スズキ・フロンクス(4WD/6AT)
人気の秘密がわかった 2025.01.04 試乗記 扱いやすいコンパクトなサイズとスタイリッシュなクーペフォルムが注目されるスズキの新型SUV「フロンクス」。日本向けとして仕立てられた4WDモデルを郊外に連れ出し、日常での使い勝手や長距離ドライブでの走りをチェックしながら、その人気の秘密を探った。競合車よりもコスパが高い
先日開催されたスズキの「2025年3月期 第2四半期決算説明会」において、フロンクスの受注台数が正式発売から約2週間の10月末時点で1万台を突破したと明かされた。国内月販計画1000台の10倍以上ということだ。
ご承知のように、フロンクスはインドで生産される。そのインドでは2023年春に発売されて、2024年1月には累計販売10万台を達成した(史上最速とか)。また、今回の国内発売の前には、中南米や中東、アフリカなど49の国と地域ですでに発売済みだ。
国内での登録台数は発売初月の10月が2137台、続く11月が1713台。フロンクスの生産自体はすでに軌道に乗っているだろうから、今後も納車は順調に進みそうである。
いずれにしても、日本国内でのフロンクスの滑り出しは上々といっていい。その人気の理由は、素直にスタイリッシュなクーペSUVデザインに加えて、やはりコスパの高さと、きめ細かい“日本化”のおかげだろう。サスペンションは専用チューンで、5穴ハブも日本専用。最新の先進運転支援システム(ADAS)である「デュアルセンサーブレーキサポートII」を装備するのも、日本市場のためだ。
フロンクスの本体価格は、FFで254万1000円、4WDで273万9000円。競合する「トヨタ・ヤリス クロス」や「ホンダWR-V」にはより安価なグレードもあるが、フロンクスはこの価格で、9インチディスプレイにナビも搭載済み。しかも、最新のADAS、アルミホイール、ヘッドアップディスプレイ、電動パーキングブレーキ、オートエアコン、シートヒーター、一部合皮のコンビシート表皮、本革巻きステアリングホイール、ワイヤレス充電まで標準だ。装備内容に対するコスパは、競合車より確実に高い。
同じインド生産のWR-VがFFのみなのに対して、フロンクスには4WDもあるので、日本の積雪地域でも選ばれやすい。以前、WR-Vの担当者にシートヒーターの用意がないことをただしたら、「気づきませんでした」との回答だった。それが本当かどうかは定かでないが。
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自慢はロードノイズの小ささと直進性
今回試乗したフロンクスは、「事実上は日本専用」という4WDだった。以前にリポートしたように(参照)、プロトタイプによるワインディングを模したクローズドコース試乗では4WDのほうが好印象だったのだが、同業先生諸氏の間では、総じてFFの評価が高いとも聞く。
なるほど、市街地などでは、FFよりリアがちょっとドタつく感がなくもない。ただ、速度や負荷が高まるほどにリアがしっかりと安定する(4WDにだけリアスタビライザーが備わることも関係あるかも)点が、筆者が4WDを好ましく思う大きな理由のひとつだ。
ちなみに、フロンクスの4WD機構は「クロスビー」や「ハスラー」と同様、単純なビスカスカップリング式(で「グリップコントロール」を作動させたときに、ブレーキLSDが作動)。主駆動輪のフロントタイヤがスリップするなど、前後輪に明確な回転差が生じなければ、リアにトルク配分はしない。よって、今回のような舗装路における4WDならではの味わいは、主として、リアサスペンションまわりの構造と前後重量配分のちがいによるものと思われる。
それにしても、感心するのは全身にみなぎる剛性感だ。荒れた路面でも車体はミシリともいわず、どことなく潤いすら感じさせる剛性感である。局部剛性もうまく確保されているのか、引き締まり系のサスペンションをしっかりとストロークさせて、いい意味で実際の車重には似合わない重厚感をただよわせる。
前記プロトタイプ試乗時には、フロンクスの開発陣はロードノイズの小ささと直進性を自慢していた。なるほど、このクラスとしては静粛性はまずまず高いが、驚くほどではない。いっぽう、直進性の高さは印象的だ。高速道でアダプティブクルーズコントロールと車線維持支援を作動させての半自動運転でも、修正舵が少ないのは、デュアルセンサーブレーキサポートIIの性能に加えて、クルマ自体の直進性も高いからだろう。
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アンダーパワーを感じる瞬間も
こうした高い剛性感は、スズキ最上級のBプラットフォームによるところも大きそうだ。スズキのBプラットフォームといえば、「スイフト」や国内販売を終了した「エスクード」の系統である。ただ、前回のワインディングロード走行だけでは気づかなかったが、今どきとしては重めで少しスムーズさに欠けるパワーステアリングだけは、非力なドライバーではちょっと疲れる可能性もあり、個人的にはもう少し軽く滑らかであってほしいと思った。これを重厚感やスポーツテイストと捉える人もいるかもしれないが、スイフトのそれのデキを思えば、熟成の余地はあるだろう。
