スズキ・フロンクス(FF/6AT)/フロンクス(4WD/6AT)
ひたむきに実直 2024.11.04 試乗記 スズキの新しいコンパクトSUV「フロンクス」がいよいよ日本の道を走り始めた。仕様だけを見れば装備の充実ぶりと価格の両面でライバルを圧倒しているわけだが、果たしてその実力は本物か!? はるばるインドから運ばれてくるニューモデルを試す。インド史上最速記録
今日びクルマにまつわる数字で史上最速なんて話を聞くと、電気自動車ご自慢の0-100km/hですか? といぶかしがりたくなるわけだが、スズキのフロンクスが達成したのはインド史上最速での0-10万台販売到達だったという。
ちなみに20万台の節目は発売から約18カ月後の2024年10月にクリアしたが、こちらは乗用車史上最速とはいかないものの、かの地のSUV販売史上最速ではあるらしい。
ルピー安もあって今の経済状態は決して芳しくないといわれる生産国のインドにおいても、かなりな感じで売れまくっているフロンクスは、実は中南米や中近東など世界70カ国以上で販売するスズキの世界戦略車。時流のいかんによっては総代たる「スイフト」のアタマをとる可能性もある成長株でもある。そんなクルマの日本での頒布が始まった背景には、2024年4月に販売終了となった「エスクード」の後継的位置づけに収まるという事情もあるのだろう。
と、こういうプロファイルを見るにつけ、スズキという会社は愛菜ちゃんや環奈ちゃんを頼りに100円勝負のシノギをやっているように見えて、視点を軽から登録車に向けると、大手も手をこまねく潜在市場に切り込んでバチバチのワールドカップを繰り広げていることを再認識させられる。
最新のグジャラート工場で生産されるフロンクスは、インドを中心に世界に向けて出荷されるなか、日本では月1000台の輸入枠を確保している。対して、2024年10月末時点での受注は9000台超というから、単純に9カ月程度の待ちとなるようだ。テレビCMもつい最近始まったばかりというのに、この食いつきのよさはなんなのよと詳細を追ってみると、とにかく際立っているのはコスパだ。
フロンクスはモノグレードで機能的選択肢はFFか日本仕様のためにつくった4WDかという2つになる。価格はおのおの四捨五入で254万円か274万円といったところだ。その数字だけ見てもふう~んという感じかもしれないが、フロンクスはその値札のなかに現代の常識的装備のほとんどに加えて、あるといいなぁという快適装備なども全部ひっくるめている。詳しくはぜひカタログやウェブサイトで装備表を確認いただければと思うが、寸法的にはBセグメント級という車格の割には相当盛られてるという印象だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
軽やかなクーペスタイル
個人的にはいまだマイカーとして利便を享受したことがない、アダプティブクルーズコントロールやヘッドアップディスプレイや360度カメラや……が標準装備という、その満艦飾ぶりは素直にうらやましい。愛車が軒並み20年以上落ちと文明度が明らかに低いことは認識しているが、その目で見ればフロンクスの至れり尽くせりぶりは、旦那が稼ぎに出ている間に奥さま方が群がるホテルのランチビュッフェのような小躍り感がある。実際、今回用意された取材車も盛られているオプションはドラレコとETCとフロアマットくらいだった。
前述のとおり、フロンクスの車格は完全にBセグメント、その中でも小さい部類に入る。全幅は1765mmと標準的だが、全長は4m切りの3995mmと、同幅の「ヤリス クロス」に比べると200mm近く短い。5mmの有無で料金体系が変わるカーフェリーを多用する向きにもありがたいサイズだ。一方で、スズキ初(国内)というシャークフィンアンテナを採用しながら、1550mmの全高に抑えたところは、機械式駐車場を多用する都市部のニーズにもピタリとはまっている。最低地上高は170mmだから、よほどの雪道や獣道でなければ底を打つこともないだろう。
スズキいわくのクーペSUVというなりたちはあながち的外れでもなく、Bピラーから後ろに向けて下がっていくフォルムはなかなか軽やかだ。お尻の側から見るとちょっと「イヴォーク」っぽいシェイプでもある。一方で、後席の座面は前席よりも高く、背面をしっかり立たせたシアターレイアウトを採っているため、ヘッドクリアランスは身長181cmの筆者にはピタピタという感じだった。足元空間がかなり広いので窮屈さは感じないが、インドの人=ターバンという脊髄反射的な印象からすれば、高さ的なところはちょっと心配になる。
同じようなプロファイルの「ホンダWR-V」は、賓客を乗せるような用途もあるということで、後席の居住性をきっちり織り込んでつくっているという触れ込みだったが、果たしてフロンクスはいかに。そう思って中の人に尋ねてみたところ、こちらは現代的価値観のなかで育ってきたファミリーや若者をターゲットにしているということで、後席にお偉いさんが乗るまでの大ごとは想定していないという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
レクサスも真っ青の充実装備
その割にはリアドアのトリムにもソフトパッドをおごっていたり、後席足元のUSBポートもタイプAとタイプCの両方が備わっていたりと、前述のとおりとにかくフロンクスは装備面での大盤振る舞いっぷりが際立っている。ちなみに前席側にはQi対応のワイヤレスチャージャーが備わり、9インチのパイオニア製インフォテインメントシステムは「Apple CarPlay」や「Android Auto」などのスマホ連携だけではなくカーナビも搭載。シートヒーターは背面だけでなく座面も温めてくれるなど、そのインクルーシブぶりはレクサスも真っ青といったところだろう。もちろん静的質感はレクサス並みとはいかないが、それでも「バレーノ」の世代からすればはっきりと目に見える進化を遂げている。
