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バッテリーも半導体も九州がアツい! 灼熱の「モビリティーアイランド」が秘めた可能性

2024.09.20 デイリーコラム 林 愛子
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トヨタと日産が新たな電池工場の計画を発表

自動車産業の盛んな地域と聞いて、どこを思い浮かべるだろうか? 都道府県別では愛知県、静岡県、神奈川県などが上位に入るのだろうが、地域としては山陽や阪神、北関東も忘れてはならない。加えて、東日本大震災のあとに車両生産に影響が出たことで、東北もまた自動車産業に欠かせない地域であることが広く知られることとなった。

そしてもう1カ所、忘れてはならないのが九州だ。

九州は「カーアイランド」と呼ばれるほど、地域をあげて自動車産業に力を入れている。2024年9月6日にはトヨタ自動車が、次世代電池の生産を行う新工場を福岡県の苅田港新松山臨海工業団地内に建設することを発表。同時に日産自動車も、車載用蓄電池の開発・量産を担う新工場を福岡県内に建設予定であることを明らかにした。いずれも福岡県の「北部九州自動車産業グリーン先進拠点プロジェクト」の一環であり、福岡県もプレスリリースを発行している。

トヨタは次世代電池として、普及版・パフォーマンス版・ハイパフォーマンス版の3種と、さらに全固体電池の開発に取り組んでいる。新工場では完全子会社のプライムアースEVエナジー(2024年10月1日にトヨタバッテリーに社名変更)とともに、パフォーマンス版の電池を生産する計画だ。一方、日産が新工場で手がけるのはレアメタル不使用のLFP電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)で、開発中のNCM(三元系)リチウムイオン電池の進化版や全固体電池とは異なり、コスト削減がひとつのミッションだという。両社とも2028年から本格的な生産体制に入ることを目指す。

これらの計画は、経済産業省の「蓄電池に係る供給確保計画」の認定を受けたものだ。経産省は今般12件の計画を認定し、総額約1兆円の国内投資に対して最大約3500億円の助成を行う予定だ。自動車メーカーではスバルとマツダもパナソニックエナジーとの協業計画で認定を受けており、今後の動向が気になるところである。

福岡・苅田港の工業地帯。手前には、九州が「カーアイランド」化する契機となった、日産自動車九州の工場が見える。奥の鳥越町にはトヨタ自動車九州が工場を構えており、トヨタではその近隣である新松山地区に電池工場を新設する予定だ。
福岡・苅田港の工業地帯。手前には、九州が「カーアイランド」化する契機となった、日産自動車九州の工場が見える。奥の鳥越町にはトヨタ自動車九州が工場を構えており、トヨタではその近隣である新松山地区に電池工場を新設する予定だ。拡大

電池と半導体で目指すは「モビリティーアイランド」

話を九州に戻そう。もともと九州はエネルギー関連産業と親和性が高い。福岡、佐賀、長崎には炭鉱が点在し、明治時代には官営製鉄所が置かれるなどして日本の近代化を支えてきた。いっぽうで、高度経済成長期には工業化の代償として、公害に悩まされることとなる。それゆえに環境問題への関心も高く、1997年の「北九州エコタウン」事業の開始や、2004年の「福岡水素エネルギー戦略会議」(当時)の設立など、産官学連携の取り組みが多くなされてきた。

自動車産業でいえば、大きな転換点は1970年代に日産自動車が福岡県に進出したことだろう。当地は労働力確保や自治体の受け入れ態勢などの面で、利点が多かったのだ。またアジアとの交易に適した港湾もあることから、その後にトヨタやダイハツなども工場を相次いで開設し、あわせて部品メーカーも多数進出した。

それが今日のカーアイランドにつながったわけだが、昨今は「シリコンアイランド」という看板のほうが、目にする機会が多いかもしれない。シリコンアイランドとは、1980年代に半導体企業の進出が増えたことから生まれた呼称だ。一時は下火となったが、半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県への進出を決めたころから、ふたたび脚光を浴びる。TSMCの工場周辺では、本格稼働の前から時給相場が跳ね上がるなどの現象が起きて話題を集めた。TSMC以外でも、荏原製作所、東京エレクトロン、ルネサス、ソニー、京セラ、ロームなどが、グループ会社も含めて九州に拠点を設けており、まさに半導体バブルの様相だ。

半導体はいまや自動車産業にとってもなくてはならない存在であり、これからのモビリティーの進化を左右するほどの最重要部品のひとつだ。半導体と電池の両産業が九州に集結することは、モビリティーの研究開発にも生産にも好影響ではないだろうか。加えて九州は、東京圏からも関西圏からも遠く、独自の文化や商流が発展してきた地であり、最初からアジアをターゲットに事業開発をするベンチャー企業も珍しくないという。そんな、ある種の自由度が保たれている地域ならではの発想に期待したいところだ。

ただ、これらはまだ可能性の話だ。各産業・企業の間で期待するほどのシナジーは生まれないかもしれないし、そもそも国内の建設リソースが不足するなか、大規模な施設の建設が想定どおりに進む保証もない。工場の本格稼働開始時期がずれ込むことも考えられるだろう。懸念を挙げればきりがないが、この点については、今は見守るしかない。

なんにせよ、次世代モビリティーの基盤となる技術の生産・開発拠点が国内に増えれば、地域のみならず日本経済が沸くことは間違いない。九州には、これからはぜひ「モビリティーアイランド」として発展を遂げてほしい。

(文=林 愛子/写真=日産自動車、TSMC/編集=堀田剛資)

台湾のTSMCは2024年2月、熊本工場の完成に合わせて、同工場に隣接するかたちで第2工場を建設すると発表した。工場の運営会社にはトヨタやソニーが出資し、第1工場と合わせた投資額は3兆円を超える規模となるという。
台湾のTSMCは2024年2月、熊本工場の完成に合わせて、同工場に隣接するかたちで第2工場を建設すると発表した。工場の運営会社にはトヨタやソニーが出資し、第1工場と合わせた投資額は3兆円を超える規模となるという。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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