フロンクスで4WDよりFF推しの人が少なくないもうひとつの理由は、動力性能にあるもしれない。試乗車の99PSという最高出力や134N・mの最大トルク(FF車は101PS、135N・m)は現代の1.5リッターとしては控えめだ。かわりにフロンクスは総じて車重が軽いが、FFのほうが60kg軽いので、動力性能も少しだけ活発になるからだ。
実際、フロンクスは普通に走るにはもちろん十分だが、高速追い越しや上り坂などで、ちょっとアンダーパワーを感じる瞬間がなくはない。スズキのマイルドハイブリッドは燃費特化タイプなので、モーターアシスト効果を体感できるほどでもない。エンジンのピーク性能だけでなく、このクラスとしてはめずらしい6段ATも、加減速の切れ味では心地よい反面、中間加速のパンチ力などではCVTにゆずる部分もある。
インド向けのフロンクスには1リッター直3直噴ターボ搭載車も存在する。同エンジンを使うクロスビーを例にとると、最大トルクは150N・mと、フロンクスの1.5リッターよりは強力だ。おそらく上り坂や追い越し加速などの高負荷時はより頼もしいと思われる。
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今やスズキの国内フラッグシップ
日本仕様の開発でも、1リッター直3直噴ターボはかなりの段階まで候補に残っていたというが、最終的には静粛性と低速での柔軟性、そしておそらく「フロンクスはクロスビーより上級」という商品ポジションから、1.5リッターが選ばれたのであろう。それはそれで納得できるが、外野は無責任なもので、そう聞けば聞くほど1リッター直3直噴ターボも味わってみたくなる。
そうした細かい選択肢はなくとも、デザイン、走り、装備に対するコスパがフロンクスの大きな売りだが、唯一残念なのはリア左右席(以下、後席)のシートベルトにフォースリミッターもプリテンショナーも備わらないことである。いま日本で新車販売されている乗用コンパクトカーで、後席ベルトが古典的なELR式にとどまるのは基本的にスズキだけだ。
厳密には「ダイハツ・トール」とそのOEMモデルも同様なのだが、それとてサイド&カーテンエアバッグを装着すれば、後席ベルトにフォースリミッターとプリテンショナーが追加となる。同じスズキでも、スイフトとクロスビーの後席ベルトにはフォースリミッターとプリテンショナーが、「ジムニーシエラ」にもフォースリミッターは備わるのに、フロンクス(と「ソリオ」)のそれだけは単純なELR式のまま。安全にまつわる部分だけに、早急な対応を望みたい。
いずれにしても、フロンクスの優れたコスパは、パワートレインや装備内容の選択肢をなくして、仕様数を最小限にすることで実現している部分もあるはず。生産と供給にどうしてもタイムラグが生じてしまう輸入車であれば、なおさらだ。しかし、フロンクスは今やスズキの国内フラッグシップ(開発陣もエスクードの退陣は想定していなかったとか)であり、冒頭のとおり、事前の期待以上に売れる予兆がある。となれば、なおのこと、安全装備面で下のクラスにゆずるのは厳しい。さらには、前記のように「ナビなしでシートも布でいいから、もうちょい安くしてほしい」とか、ほかのエンジンでも乗りたいなどなど、客のわがままを聞いてもらえる余地もできる……ことを期待したい。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=スズキ)
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テスト車のデータ
スズキ・フロンクス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1765×1550mm
ホイールベース:2520mm
車重:1130kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:99PS(73kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:134N・m(13.7kgf・m)/4400rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/800-1500rpm
モーター最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)195/60R16 89H/(後)195/60R16 89H(グッドイヤー・アシュアランス トリプルマックス2)
燃費:17.8km/リッター(WLTCモード)
価格:273万9000円/テスト車=286万8140円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(3万2780円)/ETC車載器・ETC取り付けキット(2万6400円)/ドライブレコーダー(4万7740円)/テレビアンテナ(2万2220円)
テスト車の年式:2024年型
テスト車の走行距離:1428km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(4)/山岳路(3)
テスト距離:338.4km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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