話題の「スズキ・フロンクス」を徹底解剖! ライバルにはないアドバンテージを探る
2024.10.18 デイリーコラムコンパクトSUVの勢力図が変わる?
ついに正式発表された、スズキの注目SUV「フロンクス」。すでに試乗も済ませ、関連記事もたくさん書いて(その1、その2)、もうとっくに発売されたようなつもりでいたけど、それは単に筆者の錯覚だったようだ。実は一昨日(2024年10月16日)が正式発表でした(笑)。
ところで読者の皆さんは、ボディータイプ別に見ると(軽自動車を別にすれば)今の日本で新車販売が最も多いジャンルはどれか、ご存じでしょうか? セダンじゃないのは当然としても、ミニバンでもハッチバックでもない。答えはそう、SUV。今日では販売される新車の3台に1台がSUVで、なかでも最も販売ボリュームが大きく、激戦区となっているのがコンパクトSUVクラス。そしてフロンクスもまた、全長4mを切るコンパクトSUVというわけです。
ちなみに、日本で買える国内メーカーのSUV(軽自動車は除く)のうち、全長4mを切るのはフロンクスのほかには、同じくスズキの「ジムニーシエラ」と「クロスビー」、そして「ダイハツ・ロッキー」とその兄弟車である「トヨタ・ライズ」だけ。販売的にはロッキー/ライズの独壇場だったこのカテゴリーに、ついに刺客が登場したというわけなのですよ。コンパクトSUVというジャンル全体で見ても、ロッキー/ライズ連合や最大派閥の「トヨタ・ヤリス クロス」、こちらも人気の「ホンダ・ヴェゼル」に、フロンクスが挑戦を仕掛ける……そんな図式が避けられないわけです。
さっそくフロンクスを各ライバルと比較していきたいところですが、その前に、そもそもフロンクスとはどんなクルマなのかを確認しましょう。まずは以前のプロトタイプ紹介やプロトタイプ試乗記にはなかった新着情報からお届け。要するに、価格と装備とグレード構成です。
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高機能なナビが付いての、このお値段
価格は、FF車が254万1000円で4WD車が273万9000円。ボディーカラーを除くと、メーカーオプションも一切ないシンプルな展開となっているのは、フロンクスがインドからの輸入車であり、「日本向けは最上級仕様のみ」だからだ。なかには「期待したほど安くないな、スズキなのに」と感じた読者諸兄もいるかもしれません……が、ちょっと待った! 注目すべきはその仕様で、フロンクスにはナビがデフォルトで付いているんですよ。だから、“見た目の価格”が気持ち高いんです。
全車に標準装着となるこのナビは、9インチディスプレイで全方位モニター(360度カメラ)まで備えた高機能タイプ。同じく同社のコンパクトカーである「スイフト」であれば、約25万円するタイプです。どうせ皆さんもナビは付けるでしょうし、フロンクスの価格感は実質、お値段230万円からの他社製品と同等……と言っていいでしょう。
ちなみに、このナビにはテレビチューナーは組み込まれているものの、そのアンテナはディーラーオプション(ほかのスズキ車ではナビとセットで車両に組み込まれる)。なぜかというと、「インドのサプライヤーではアンテナをガラスにプリントできなかったから」……というのはここだけの内緒としておいてください。まぁとにかく、前席シートヒーターもワイヤレス充電器も付いているし、フロンクスは「一通り欲しい装備が付いての、このお値段」とお考えください。
そんなフロンクス、ライバルといえば先に述べたとおり、ロッキー/ライズにヤリス クロス、ホンダの「WR-V」やヴェゼルあたりとなるわけです。「日産キックス」も気になるところですが、このクルマは日本仕様だとハイブリッド専用車で、マイルドハイブリッドのフロンクスより価格がずいぶんお高いので、ここでは忘れましょう。一応お伝えしておくと、キックスの価格は308万3800円からです。
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都市部のファミリー層ならこれ一択?