走りに関しても日本向けとしてバネやダンパー、ブッシュ類に専用のチューニングを加え、路肩やマンホール、舗装目地や橋脚ジョイントなどの段差など日本的路面条件に合わせた味つけにしているという。さらに120km/h級の高速・高負荷域を常用する状況を前提に、部位補強や5穴ホイールハブなどを採用している。
乗り心地面での効果は日常的な速度域でより大きく表れているようで、確かに頻繁に出くわすレベルの凹凸へのアタリは丸い。タッチの感触からすれば大きなタイヤの縦バネ感が強めだろうと察するが、足まわりの側がおおらかに応答していることが端々から伝わってくる。ただし速度が上がると波状舗装のような連続的な凹凸に対して特にリアサスの動きにバタつきが生じるなど、ちょっとフォーカスがズレるところもある。この傾向は特に4WDに顕著で、その絶対的な機能が譲れるのであれば、乗り味的にはFFがおすすめだ。
試乗コースにワインディングロードのような場所はなかったものの、高速道路へのアプローチなどでの挙動を見るに、高負荷域でのクルマの動きは悪くなさそうな感は伝わってきた。ぎゅっと横Gがかかっている状況ではリアサスの追従性もよく、自然なロールとともに性急ではなくおおむね想定したとおりのゲインで動き、スーッときれいに曲がってくれる。
1.5リッター4気筒ユニットは出力の額面こそ平凡だが、動力性能的にはデイリーカーとして不満はない。エンジンの特性的にも高回転域まで回り方にストレスはなく、静かではないがその音量はロードノイズや風切り音などと調和がとれている。速度の伸びが望外に期待できるのはライバルを圧倒する軽さも手伝ってのことだろう。燃費もモニターでの推移を見るに、FFならば高速巡航で20km/リッターに近いところを狙えそうな感触だった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
値上げ値上げの時代に
気になったのはシフトマネジメントがこの軽さを生かしきれていないことで、控えめなアクセルワークではアップにせよダウンにせよ、変速をためらう場面が試乗中には散見された。クルマ的にはアクセルもステアリングもメリハリのある入力を試みたほうが調子が合う感もあったが、シャシーの余力や車重に鑑みればちょっともったいないようにも思う。
ちょっと前に牛丼チェーンが足並みそろえて限定的に値下げ策を施した際、それを報じるニュースの旗色は「デフレ再来?」的なものだった。今の日本にとって値下げは元の木阿弥(もくあみ)、あのドツボスパイラルに逆戻りしたくない……といった、メディア的にはそういうマインドなのだろうか。
コロナ禍を挟んでの値上げラッシュで気づけば牛丼チェーンは座って400円~、自分にとっての完全食だったサラダと卵が付いてワンコインのランチセットはいつの間にか卵が間引かれたうえ、値段は530円になっていた。ワンコインでは足りないのが牛丼なら、1000円でも足りないのがラーメンと、勤め人のささやかなお楽しみだった昼飯事情も完全にインフレ状態にある。
一方で、どれがどれやら見分けがつかない○ビルがぶっ建てた超都心のオフィスビルの根っこにあるコンビニは、昼ともなれば外までレジ待ちの列ができる勢いだ。お大尽じゃあるまいし、札出して釣りもないお昼なんかあり得ない、キラキラとかどうでもいい生活防衛の実直派も少なからずいることが伝わってくる。
アフォーダブルのレベルは個人によって異なるだろうが、スズキは常にそのなかでモストであり続けようと身を削らんばかりに取り組んでいる。その痕跡はフロンクスの仕上がりからもうかがえた。いかにスズキとてインフレにはかなわず、清貧の極みだった「アルト」のベースグレードもこの1~2年の間に1割ほど値上がりしていたが、それもひっくるめての商売の真正直さには頭が下がる。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スズキ・フロンクス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1765×1550mm
ホイールベース:2520mm
車重:1070kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:101PS(74kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:135N・m(13.8kgf・m)/4400rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/800-1500rpm
モーター最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)195/60R16 89H/(後)195/60R16 89H(グッドイヤー・アシュアランス トリプルマックス2)
燃費:19.0km/リッター(WLTCモード)
価格:254万1000円/テスト車=272万5140円
オプション装備:ボディーカラー<スプレンディッドシルバーパールメタリック ブラックツートンルーフ>(5万5000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(3万2780円)/ETC車載器・ETC取り付けキット(2万6400円)/ドライブレコーダー(4万7740円)/テレビアンテナ(2万2220円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:802km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
スズキ・フロンクス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1765×1550mm
ホイールベース:2520mm
