欧州メーカーの危機に先鋭化する欧州・中国の対立 EVシフトはこのまま終わるのか?
2024.11.08 デイリーコラムEVシフトのカギを握る中国と欧州
◆攻める中国に、待ったをかける欧州
昨今の電気自動車(EV)かいわいのニュースを見ると、中国BYDの好調が目につく。2024年10月末に発表された2024年第3四半期(7~9月)の売上高は、前年同期比24%増の2010億元(約4兆3200億円)と過去最高を記録。販売台数ですでに上回っていたテスラを、売り上げでも抜いたことで話題になった。いま最も勢いのあるメーカーと言っても過言ではないだろう。
いっぽうで、心配なニュースも聞こえてくる。EUの欧州委員会が中国製EVに対して追加関税措置を発動し、中国政府がこれに反発しているのだ。欧州ではEVシフトの戦略そのものを見直す動きも出ているだけに、中国と欧州の動きが今後のEV市場に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。両者のうち、まずは中国の現状から読み解いていきたい。
◆群雄割拠といわれた中国EVメーカーのいま
冒頭でも触れた中国のBYDは、深センで1995年に創業した。当初は携帯電話など民生品向けのバッテリーを手がけており、2003年に自動車産業へ参入。2008年には自社ブランドのプラグインハイブリッド車「F3-DM」を発売した。その後も大手資本家の後押しなどを受けて多様なモビリティーを手がけ、今や中国随一のメーカーとなっている。日本でも2023年にEVの販売を開始し、2024年10月には国内33店舗目のショールームをオープンした。
自動車メーカーとしてのBYDの歩みは、中国の新エネルギー車(NEV)推進の歴史に重なる。中国政府は自動車を主要産業のひとつに据えており、2009年にスタートした「十城千両」プロジェクト(毎年約10都市の公共交通部門に1000台のNEVを導入するというもの)を筆頭に、特にNEVの普及を促す施策を次々と打ち出してきた。もちろん、メーカーへの産業支援や充電インフラの整備などにも力を注ぎ、全方位で施策を推し進めている。そのかいあって、近年の中国におけるNEVの普及は目覚ましく、今や世界販売の約6割を同国の国内市場が占めるに至っている。また対外的にもロシアや欧州への輸出を強化しており、さらなる拡販をもくろんでいる。
中国のEVメーカーでは、BYDや奇瑞汽車(iCAR)、吉利汽車(ZEEKR)、広州汽車(AION)などの大手メーカーに加えて、理想汽車(Li Auto)や小鵬汽車(Xpeng)、蔚来汽車(NIO)などの新興メーカーもよく知られるところ。最近ではスマートフォンメーカーの小米(シャオミ)もEVを発売して話題を呼んでいる。
◆影を落とす中国の景気後退
このように勢力を増す中国勢は、外部から見れば確かに脅威に映るが、実情はそう単純ではない。中国国内のEV市場ではBYDとテスラが圧倒的に強く、この2社を除けば、どこも経営的に厳しい状況なのだ。一番の要因は国内市場の低迷である。EVの新車販売数が伸び悩んで生産過剰となり、価格の下落が起きているのだ。市場には小型車からハイエンドの高級車まで多種多様なモデルがそろっているが、どのクラスでもこの傾向は変わらない。
中国にとってEVシフトは国策だったわけだが、15年かけて掘り起こした都市の需要は一段落した。今後は新たな市場を開拓したいところだが、残るターゲットはあらゆるインフラ整備が遅れている農村部で、各社はここにテコ入れするかどうかの判断に迫られている。体力がないメーカーにとって、先行きが見えない市場で闘い続けるのは容易ではない。
中国自動車メーカーの急速な外界進出には、こうした背景もあるのだ。
EVシフトの現状をどうとらえるべきか
◆EUによる“上からのEVシフト”とその翻意
そうしたなかで、EUは追加関税措置を決めた。中国側からすれば容認しがたい内容だろうが、欧州側にとってもこの問題は切実だ。
さかのぼること9年の2015年、フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題、いわゆる“ディーゼルゲート”が発覚する。環境対応車としてクリーンディーゼルをPRしているさなかの出来事だけにインパクトはすさまじく、さらに疑惑は他の自動車メーカーにも飛び火していった。
これを契機として、欧州ではエンジン車を排斥する流れができ始める。まずは2016年にノルウェーが「今後10年でガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する」と発表。翌年にはパリ協定の主催国だったフランスや、イギリスなどもエンジン車の販売を規制する方針を表明した。2021年になると、EUも「2035年までにエンジン車の新車販売を禁止する」という規制案を発表。この方針に適合するべく、各自動車メーカーもEVシフトと段階的なエンジンの販売停止を打ち出していったのはご存じのとおりだ。
しかし2023年、EUはこの方針を見直し、合成燃料であるe-fuelを使うエンジン車については販売を認めることを宣言する(参照)。自動車メーカーの間でも、ボルボやメルセデス・ベンツ、ゼネラルモーターズなどがEV戦略の見直しを発表し、今日ではEVシフトの潮目は変わりつつある。
◆それでもEVは有望な選択肢である
EUの翻意の裏側には、欧州メーカーの手になるEVの販売不振がある。EVシフトを掲げながら、どのメーカーも競争力のある製品を開発できずに伸び悩んでいたのだ。いっぽう中国製EVは、圧倒的な価格競争力でおひざ元の欧州市場でも伸長している。EUがエンジン車撤廃の姿勢を緩めたのも、中国製EVに追加関税をかけたのも、ある意味では理解できることといえるだろう。
いっぽうで、こうした変節に翻弄(ほんろう)されてきたのが自動車メーカーで、とりわけ厳しい状況にあるのがVWだろう。中国では1984年にいち早く現地法人と合弁会社を立ち上げ、大きな成功を収めてきたが、昨今はNEV市場が膨れ上がるなかで、すっかり存在感が薄れてしまった。巨額を投じて臨んだEVの不振も経営に打撃を与えており、最近では本国ドイツでの工場閉鎖や人員解雇、電池工場の計画延期なども報じられている。この難局をVWがどう乗り切るか。オリバー・ブルーメCEOをはじめとする首脳陣の手腕に期待するしかない。
こうして世界的なEVシフトの流れを俯瞰(ふかん)すると、昨今のその停滞は「EVがダメだったから」ではなく、「エンジン車からの転換を図るにはあまりに拙速な計画だったから」ととらえるべきだろう。長い目で見れば、EVが今後も有望な選択肢であることに変わりはない。ただいっぽうで、マーケットや技術開発の現状を度外視した施策に無理があることも、この数年で分かったことではないか。EVシフトはどのぐらいのペースで進めるべきか。性急に他の選択肢を排除してもよいものか。いまはエンジンも併用しながら、脱炭素化の道をあらためて考えるときではないのだろうか。
(文=林 愛子/写真=newspress、アウディ、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)
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林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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