第3回:ガチの体育会系ハッチバック「メガーヌR.S.ウルティム」は家族サービスをこなせるか?
2024.11.22 ルノー・メガーヌR.S.日常劇場走らせなくても大興奮
「わぁ……!」
自宅前にたたずむ「メガーヌR.S.ウルティム」を見るなり、4歳の息子は喜色満面になった。
「オトーサン、このクルマはめちゃくちゃ速いんだよ!」
予備知識なしの初対面で、どうしてそんなことがわかるのか? ぐるぐる回って方々から車体を眺めたあとは、エンジンフードを開けさせたり、ホイールをじっくり観察したり。鮮やかなオレンジ色のボディーカラーとブラックのタトゥーを除けば奇抜というほどでもないルックスだけれど、この高性能ハッチバックの内に秘めたるスゴさは子どもにも伝わるらしい。
webCG読者の皆さまならご存じのとおり、メガーヌR.S.は世界最強・最速クラスのFF車である。屈指の難コースとして知られるドイツ・ニュルブルクリンクでの「ホンダ・シビック タイプR」とのタイトル争いは、クルマ好きには広く知られるところだろう。だからというわけじゃないが、今回これに乗れる機会を得たわがファミリーは、4歳男児と1歳女児が楽しめそうなテーマパーク「東京ドイツ村」(千葉・袖ケ浦市)に出かけることにした。
「ね、かっこいいね!」なんて子どもと顔を見合わせている妻はわかっていないようだが、このクルマは前述のとおり、生粋の体育会系だ。後席用のドアも備わっていて、みんなで乗れるのは確かだけれど、果たして家族サービスに使えるのか? 3人がワクワク出発を待つなか、ソワソワしていたのはオトーサンだけ……。だが、結論からいえばそれは杞憂(きゆう)だった。
「シャシーカップ」と呼ばれるハードな設定のシャシーについては、すっかりハイテンションな同乗者はまるで気にならないらしい。レーシーなデザインの助手席も、妻は「快適」という。張り出したサイドサポートは「包まれ感があっていい感じ」。起毛のアルカンターラは「触り心地がよくて、つるつる滑らないのも好印象」だそうな。ホッ。
だからといって、軽い気持ちでメガーヌR.S.のポテンシャルを引き出そうとするのは、家族のお出かけではNGだ。後ろにおさまる息子の「エンジン出して(=加速して)!」というリクエストについ気をよくして踏んだら、隣からはすぐ「止めて!」のサイン。自慢のローンチコントロール機能も、Gに敏感な同乗者に配慮しつつ、しかるべきロケーションで試しましょう。
驚いたのは、周囲からの注目度だ。素性を知ってか知らずか、並走する「メルセデス・ベンツGクラス」や「トヨタ86」のドライバーが、振り向いては食い入るように見ている。そう、このクルマはただの5ドア車じゃないんですよ。今日は飛ばさないけどね。
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“走り屋パパ”には救いの一台
東京湾アクアライン(東京湾横断道路)を越えて房総の内陸へと向かう車内は、意外に快適なだけでなく、安心感に包まれてもいた。
「スポーツエキゾースト」なんて物騒なものを装着している割に、メガーヌR.S.ウルティムの排気音はほどよく抑えられていて、高速巡航時でも後席の子どもと自然に会話できるのがいい。その後席は、ISOFIX対応。空間的な余裕もあるおかげで、大きめのチャイルドシートやジュニアシートも楽に扱える。なにせこれらのアイテムは、取り付け作業から乗車後のケアまで、そこそこの広さを要求するのだ。
広いといえば、総面積91万平方メートル、サッカーコート127面分という東京ドイツ村の開放的な雰囲気も印象的だった。ちまたでは「大してドイツらしくない」なんて声も聞くけれど、広大な芝生の丘に素朴な洋館(っぽい建物)が点在する様は、かの国の佳(よ)き田舎を思わせる。
その広さゆえ、方々に配置されたアトラクションを楽しむためにマイカーを走らせて長い外周路を移動するというのも、なんとなくニュルっぽい。園内の制限速度は20km/hだけれど。
メガーヌR.S.でヤル気になったのか、観覧車や足漕(こ)ぎボート、パターゴルフなど25種類ほどメニューがあるなかで、息子がやりたがったのは“速い乗り物”ばかりだった。「ブタ天キッズコースター」というジェットコースターには連続6回も乗り、さすがに疲れたろうと思ったら、大斜面を滑走する「芝そりゲレンデ」に挑戦。好みの自転車でコースを回る「おもしろ自転車」はスリル系でもないけれど、イエローのレーシングカータイプをチョイスして大満足。将来のクルマ趣味って、こういう体験から定まっていくのだろうか?
気がつけば、すっかり日も傾いてきた。おびただしい数のクルマが並ぶ駐車場に目をやると、「オランジュトニックメタリック」の車体色がまばゆいメガーヌR.S.はすぐに見つかった。最後の最後に、へとへとになりながら「マイカー探し」をしなくていいのは助かる。大柄なベビーカーや、両手に抱えた土産をストレスなく収納できるのも、このクルマの美点だろう。
メガーヌR.S.にしろシビック タイプRにしろ、高性能ハッチバックは「運転の楽しみをあきらめたくない」「だからミニバンだけはイヤ」「でも家族のためにクルマは必要」と条件だらけのオトーサンにとって、“救い”ともいえる存在だ。
かのニュルブルクリンクでの速度記録は、たしかに輝かしい。でも、第一級の走行性能を持ちながら、こうしてお出かけする家族を笑顔にしてくれる“懐の深さ”こそが、メガーヌR.S.ウルティムの宝じゃないか。妻子が満足そうに眠るなか、家路をたどる車内でしみじみとそう思った。
(文と写真=webCG 関 顕也)
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関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
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