インディアン・スカウト クラシック リミテッド+テック(6MT)/101スカウト(6MT)
古い定義は通用しない 2024.07.27 試乗記 インディアンの基幹モデル「スカウト」がついにフルモデルチェンジ。約10年ぶりに登場した新型は、パワフルで扱いやすく、しかもスポーティーにも走らせられるという、クルーザーの常識を覆すマシンとなっていた。名門が世に問うた力作の走りをリポートする。“走り”が自慢だった初代の魅力を再定義
スチールとアルミを適所に用いた新開発のフレームに、排気量が10%大きくなった「スピードプラス」エンジンと、あらゆる部位が従来モデルから進化を遂げたインディアンの新型スカウトシリーズ。今や1250ccもの排気量を持つこのシリーズだが、それでもインディアンのラインナップでは、ミドルクラスに位置づけられるモデルである。
そもそも1920年発売の初代スカウトは、「パワフルで速い」がうたい文句で、当時はレースにも参戦するようなスポーツモデルだった。10年ぶりに刷新された新型スカウトシリーズもまた、コーナリングも含めて走る喜びを感じられる、スポーツ性を楽しめるモデルとなっている。まさに初代のキャラクターを盛り込んだかのようなリニューアルとなっていて、試乗してみると、近年のまるで“大きくて重い”がアイデンティティーになってしまったかのような他のクルーザーとは一線を画すモデルであることを、走りだした直後に確信した。
またがった瞬間に感じたのは、身長160cmの筆者にとっても気負う必要がない足つきのよさと、車重の軽さだ。クルーザースタイルのフォルムによる680mmの低いシート高と、スポーツツアラーにも匹敵する250kg前後に抑えられた車重は、サイドスタンド状態から直立させる動作や取り回しの際に、ライダーに負担を感じさせない。今回、最初に試乗した「スカウト クラシック」は、ハンドルがシリーズのなかで一番ライダーに近い位置に設定されており、後ろすぎないシートとの位置関係も相まって、筆者の身長でも自然なライディングポジションをとることができた。
![]() |
![]() |
![]() |
パワフルでトルクフル、しかも扱いやすい
排気量アップによるパワーとトルクの増大も新型スカウトのトピックだが、存外に扱いやすいリニアリティーも持ち合わせている。もちろん、これはエンジンをコントロールする電子制御の熟成によるものだが、それ以上に驚かされたのは、6段トランスミッションのギアレシオの妙だった。
Vツインエンジンでトルクが増したとなると、低速域ではそれがむしろ扱いにくさにつながるマシンもあるが、スカウト クラシックは、ともすれば2速のまま低速から高速走行域まで、まるでオートマチック車のように走れてしまうほど柔軟なのだ。ショートストロークで高回転域まで滑らかに吹け上がるエンジンは、2・3速で回転数を上げて走るもよし、5・6速までシフトアップしてツインの鼓動を楽しむもよし。単に十分以上のパワーとトルクを持ち合わせているだけでなく、それをしっかり生かした走りを実現している。
こうしたパワートレインの性能に加えて、操る楽しさを生み出す足まわりもまた、新型スカウト独自のスポーツ性を感じさせる部分だ。ステップが“フォワードコントロール”か“ミッドコントロール”に位置するスカウトでは(試乗車は後者だった)、筆者の体格だとステップワークを利用した体重移動はほぼ望めなかったが、全体的な重心バランスの秀逸さからだろう、ことさら腕で操舵しようとしなくても、シート上でのわずかな腰の動きだけで、自然に曲がっていこうとハンドルが反応する。試乗日はあいにくの雨模様だったが、発進時や白線を踏んだときに自然に介入するトラクションコントロールシステムもまた、ライダーに安心感を与えてくれた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
新時代のスタンダードモデル
次に試乗した「101スカウト」は、最高出力111HPと新型スカウトシリーズのなかでもより高いエンジンパワーを発生し、倒立フォークやフルアジャスタブルのリアサスペンションを搭載したモデルだ。これによって高められたスポーツ性こそ魅力のはずだが、意外にも101スカウトの面白さは、アイドリング時や発進停止の極低速時に感じた。
というのも、サスペンションがより動くようになっていることで、Vツインエンジンの鼓動が車体全体に広がり、増幅されているのだ。101スカウトだけがまるで別のエンジンを積んでいるように感じるほど、足まわりが“違い”をつくり出していた。
いっぽうスカウト クラシックは、アイドリング時にはエンジンからの振動をほとんど感じず、すなわちライダーにとっての不快な共振を逃がす車体構成になっていると思われた。鼓動感はアクセルを開けたとき、膝元あたりのバイブレーションとサイレンサーからの音圧として感じられる。この調律は、長距離ツーリングなどで疲労を軽減させることにつながるのではないだろうか。
どちらのモデルも、現代のモーターサイクルの定義ではクルーザーに分類されるフォルムをしているが、パワフルで速くて、スポーティーにも楽しめるその走りは、むしろビッグツインの新たなるスタンダードモデルとなることを予感させた。日常使いから長距離ツーリングまで、バイクを乗り倒したいライダーにこそお薦めしたい。
(文=小林ゆき/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
インディアン・スカウト クラシック リミテッド+テック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2318×916×1096mm
ホイールベース:1562mm
シート高:680mm
重量:252kg
エンジン:1250cc水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:105HP(79kW)/6300rpm
最大トルク:108N・m(11.0kgf・m)
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:228万5000円
![]() |
インディアン101スカウト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2206×956×1155mm
ホイールベース:1562mm
シート高:680mm
重量:249kg
エンジン:1250cc水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:111HP(82kW)/6300rpm
最大トルク:109N・m(11.1kgf・m)
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:268万円
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆完全新設計のアメリカンクルーザー 新型「インディアン・スカウト」登場
◆インディアン101スカウト(6MT)【海外試乗記】

小林 ゆき
専門誌への寄稿をはじめ、安全運転セミナーでの講習やYouTubeへの出演など、多方面で活躍するモーターサイクルジャーナリスト。ロングツーリングからロードレースまで守備範囲は広く、特にマン島TTレースの取材は1996年から続けるライフワークとなっている。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。