インディアン101スカウト(6MT)
次のコーナーが待ち遠しい 2024.06.02 試乗記 アメリカンモーターサイクルの名門、インディアンの中核モデル「スカウト」シリーズが、いよいよフルモデルチェンジ。ワインディングも楽しめる“走りのクルーザー”のなかから、最上級モデル「101(ワンオーワン)スカウト」に試乗した。なにもかもが新しい
クルーザーでスポーツするって、なんて爽快なんだ。インディアン・モーターサイクル(以下インディアン)の新型車、101スカウトに乗ると、そう感じる。1年ほど前、同じくインディアンの“スポーツできるクルーザー”こと「スポーツチーフ」に試乗したときは“痛快”と紹介した。爽快と痛快は違う。もちろんエンジンも車体構成も違う両車なので違って当たり前だが、101スカウトは“爽快”だったのだ。
新型スカウトシリーズは、前後16インチホイールを採用する「スカウト ボバー」「スカウト クラシック」「スーパースカウト」の3モデルと、フロント19インチ/リア16インチホイールの「スポーツスカウト」「101スカウト」の2モデル、合計5モデルで構成されている。すべてのモデルが、同じエンジン、同じフレームを採用しており、前後ホイールサイズやサスペンション、外装類や装備品、ハンドルポジションなどを変更して、キャラクターをつくり上げている。
エンジンは「SpeedPlus(スピードプラス)」と名づけられた新型で、ボアを広げて排気量を1133ccから1250ccに拡大。外観はもちろん、大径バルブを採用したシリンダーヘッドまわりやクラッチまわりなど、構成パーツの8割を一新し、出力もトルクも全域で10%以上も向上している。ピーク値については、実に最高出力で17%、最大トルクで14%のアップだ。また車両骨格はアルミフレームからスチールチューブフレームに変更。スイングアームピボットまわりやリアフェンダー内に隠れているリアフレームは、アルミキャスティングで製作している。
そんな新しいスカウトのなかでも101スカウトは、ECUのセッティング変更によりエンジンの最高出力を105HPから111HPへと向上。さらに調整機構付き倒立フォークやリアショックユニット、ダブルでセットしたブレンボ製フロントブレーキシステム、その他専用装備を採用したトップモデルである。
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新技術を盛り込んだ“スポーツモデル”という来歴
そもそも、スカウトというモデル名は1920年に初登場。すでに1000ccのVツインエンジンを搭載した「パワープラス」がラインナップされていた時代(のちに1000ccツインはチーフへと発展する)に、606cc(のちに745ccに排気量アップ)のVツインエンジンを搭載したスポーツモデルであり、その後も新技術がドンドン投入されていった。2011年にインディアンが米ポラリス傘下で再スタートしてからも、2013年に登場した「チーフ クラシック」が空冷OHVエンジンにスチールフレームというオーソドックスな車両構成であったのに対し、2014年にデビューした新生スカウトは、水冷DOHCエンジンにアルミフレームというモダンな車両構成であった。それも、スカウトというモデルの出自にのっとったものだったのだ。
したがって、新型スカウトシリーズに採用された新エンジンやスチール&アルミキャスティングのハイブリッドフレームにも、インディアンのチャレンジが詰まっていることは容易に想像できる。加えて101スカウトといえば、1928年からわずか3年間のみ生産された当時の高性能モデルである。それをスカウトシリーズがフルモデルチェンジされたこのタイミングで、満を持してラインナップに加えたわけだから、そこに込められた思いやパフォーマンスへのこだわりは、相当なモノだろう。
話をインプレッションに戻すと、その101スカウトが「爽快だった」理由は、やはりエンジンとシャシーのバランスのよさにある。新開発のスピードプラスエンジンは、排気量の増大と燃焼効率の改善によってパワーアップを果たしているのだが、それよりなにより、とにかく振動が小さく、3000rpmからの回転上昇の鋭さと伸びやかさが気持ちいい。Vツインってこんなに滑らかで、高回転までストレスなく回るんだっけ? と思うほどだ。スロットルをわずかに開けたところからシリンダー内の爆発を荒々しくリアタイヤに伝えるような、チーフシリーズの「サンダーストローク111」エンジンとは別物だ。
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ワインディングが楽しくて仕方ない
また240kgという車重は決して軽いわけではないが、走らせるとその数字を忘れてしまうほど軽快だ。今回の先導ライダーはかなりヤンチャな走りをするヤツで、アメリカンクルーザーの試乗会とは思えないスピードでタイトなワインディングロードを爆走したが、そんなペースが楽しいと思えるほど、101スカウトはよく走った。
そのパフォーマンスは、他のスカウトモデルよりパワーアップしたエンジンや、インナーチューブ径を拡大してストローク量を増やしたフルアジャスタブル倒立フォーク、同じくアジャスター機能が付いたリアショック、さらにはブレンボ製のダブルディスクによるところが大きいのだが、なにより、それらの高性能パーツをしっかりワークさせられる、新型フレームが素晴らしいのだ。とがった要素に頼るのではなく、総合力でハイパフォーマンスを求めているところも、他のインディアンのビッグツアラーとは違う、(彼らのなかでは)中間排気量モデルである新型スカウトシリーズならではのキャラクターなのだろう。
そしてなにより、そんな走りのクルーザーを、6インチライザーを備えた流行(はや)りの“クラブスタイル”のライディングポジションで乗るのだ。トップブリッジから6インチも高いバーハンドル越しにコーナーを見てバイクを操る感覚には、やはり他のスポーツモデルにもツーリングモデルにもない、独自の爽快さがある。
この101スカウトは、本国アメリカでは1万6999ドル(1ドル156円換算で約266万円。これが日本での販売価格ではないが……)というプライスタグが付いている。国内での販売時期や販売価格はまだ発表されていないが、間もなく詳細が発表されるに違いない。その詳細を聞くのはもちろんだが、101スカウトで日本のワインディングを走るのが、いまから楽しみである。
(文=河野正士/写真=インディアン・モーターサイクル/衣装協力=クシタニ、アルパインスターズ/編集=堀田剛資)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2206×--×--mm
ホイールベース:1562mm
シート高:654mm
重量:240kg
エンジン:1250cc水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:111HP(82kW)/7250rpm
最大トルク:109N・m(11.1kgf・m)/6300rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:--円

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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