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第415回:感傷試乗「フィットハイブリッド」 
ニッポンから魔球がひとつ消えた日

2010.11.08 小沢コージの勢いまかせ! 小沢 コージ
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第415回:感傷試乗「フィットハイブリッド」 ニッポンから魔球がひとつ消えた日

「プリウス」は大リーグボールだった!

とうとうこういう日が来てしまいましたか……「ホンダ・フィットハイブリッド」。先日、お台場の試乗会で乗ってきました。30.0km/リッターという10・15モード燃費や、そのわりに力のある98psのシステム出力、“ノーマル”フィットとほとんど変わらない十分な居住性やラゲッジスペースなどに驚き、最初の2週間で受注約2万1000台という成績にも納得し、すばらしさを体感したわけです。でも同時に、恋の終わりじゃないけど、一抹の寂しさも感じてしまったんですね。とあるひとつの幻想が終わってしまったことを。

それは“魔球”としてのハイブリッドだ。1997年に初代「トヨタ・プリウス」が出た時のことだけど、俺はハイブリッドって、名作マンガ『巨人の星』でいう「大リーグボール」のようなもんだと感じてたのね。
基本ガソリンエンジン車だけど、時折どころか、しょっちゅう電気モーターが介入し、時にはそれのみで走る。それは燃費を著しく改善するのはもちろん、フィーリングがキテレツ。特に初代プリウスは、ステアリングもブレーキも違和感丸出しで、それまで“フツー”のクルマだけだった日本自動車界に、突如現れた“魔球”だった。

味の強いコーラからいきなりミネラルウォーターに切り替えたようなピュアで透明感のある味わい。いままであったテイストがなく、なかったテイストがあり、他ライバルは当分マネできない。実際、次にトヨタ以外から、マトモに使えてたくさん売れるハイブリッド、2代目「ホンダ・インサイト」が出るまでに10年以上かかってるし。やっぱりその実力は飛び抜けていた。

古典的クルマ好きからすると「物足りない」。だが後ろから来た波に押されるような、不思議な加速感を俺は嫌いじゃなかったし、確実に新時代の訪れを感じたもの。でもねぇ。それがこんなにフツーになっちゃったとは!

「ターボ」ぐらいの位置づけに

もちろんフィットハイブリッドの「IMAシステム」とプリウスの「THSII」はかなり違う。IMAはエンジン中心の構成で、ヨーロッパじゃ“マイルドハイブリッド”とか“スモールハイブリッド”と呼ばれている。モーターは一個で、イグニッションをヒネればエンジンはすぐにかかるし、加速はエンジン音の高まりと同期するし、加速感も割とフツー。とはいえ、交差点で停止すればエンジンは止まるし、走行距離は短めだがEVモードもある。やっぱり、れっきとしたハイブリッドカーなのだ。

ただねぇ、それが目立たないのよ、特にフィットハイブリッドの場合。実際問題、実用車とは思えないシャープなハンドリングや、しなやかになったとはいえ硬めの乗り心地はいかにも“フィット”だし、担当エンジニアが言うように、パワートレインを共有するインサイトに比べ、よりエンジンの低回転を使うようになって、特に抵抗の少ない低速領域では、静かなエンジン音とも相まって、カーリングのストーンのようにスーッと走る。

そのハイブリッドならではの味わいは、昔より濃くなったとはいえ、やはりフィット。ベースのクルマのイメージが強い。あとは値段も魅力で、“ノーマル”フィットとの値段差は、装備の違いを抜くと20万円ぐらい。
それはまさにターボエンジンとノンターボエンジンぐらいの違いであって、フィットハイブリッドの功罪とは、自らの魅力と価値を白日の下にさらし、ある意味下げてしまったことにほかならないのだ。

今後ますますハイブリッドがフツーな存在になることに間違いはなく、昔でいう「ターボ」や「DOHC」ぐらいの位置づけになっていくのであろう。

魔球はいずれフツーになる

事実、トヨタ以外のハイブリッド車に乗ると、ホンダのみならず「メルセデス・ベンツSクラスハイブリッド」にせよ「フォルクスワーゲン・トゥアレグハイブリッド」(日本未導入)にせよ、実にフツー。心なしかエンジントルク全体が太くなり、サウンドが抑えられてる気もするが、言われなきゃわからない。というかどんなものでも、違和感は取り去られる運命にあるのだ。

昔、フォークボールといえば日本じゃ野茂英雄の代名詞のような変化球だったが、そのうちマリナーズの佐々木主浩の代名詞になり、今では誰もが投げる球種のひとつになった。魔球はそのうちフツーの変化球に変わる。技術の大衆化というのは、どの世界でも避けられない運命なのだ。

というか自動車界は、そのすぐ後ろに“完全電気化”の波が迫っている。おそらくEVにフツーに乗るようになると、ハイブリッドにでさえ、「ああ、ガソリン燃やしてるな」って感じる日が来るのかもしれない。

ってなわけで、つくづく時代を感じさせるクルマ、フィット ハイブリッド。こうやってクルマ観は変わっていくのかもしれない。っていうか俺も年取ったってことですかねぇ(苦笑)。

(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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