交通事故はなくせるか?

2024.06.11 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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交通事故ゼロは誰もが望むものと思いますが、減ってはいてもなくならない、というのが現実と思います。多田さんは、交通事故やそれによる死傷者の発生が根絶できると考えますか? 結局、自動運転のテクノロジー次第でしょうか。

交通事故の被害者・死傷者は確かに減りました。とはいえ、自動車のテクノロジーだけでなくせるとは思えないですね。

この件については、いつになっても“ドライバーのモラル”のような部分が重要ですし、どこまで取り締まりを厳しくしても抑えきれないところがあります。

ならばモラルを向上させようという話になりますが、それも限りがあるし、人間ですからうっかりしたミスはある。根絶というのは、私たちが生きている間には難しいかもしれません。

クルマ単体でのテクノロジーによる地上の「事故ゼロ」は難しく、自動運転技術を含め、クルマの事故をゼロにするのをサポートできる“インフラ”が整わないことには実現できません。そして後者は、クルマのテクノロジー以上に困難な課題となっています。

もっというと、仮にそのインフラが整うとして、それ以前の、インフラに対応できない車両はどうするのかという問題が残ります。

「今のクルマをいったんすべて廃車にして、すべて自動運転に移行します」というなら別ですが、現実的に、世の中のすべてのクルマを事故回避システムに対応できるようにするのは、気が遠くなるほど先の未来になってしまいます。

一方で空に目を向けると、地上に比べてみれば、まだまだ飛んでいるモノの数は知れています。インフラも飛行機に関するものしかありません。

機体単体の自動運転的な技術に関していえば、さほど高価でないドローンでも上下左右にセンサーやカメラが付いていて、素人が操縦しても基本的にぶつからず、GPSを駆使して元の場所にもどってこられるようになっています。まさに自動運転の基礎的なところはできているわけです。

いま自動車業界で必死に取り組んでいるEVのバッテリー開発などについても、画期的なものができた際に、その恩恵を受けて一気に発達するのは「空飛ぶクルマ」だと思うんです。

これらのレベルがはるかに上がり、ドローンで培った自動航行技術が生かせるとなると、陸での無事故を目指すよりも、個人用のドローンで飛んだほうがいいということになりかねない。むしろ、今から議論を積み重ねて既存のモラルやルールと共存する必要があまりないだけに、こちらのほうが現実的じゃないかと思えるのです。

イメージとしては、自宅の庭や公園から飛んで、行きたいところの近くに着陸したら、ラストワンマイルの移動ツールを使って目的地に行く、みたいな……。わが家は山の中だから、早くそうなったらいいのにな、と思います。過疎の問題も解決するし(笑)。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。