたって全然違和感がないぐらい、完璧だ。その出自とアメリカンレーサーならではの荒々しい趣には、かつてフレディ・スペンサーの「CB750F」やエディ・ローソンの「Z1000」にシビれた諸先輩方も、心にくるものがあるのではないか。
加えて、ローランド・サンズ・デザイン(RSD)の削り出し部品もいちいちグっとくるし、そもそもFTRというバイク自体(というかこれはインディアンの機種全般に言えることだけど)、たたずまいも装飾も、フレームの溶接までもが本当に美しい。
このままバイクを眺めてKカメラマンと語らいたいところだが、それではインプレにならんので「ええと、失礼しますよ」とまたがる。ベースとなるのはFTRの上級グレード「Rカーボン」。ステップの位置が後ろ寄りとなり、アクラポヴィッチのマフラーが標準で装備される以外は、“走り”については同じのはずだ。しかしすでに、かなり気分は前のめりである。
スロットルを開ければ、過去の取材の記憶が思い出される(これもこれもこれもこれも、私がバイクを運んだんですよ)。プロフェッショナルな批評は諸先生方に任せるとして、ズブの素人である当方の所見を述べると、このバイク、実に手ごわい。車重は237kgもあるのにハンドリングは曲がりたがりで、デカいのに結構硬派なスポーツバイクだ。加えて1.2リッターVツインエンジンの豪快なトルクよ。私ごときの走りでは、パワーを絞った「レイン」モードでもおつりがくるほどマッチョである。足つきの悪さや、低回転域で一段カツが入るエンジン特性もあって取り回しは大変だけど、乗車時間あたりの満足度、「バイク乗ってるゼ」感がここまで濃いマシンは、なかなかないだろう。
それにしても、これだけ盛ってベース車との価格差がたったの27万円って、大丈夫か? スタッフさんは「アクラポヴィッチのマフラーとか、部品代だけで元が取れちゃいますよ」と笑っていたけど……。ポラリスジャパンの金銭感覚が心配である。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
真摯でマジメなスポーツツアラー
トライアンフ・デイトナ660
トライアンフの公式サイトには「新たなレーサーの誕生」なんて大書きしてある。たしかに見た目はだいぶレーシーな外観だけど、個人的にはスポーツツアラーの範疇(はんちゅう)にあるバイクなのでは? と思った次第。ごく短い試乗時間とはいえ、これが新型デイトナ660(参照)への素直な感想だった。本来的なスポーツ性能の高さはしっかり感じるけれど、かつての「デイトナ675」(2016年に生産終了)とは明らかに何かが異なる。スーパースポーツマシンだけが持つシリアスな雰囲気とは別種のスタンスがそこにある。
デイトナ660の骨格であるチューブラースチールペリメーターフレームの真ん中には、水冷並列3気筒DOHCエンジンが収まっている。これまで「トライデント」や「タイガースポーツ」などでトライアンフが熟成させてきたスタンダードなパワーユニットで、出力はそれら2台より14PSアップの95PSを与えられた。さらに最大トルクの69N・mは、3125rpmの低回転からその80%以上をサプライするという。トランスミッションはスリップアシストクラッチ付きの6段MTだ。
ライディングポジションはそれほど前傾がキツくなく、ステップもさりげなく後方へオフセットされているのみ。身長172cmの自分としても足つきは悪くない。目の前のメーター類やフロントスクリーンは比較的コンパクトで、スロットルレスポンスもほどよくシャープゆえ、同門の「ストリートトリプル765」ほどせかされる感じもなし。ブレーキフィールもハンドリングもナチュラル傾向となっており、端々でマシンの素性のよさが体感できる。電子制御スロットルによる3つのライディングモード(スポーツ/ロード/レイン)に加えて、スロットルレスポンスとトラクションコントロールの設定も走行環境に合わせ最適化されるという。うーん、走りの装備は盤石じゃないか。
さて。ここまでいつになくシリアスに書いてしまったが、そりゃもうひとえにデイトナ660が“マジメ”なバイクであればこそ。オーソドックスなフルカウルスタイリング、どの回転域でも扱いやすいパワーカーブ、プライスボードに掲げられた108万5000円。どれもこれも、トライアンフがライダーと真摯(しんし)に向き合った結果だろう。「これがイギリス流の折り目正しさか!」と感心してしまった。ハードすぎないサスペンションのセットを鑑みるに、新しいデイトナ660は速度レンジちょい高めのツーリングにピッタリだ。小さなテールの積載性はきっとイマイチだけど、気にしない気にしない。ビュン! と行って帰っての日帰りツーリングがデイトナ660にはよく似合う。
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
MVアグスタ・スーパーヴェローチェ98エディツィオーネ リミタータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2015×760×--mm
ホイールベース:1380mm
シート高:830mm
重量:173kg(乾燥重量)
エンジン:798cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:147PS(108kW)/1万3000rpm
最大トルク:88N・m(8.98kgf・m)/1万0100rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:419万円
インディアンFTR×RSDスーパーフーリガン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1525mm
シート高:805mm
重量:237kg
エンジン:1203cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:123HP/--rpm(米国仕様参考値)
最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/6000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:325万円
トライアンフ・デイトナ660
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×736×1145.2mm
ホイールベース:1425.6mm
シート高:810mm
重量:201kg
エンジン:660cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:95PS(70kW)/1万1250rpm
最大トルク:69N・m(7.0kgf・m)/8250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:108万5000円

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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