第2回:「ルノー・メガーヌR.S.ウルティム」はマニアのお眼鏡にかなったのか
2024.11.15 ルノー・メガーヌR.S.日常劇場1976台限定の希少性もセリングポイント
webCGのメディアマーケティングを担当する大和ひろ美は貴族である。名字からもわかるように、いにしえの朝廷からその名をたまわり、近代にいたるまでさる地方の領地運営を行ってきた由緒正しき家柄……というのはまったくのウソだが、一部関係者からは貴族として敬われている。その理由は、彼女の愛車遍歴にある。
これまでの愛車は、ガンメタリックのボディーカラーが精悍(せいかん)な印象をもたらす2012年に登場した40台の限定販売モデル「アバルト500Cグリージョレコード」(5段MT)に始まり、ブラックのボディーに輝く紫ラメが気に入り購入した2013年の「アウディR8スパイダー」(6段AT)、BMW M社が手がけた、3リッター直6ターボを搭載する2013年の「BMW M135i」(8段AT)、狭き門をくぐり抜けオーダーに成功した2021年の「ホンダS660バージョンZ」(6段MT)、そして現在所有する「アルピーヌA110 GT」(7段AT)へと続く。そう、それはもうスポーツカー貴族とも呼べる存在なのだ。
今回は、そうした「運転して楽しいクルマ」にこだわりを持つ彼女に「ルノー・メガーヌR.S.ウルティム」の印象を聞こうというのが趣旨である。私自身は2024年の2月にホワイトの同モデルをリポート(参照)しているので、ならばとwebCG大和に白羽の矢を立てたのだ。
幸運にも、大和は長野・軽井沢で行われる輸入車ブランドのイベントに顔を出す予定があるという。ここぞとばかりにお供を買って出た。ドライブするのは「オランジュトニックメタリック」と呼ばれるオレンジのボディーカラーをまとったメガーヌR.S.ウルティムで、最高出力300PS/6000rpmの1.8リッター直4直噴ターボエンジンに6段EDC(デュアルクラッチ式AT)を組み合わせたモデルである。車両本体価格は659万円。ルノースポールを名乗る最後のラインナップであり、全世界で1976台のみが限定販売される希少性もセリングポイントだ。
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意図したとおりに加減速できる
軽井沢に向かう道中で、メガーヌR.S.ウルティムについてアレコレ聞いてみることにした。大和は「純粋に走りを楽しむためにクルマを愛車に選んでいる」という。クルマの使用用途は「ドライブ!」で、「実用性は無視してるのでクルマに合わせて生きてます。ウフフフフ」と言い切れるあたり、やはりただの庶民ではない。現在の愛車A110 GTは、「見た目がカワイイ。軽量・小型でそこそこ速いという理想像をぜんぶ完璧に満たしてます」と、その購入動機を語る。どうやら小さくてカワイイ系のフォルムが琴線に触れるらしい。
早朝、出発前にA110 GTと同じエンジンをフロントに積むメガーヌR.S.ウルティムを眺めた大和は、そのエクステリアデザインを「ハデめのオレンジ(のボディーカラー)がスポーティーでステキです。デカールも特別感がありつつオーバーじゃないところに好印象」と評価。愛車では実用性をさほど重視しないが、「ハッチバック、便利そうでいいですよね」とも言う。
運転席に収まると、「アルカンターラ、大好きなので(気分が)アガります。アルカンターラのバケットシートは滑らなくて快適。ハンドルもアルカンターラはカッコよくて好きだけど手が触れる部分がやっぱり汚れやすいので、部分的にナパレザーなのは気が利いていると思います」と述べ、後ろを振り向きながら「リアシートもあってA110よりずっと便利なのにだいぶお安い」とコメント。いくぶん上から目線的なのは気になったが、これも通常仕様。感想は人それぞれ、収入もクルマにかけられる予算も情熱も人それぞれである。
首都高を経て外環、関越と進むルートは、休日の早朝ということもあってクルマの数は多いものの、流れは比較的スムーズだ。「コンパクトだし(最低)地上高も低くないし、街なかでは何も気を使わずに運転できてラクチン。高速も意図したとおりに加減速が行えるので、一気に長距離を走っても全然疲れませんね」と大和。その調子で、帰路も安全運転でよろしくお願いします。
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気持ちのいいサウンドがキャビンを満たす
軽井沢での所用を済ませ、帰路は峠道を選んで走りつつ上信越道の松井田妙義ICから高速道にアクセスするルートを進んだ。後席には、大和が「仕事終わりに絶対立ち寄ろうと決めていた」という軽井沢のおしゃれなパン屋さんで選んだこだわりのバゲットと、私の希望でわざわざJR信越本線の横川駅に回って購入した峠の釜めしが収まっている。
「リアシートに買ったものをポンポン気軽に積めるのが最高ですね。A110では出先で何かを買ったら、どこにどう何を積もうか考えますから」と大和は言う。そういえば自動車ライターの佐野さんは「ホットハッチとは、スポーツカーはだしの走りを、実用車の気安さと使い勝手とで両立し、しかも割安な価格で提供するのが、本来の魅力」とwebCGで語っていたが、A110とメガーヌR.S.ウルティムの関係は、1150万円と659万円という価格を別にすれば、まさにそんな感じかもしれない。
「リアシートだけじゃなく運転席まわりも広く、収納も豊富。操作系も一般的なデザインなので、普通に何も我慢せずにクルマに乗れますね」といいつつシフトパドルを操作。ワインディングロードでは時折気持ちのいいエキゾーストサウンドがキャビンを満たす。排気音やエンジン音は、「A110がお祭り騒ぎなので(笑)、それに比べると硬派な感じ」なのだそう。
あいにくのウエット路面ながら荒れた山道で安定したコーナリング姿勢が保てるのは、60km/h未満では逆位相、60km/h以上では同位相となる後輪操舵システム「4コントロール」を擁するシャシー性能の高さと、メガーヌR.S.ウルティム用に専用開発されたブリヂストンの「ポテンザS007」タイヤの恩恵だろう。メカニカルグリップの高さは、助手席にいてもわかる。
「万能選手なので全人類におすすめ。スポーティーな4ドアハッチは最強です。しかも、A110では選べないMTも選べるのはうらやましいですね。ウフフフフ」と大和。実用車をスポーツカーに仕立てたモデルのなかでもメガーヌR.S.は屈指の速さと楽しさを誇る。道中ずっと、飽きることなくステアリングを握り続けたスポーツカー貴族の態度こそが、まさにその証明であろうか。
(語り=大和ひろ美/文と写真と編集=櫻井健一/車両協力=ルノー・ジャポン)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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