ホンダ・フィットRS(FF/6MT)【試乗記】
みんなの「RS」 2010.11.15 試乗記 ホンダ・フィットRS(FF/6MT)……178万2000円
マイナーチェンジで、顔立ちがガラリと変わった「フィットRS」。その走りっぷりや乗り心地をリポートする。
間口の広い6MT
ホンダはハイブリッドのスポーツカー「CR-Z」を登場させたときに、「MT好きの顧客はまだ確実に潜在する」と手応えを感じたようだ。「フィット」のMT仕様はこれまでも存在したが、さらなるMTユーザーを獲得しようとフィットの上級グレード「RS」をより魅力的に磨きあげた。
まず最初に、改良されたギアボックス、6段MTについて考察してみよう。1.3リッターモデルの5段MTをもとに、1、2、3速の下3段をより低く、上の4、5速を高くし、さらにその上に6速を足して、ギア比そのものを見直した。ステップアップ比は1.85―1.51―1.30―1.17―1.11となる。グラフでみると、いくぶん広範囲に分散され使いやすくなったように見える。
実際に乗ってみると、これはいわゆるクロスレシオではないし、トップギアで「100km/hのときに3000rpm」は回り過ぎ。6段あるのだから、トップギアはもっと燃費を考えてもいい……と、われわれシニア世代は思う。「RS」とはいうものの、サーキット専用ではないし、これでラリーをやるわけでもない。結局は実用車のユーザーが対象だ。単にATではなくMTという、MT初心者向けの設定なのだろうと納得する。
今時のエンジンはトルクバンドも広く、ピーキーではない。絶対的なパワー/トルクも十分に確保されている。だから50km/hも出ていれば6速で走れてしまう。トップギアを多用する人にとっては、レスポンスを考慮するとこれでいいのだろう。高速巡航時の燃費の良しあしは、エンジンの基本性能による。
リミッターに当たる最高速度は、4速でも5速でも出そうだ。峠で速いクルマに追いつかれたとしても、セカンドでいっぱいに回せば、70km/hほどには伸びる。
高速道路の上り坂での追い越しを考えても、サードで130km/hまで引っ張れれば、瞬時の役にもたつし、広範囲をカバーする。
シートは質で勝負せよ
パワーが限られていた昔のクルマは、その非力さをギアボックスで補う必要があったから、われわれ世代は「もっとセカンドでパンチがあった方がいい」とか、「峠道で2-3速の往復を楽しみたい」などと思ってしまうのだが、それはもう古い考えなのだろう。コクコクと手首の動きで短く決まるシフトのフィーリングや軽い踏力のクラッチ等々、MTの楽しみはむしろそちらにあるというわけだ。
それでもへらず口を叩くとすれば、坂道発進を助けるヒルホールド機構くらいは、初心者でなくともあれば便利だろう。
他のフィット・ファミリーとは一線を画す装備の数々は写真でご覧いただくとして、なかでも派手な色の表皮が与えられたシートに関しては、一言。サイズや見た目のデザインは、スポーティグレードの「RS」としてはマズマズながら、標準車と同じと思われるクッションの硬さの配分やクッションストローク、そして形状は再考の余地がある。
まず、座った時に体に接触する面積が少ない。もっとピッタリ接触面積が増えるような“フィット”感、包み込まれる感覚が欲しい。体重を受け止める面圧が分散されるから、局部的な疲れはいまより少なくなるはずだ。現状では腰とお尻が部分的に痛くなってくる。座面の形状のせいもあり、次第にお尻が前にずれてきて頻繁に座り直さなければならない。いいシートというのは、一度納まれば座り直す必要がないものだ。
このふたつはやや気になる点ではあるけれど、基本的にフィットRSは乗って面白いクルマだ。
一般道では、各ギアで目一杯引っ張るような状況はないだろう。「回転数の幅を限定して、速度変化はギアポジションで選ぶ」というような乗り方をすれば、頻繁なギアチェンジの繰り返しも面白いし、時流に合った省燃費運転も可能だ。機械任せのハイブリッドシステムも有意義ではあるが、自分の運転法で省燃費を心掛けたい人にとって、この6段MT仕様のRSは絶好の1台。ATに乗ると眠くなってしまう人にとっても、アクセルペダルとブレーキペダルを踏み間違えそうな人にも、両手両足をちゃんと動かした方がいいシニアドライバーにも(?)、このRSは有効な選択肢のひとつといえる。
楽しい実用車
スプリングやダンパーについては、RSといえども不用意に固められてはいない。ラフな路面ではややあおるところもあるが、概して乗り心地はフラットで無駄な動きが少ない。フロントの左右サイドフレームを結ぶパフォーマンスロッドも、ボディの剛性アップに貢献しているようで、185/55R16のワンランク太いタイヤの動きを効果的に生かす。また、軽さが取りえで路面フィールに欠けがちなパワーステアリングの操舵(そうだ)感も、RSではまずまずの手応えに設定されている。
ディーラーオプションのナビゲーションシステムについては、あまりいい印象はない。液晶画面は大きいのだが、細かな文字や記号が常時ゴチャゴチャ周囲に点在するのは情報として邪魔でしかない。ナビは道案内が第一義でなければならないと思う。
フィットは全長4mを切る小型車ながら、室内は広々としている。リアシートを畳めばライトバンも顔負けの積載スペースが出現する。だから実用車本来の多用途性が享受できるし、今回は“このRS”の登場でスポーツ性も強まった。
「フィット」シリーズの中ではハイブリッドモデルが注目の的ではあろうが、10・15モード燃費の数字はATで有利なように計測パターンが設定されている。RSだって、実際の路上燃費の良さでは決して負けていない。今回の試乗では東京・横浜の首都圏だけしか走らなかったが、255km(うち高速道路30km)の総平均で11.5km/リッター(ドライブコンピューター上では12.4km/リッター)だった。
以前乗ったハイブリッドの「CR-Z」は、アイドルストップが頻繁に作動しても、首都圏では二けたに届かなかった。燃費だけのクルマ選びはほどほどにして、クルマの持つ魅力のひとつである、ドライビングの楽しみを満たすクルマ選びも大切。「フィットハイブリッド」より10万円だけしか高くないRSの登場は、これを考え直すチャンスかもしれない。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
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