車重:1130kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:99PS(73kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:134N・m(13.7kgf・m)/4400rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/800-1500rpm
モーター最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)195/60R16 89H/(後)195/60R16 89H(グッドイヤー・アシュアランス トリプルマックス2)
燃費:17.8km/リッター(WLTCモード)
価格:273万9000円/テスト車=292万3140円
オプション装備:ボディーカラー<アースンブラウンパールメタリック ブラックツートンルーフ>(5万5000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(3万2780円)/ETC車載器・ETC取り付けキット(2万6400円)/ドライブレコーダー(4万7740円)/テレビアンテナ(2万2220円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:614km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
ディフェンダー110ハードトップX-DYNAMIC SE D350(4WD/8AT)【試乗記】 2026.6.13 写真を見ていつもの「ディフェンダー」とはどこか違うと思われた方は鋭い。このクルマは1ナンバー、つまり商用車登録の「ディフェンダー・ハードトップ」である。全長約5mのボディーに備わるシートは前の2座のみ。広大な荷室を使いこなす生活を思い描いてみた。
-
キャデラックCT5スポーツ(4WD/10AT)【試乗記】 2026.6.12 アメリカのプレミアムブランド、キャデラックが擁する4ドアセダン「CT5」。その最新モデルに試乗する機会を得た。今や“上質な4ドア”というだけでも貴重な存在だが、さらにCT5には、ジャーマンスリーとは趣の異なる個性が確かに宿っていた。
-
メルセデス・ベンツGLC400 4MATIC with EQテクノロジー(4WD)【海外試乗記】 2026.6.11 「メルセデス・ベンツGLC」のモデルラインナップに電気自動車版の「GLC400 4MATIC with EQテクノロジー」が仲間入り。システム最高出力は489PS、一充電走行距離は700km超と、まず間違いのなさそうなスペックが示されている。本国ドイツで仕上がりを試した。
-
マツダ スピリット レーシング・ロードスター(FR/6MT)【試乗記】 2026.6.10 マツダ スピリット レーシングを象徴するハードコアモデル「ロードスター12R」と同時に発表された、台数限定2200台の「ロードスター」に試乗。12Rとの比較を交えながら、最高出力184PSの2リッター直4エンジンがもたらす走りの印象を報告する。
-
スバル・トレイルシーカーET-HS(4WD)【試乗記】 2026.6.9 スバルから電気自動車(BEV)の第2弾モデルである「トレイルシーカー」が登場。ルーフの長いステーションワゴンスタイルのクロスオーバーという、いかにもスバルらしいBEVは、機能的で快適で、走らせても楽しい万能なマシンに仕上がっていた。
-
NEW
開発車両の公道テストに“目立つカムフラージュ”をなぜ使う?
2026.6.16あの多田哲哉のクルマQ&Aごくたまに公道で、派手なカムフラージュ柄で擬装している開発車両に出会うことがある。かえって目立つようなカラーリングが採用されているのはなぜなのか? 元トヨタのチーフエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
ホンダZR-V e:HEVクロスツーリング(4WD/CVT)【試乗記】
2026.6.16試乗記「ホンダZR-V」といえば、スポーティーな走りが魅力のコンパクトSUVだが……人気ジャンルの一台にもかかわらず、その存在感はちょっと薄めだ。今回の一部改良でアピールを強めることはできたのか? 特別仕様車「クロスツーリング」に試乗して確かめた。 -
ホンダ・スーパーONE(FWD)【試乗記】
2026.6.15試乗記ホンダからアグレッシブなキャラクターの新型電気自動車(BEV)「スーパーONE」が登場。往年の「シティ ターボII」を思わせるコンパクトなBEVは、先達(せんだつ)に負けない刺激を持ち合わせているのか? 気になる走りを、箱根のワインディングロードで確かめた。 -
あなたの「パジェロ」の理想形は? これから出てくる“新・三菱パジェロシリーズ”を大予想
2026.6.15デイリーコラム三菱自動車が、新型「パジェロ」の市場投入と、パジェロのシリーズ展開を正式に発表。そこで考えられる、新たなパジェロシリーズの姿とは? サイズ感や基本構造など、具体的な製品のイメージを予想してみよう。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.14ミスター・スバル 辰己英治の目利きミスター・スバルこと辰己英治さんが、ホンダの世界的な人気モデル「CR-V」に試乗! かつてはスバルで「フォレスター」の走りも鍛えたことがある彼の目に、ライバルであるホンダのミドル級SUVはどのように映るのか? その走りを批評してもらう。 -
ディフェンダー110ハードトップX-DYNAMIC SE D350(4WD/8AT)【試乗記】
2026.6.13試乗記写真を見ていつもの「ディフェンダー」とはどこか違うと思われた方は鋭い。このクルマは1ナンバー、つまり商用車登録の「ディフェンダー・ハードトップ」である。全長約5mのボディーに備わるシートは前の2座のみ。広大な荷室を使いこなす生活を思い描いてみた。



























