こうしたライバルに対するフロンクスのアドバンテージといえば、まず挙げられるのがパッケージでしょう。全長4m未満で、最小回転半径は地味にスゴイ4.8m! おかげで取り回しが非常にしやすい。それに加え、都市部のユーザーにとっては1550mmという全高にも大きな意味があります。そう、(ミニバンやSUVなどの背の高いクルマに対応していない、一般的な)機械式立体駐車場が使えるのですから。
自宅の駐車場に制約がある人はもちろん、世のなかには背の高いクルマが止められない機械式立体駐車場は少なくありません。さらに昨今は、背の高いクルマが増えすぎた影響で、街に出かけても「ハイルーフ車用駐車場は満車だけど、全高1550mmまでのクルマ用のスペースなら空きがある」なんていう状況も意外に多かったりします。そして、先に挙げたライバルのなかで全高を1550mmに抑えているのは、フロンクスだけ! なにが言いたいかというと、アーバン(懐かしい表現を使っちゃいました)なユーザーなら、フロンクスには大きなメリットがあるということです。郊外に住んでいる人には、あんまり関係ないですけどね。
またパッケージングでいえば、後席が広いのもフロンクスの自慢。ロッキー/ライズやWR-V&ヴェゼルも広いけれど、フロンクスはそうしたライバルも超えたかな? と思わせるほどのゆとりがあって、ファミリーユースに向いています。ちなみにヤリス クロスはあまり広くなく、後席の広さレースからは脱落……ですね。
いっぽうで、荷室はどうか? フロンクスの290リッターに対し、ロッキー/ライズが369リッター(デッキボード下も含むと449リッター)、ヤリス クロスは390リッター。ヴェゼルは404リッターで、WR-Vは458リッターもある。ここはライバルにリードを許すところで、荷物が増えがちなアウトドアレジャーなどを趣味にしている人なら、“フロンクスじゃないやつ”を選んだほうがいいかもしれません。ただフロンクスの名誉のために言っておくと、このクルマでも機内持ち込みサイズのキャリーケースは4つ積めるわけで、普段使いで考えたら十分すぎる荷室なんですけどね。
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お値段を軸にライバルと徹底比較
つづいてインテリアですが、実はフロンクスのつくり込みは、同じインド製のWR-Vはもちろん、ロッキー/ライズやヤリス クロスも超えるほどで、それこそヴェゼルのベーシックグレードと比べても上と感じるぐらい。ダッシュボードやドアトリムなどのソフトパッドの使い方が、ぜいたくなんですよ。
しかも価格を見ると、ヴェゼルの価格はベーシックグレードでも264万8800円(ナビ代は別)とちょっと高め。その理由は、非ハイブリッドモデルのFF車がないからです(前はあったけど)。逆にフロンクスの4WDを狙うのであれば、純ガソリンエンジンのヴェゼルのベーシックグレード「G」が価格面で競合となるでしょう。ただ、繰り返しになりますけど、そのグレードが相手なら内装の上質感はフロンクスが優勢です。さすがにヴェゼルの上級グレードが相手だと、ちょっと届かないかな、という気がしますが……。
ただ、そういうところを度外視して価格のみを見てみると、純ガソリン・FF車の価格が167万7000円~206万8800円のロッキーや、同じく171万7000円~204万9000円となるライズの安さはちょっと異常(いずれもナビやディスプレイオーディオ代は含まず)。とにかく価格最優先でコンパクトSUVを選ぶというなら、この2台がいいでしょう。さすがだなぁ、ダイハツ。動力性能や静粛性、先進安全装備の充実度まで含めれば、コスパはフロンクスのほうがいいんでしょうけど。
次いでヤリス クロスを見ると、こちらはFFのガソリン車が190万7000円~257万1000円。ベーシックグレードを除くとナビが標準で装備されるので、255万1000円の「Z“アドベンチャー”」あたりはフロンクスのバチバチのライバルといえるでしょうか。
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最大のアドバンテージは……
最後に、WR-V(全車FFの非ハイブリッド)は209万8800円~248万9300円の価格帯。見た目が違うだけで装備類は最上級グレードと変わらない中間グレードの「Z」が234万9600円で、ここにナビを追加すれば、これもフロンクスのガチライバルといえそうです。ただしWR-VはFFしか選べないので、4WDが欲しいのならフロンクスとなるでしょうね。
……ところでフロンクスには、これらのどのライバルと比べても勝る部分があるんです。それは、ドライバビリティー。ハンドリングもいいけれど、それ以上に印象的なのが加速感。アクセル操作に対するパワートレインの反応が、どのライバルよりもダイレクトで運転が楽しいのですよ、ホントに。
理由はトランスミッション。基本的にCVTを採用するライバルに対して、フロンクスのトランスミッションは6段AT。しかもスズキのATは効率を求めて積極的にロックアップするから、まるでDCTかシングルクラッチか? というくらい直結感が強くて、それが気持ちいいのです。
というわけで、走りの爽快感を求めるならフロンクスがイチオシ! 運転好きも多いことでしょうwebCGの読者諸兄に向けては、「トランスミッションがCVTではなくATというだけで、好事家はフロンクスを選ぶべきなのだ!」と申しておきましょう。
(文=工藤貴宏/写真=向後一宏、スズキ、日産自動車、本田技研工業、ダイハツ工業、トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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